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子どもはどこへ行ってしまったのだろうか。そうアルフレッドは暗闇に紛れ込みながらあの子の心配をしていた。できることならば、自分の家へと一目散に帰って欲しいもの。
「お、おーい……」
ナズーが飛び出してきませんようにと祈りながら、半壊した建物の中を覗き込む。真っ暗である一言に尽きるのだが、これは暗闇に目が慣れたせいなのだろうか。建物の中が多少はわかるように見えていた。
中へと入ってみる。なんとなくではあるが、奥の方が明るいように見えた。足元を見ると、外へと向かって影ができている? いや、この建物の中自体が外に向かって影ができていた。今宵は月をまだ見掛けていない。向こうの窓辺にはさぞかし美しい月でも出ているのだろうか。こんな緊張感のある状況すら無視してまでも。
確認のため、建物の奥へと足を踏み入れた。依然として子どもは見当たらない。奥の部屋に行けば、月と会える。そう思っていたのだが――。
奥の部屋にいたのは月でもなければ、あの子どもでもない。ましてや、ナズーでもなく――。
「おや、こんばんは」
そこに一人の人間がいた。建物の中が妙に明るいのは月のせいではなかったのだ。この人間がつけていた明かりだったのである。しかも、アルフレッドにとって彼は見覚えがあった。曖昧ではあるが、どことなく声だけはしっかりと覚えている。そして、あちらの方もである。
「あなたは確か……」
「島自治区の遺跡以来、だったか」
そう、その人物は国の調査員なのである。ここで何をしているのか、と訊くのは野暮なのかもしれない。彼は国に任命された調査員。ということはあの機密文書にあった委員会の人間の可能性だってある。だが、アルフレッドの代わりに調査員が「ここでいかがなされましたか」と設問をしてきた。
「あの子たちとは別行動ですか?」
「……ああ、まあ」
何かが引っかかる。しかし、この捨てられた町にナズーが潜んでいるという恐怖心のせいでその疑問点は引っ込んでしまった。こればかりは仕方ない。調査員と話をしていれば、思い出すかもしれないから。
アルフレッドは「子どもを見なかったか」と調査員に質問をした。
「多分、二歳? 三歳。いや、もっと上か? 小さな子どもだと思うが……」
「この時間帯にですか?」
調査員は怪訝そうに訊ねてきた。その気持ちはわからなくもない。なぜならば、自分たちだって現れたその子どもに首を傾げていたのだから。
「多分、近くの町に住んでいる子どもだと思うんだけど。裸足で来たみたいでな」
「大変ですね。ここら辺、ナズーが出るのに」
「そう、俺はそれを心配してきたんだ。その様子じゃ、見ていないみたいだな?」
「ええ。あなたが来るまで誰とも会っていませんから」
「わかった。ならば、子どもを見掛けたら家に帰るように言い聞かせてくれ。俺もまだ探しているから」
「わかりました」
正直言って、調査員と長話をする気にはなれなかった。この男が好きとか嫌いとかの次元ではなく、単純に子どもの安否が気になるのだから。アルフレッドはそうして建物を後にするのだった。




