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恐怖満載の鬼ごっこ。まだまだオルチェの体力はある。が、肝心のフレイヴの体力が追い着いていないようで――。
「フレイヴ、大丈夫?」
「う、うん……!」
ナズーのあとを追いかけて、カムラの剣で叩き斬らなければならないのに。追い着かない! これはオルチェと大口ナズーの足が速いからだろうか。つくづく自分がただの凡人だと思い知らされている気がした。同時にカムラはフレイヴに応援をするだけしかできないのか、と悔しそうにしていた。自分はある程度の行動意思しか示せないただの剣。もっと、人間みたいに――速く駆けることができる動物のような姿になれないだろうか。
ふと思い出す、通りすがりの町でついでにこなした依頼――あのときはフレイヴの意思か何かで大きさを変えることができていた。
――もしかしたら……。
可能性はなきにしも非ず。やってみる価値はあるはずだ。フレイヴが動物に騎乗したことがあるならば。
「フレイヴ! こんなときに訊くのもなんだけど、動物に乗ったことある?」
「は?」
当然の反応が返ってくるが、フレイヴは何か策でもあるのだろうか、と気付き「あるけど」と苦しそうに答えた。
「昔、農業馬に……」
「それっ! それだぁ! フレイヴ、想像力を掻き立てて! これたただの剣じゃない。でかい剣に変形させたことあるからわかるはず!」
どことなくカムラの作戦に気付いた様子のフレイヴは「うん」と頷いた。なるほど、彼女は剣としてだけでなく、自分が思い描くものにもなるのか。彼は故郷を思い出す。何度か乗せてもらったことのある農業馬。ぼくに少し懐いていたあの子――。
オルチェはフレイヴがただの少年だと理解はしているつもりだった。それでもクラッシャーとなった存在。期待はしているのだ。自分よりも強い存在として成長する、と。
【この世にクラッシャーは存在しません】
あの光る石像はそう言っていた。だが、それだけではない。話には続きがある。オルチェは大口ナズーの食み攻撃をかわしながら思い出す。
【この世にクラッシャーは存在しません】
【じゃあ、俺の存在意義は?】
【しかし、名なしは存在します。この意味、わかりますよね?】
最初は光る石像の言っている意味を理解できなかったが、大人になるにつれてその意味を段々理解していった。クラッシャーはこの世に存在しない。しかし、その対抗馬である名なしは存在する。それならば、生まれながらの囮役である自分はどうすればいいのか。答えは簡単だ。
クラッシャーを自分自身で見つけること。魔王は名なしと同等の存在。それを狙って、最初はカムラをクラッシャーとして仕立て上げようと考えていた。隣にいた礼儀正しいフレイヴはどうでもよかった。だから、敵でもなければ味方でもないとだけ言っておいた。色々と誘導している内に、忘れられた森で魔王と出会った二人。魔王は彼女ではなく、彼をクラッシャーだと指名したのだ。予定外、ではあるが――フレイヴには光る何かを見出さなければならないと、と強引に納得しようとしていた。
その結果がこれだ。
「しっ――!」
――しまった!
オルチェが逃げた先には自力で越えられそうにもない、建物の壁。大口ナズーはそこまで来ている。「あそぼぉ」と連呼しながら突進してくる。流石の彼でもこのナズーとの真っ向勝負は不可能。
――ここまで、か。
諦めるしかない。ここでナズーになるのか。いや、というかクラッシャーの囮役ってナズーになるのか、これ。様々な万感を抱きつつも、オルチェが迫りくる大口に終わりだと目を閉じようとするのだが――。
「させるかぁあ!」
大口ナズーはオルチェを食べることは叶わず、上から何かに踏みつけられた。何事か、とその上を見上げると、人生で一番驚いたとでも言うように唖然とする。
オルチェを助けたのは当然フレイヴ、ではあるが――その彼は馬ではあるが、無機物に騎乗していたのだ。そして、それはカムラの剣と同様に美しい光を帯びていた。これはまさしく救世主とでも言うべきか。




