135ページ
いきなり現れて、いきなり抱き着かれて、いきなり「遊ぼう」と誘われたカムラは固まっていた。どう接したらいいのか、わからないのだ。ちびっ子相手はしたことがなかったから。
「は? え? ちょ、ちょ……いきなり何?」
戸惑うカムラは子どもを引きはがすということは考えられないようだ。いや、子どもに危険性はないはずだ。殺気もなければ、負の感情は一切感じられない。強いて言うならば、無邪気な雰囲気がその場に漂うのである。子どもは「ねぇ」としがみついてくる。
「おねえさん、あそぼぉよぉ」
「いや、遊ぶって言ったって……」
こんな危険極まりないところで遊べるかい。まだナズーは見掛けていないからいいのだが、こういう風に油断した隙にやられてしまうだろう。それだけは勘弁だ。ていうか、嫌だ。
「えぇ、あそぼぉよぉ。ねぇ、あそぼぉ」
このお子様は危機管理がない。それが故に、わがままを言ってくる。しばらくの間、固まっていた男三人であったが、ようやくフレイヴが我に戻った様子で「きみ」と呼びかける。それに子どもは耳を傾けてくれているようだ。
「ここは危ないから遊べないよ。って、ここまでどうやって来たんだろう?」
「ていうか、この子裸足じゃない?」
「え?」
裸足で近くの町から来たとでも言うのか? ちょっと待って欲しい。いくら町からやって来たにしても、この町の周囲は数人数の軍人が他の町に被害が及ばないように巡回警備をしているはずだ。それは四人も見ているのだから。
謎の子ども。だが、自分が裸足であることを気にすることもなく、「だいじょおぶ!」と自信ありげ。
「よるだからへーき。ねぇ、あそぼぉ。ねぇ、おねえさん」
「いや、その夜だからっていう発想はどこから来た? ていうか、どの道危ないから」
「でも、おねえさんはへーきだっていってたもん」
子どもの発言に一同はカムラを見る。その視線に気付いた彼女は「違うし」と全力で否定する。
「夜遊びを教えるのは、もうちょい大きくなってからだし!」
「いや、教えるのかよ」
アルフレッドが鼻白んでいると、子どもは「それにねぇ」と嬉しそうな声音で言う。
「よるはおれのじかんなんだよ!」
「俺の時間?」
それはどういう意味か、と訊ねようとしたときだった。急に周りが変な空気になるのがわかった。いや、わかったところでやるべきことは一つ。何かを感じ取った一同はカムラの後ろを見張る。
「よるはみんなねているから」
嫌な予感がする中、子どもは自由奔放に動き回る。カムラから離れて――ややあって、外の方へと行くのだが――。
「伏せろぉっ!!」
オルチェの鋭い大声に誰もが地面の方へと伏せた。その直後、開いていた天井から大口を開けたナズーが出現する。この廃墟ごと飲み込まんとする勢いで齧りついてくるのだった。




