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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第十章 神様の日記と刺客◆
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119ページ

 カムラの本を盗んだ女性、車掌に扮したケレントの手下。彼らはまだ諦めちゃいない、とオルチェは言った。現在、フレイヴたちは騒ぎを聞きつけてきた車掌に軽い事情を説明し終えたところだ。彼らはあのケレントの手下と違って、あまりしつこく訊いてこようとしなかった。列車の中に泥棒がいた、それだけの認識をして警備強化すると言い残しただけなのである。そのため、最後の騒ぎがあった車両内には三人とカムラしかいなかった。


「しっかし、二人とも。よくあの車掌が偽者だってわかったな?」


「一人じゃないだろうしな、バックヴォーンの手下の襲撃ぐらいは」


 こちらに対して攻撃を仕掛けてきた理由は明白だった。取引成立したはずのカムラの本。それがないのが原因であるからだ。実際は彼女が脱走しただけなのだが、ケレントはフレイヴたちが奪還したと大いに勘違いしているに違いないだろう。それだからこそ、こうして襲撃があった。


「一人じゃないなら、また来る可能性もあるってことですよね?」


「そうなるな。俺としては別に盗られても構わないとは――」


 オルチェがそう言いかけたとき、フレイヴはじっと怪訝そうに見てくる。そういう言い方は許さない、とでも言いたげ。この視線に耐えきれなくて「すみませんでした」と小さくなる彼にカムラは嘲笑する。


「ばかだな。ちったぁ、自分の立場を考えれば?」


「ンだと! お前こそ、自分に置かれた状況を考えやがれ! 言っとくけどな、俺はお前のために動いたわけじゃねぇ、フレイヴのためだからな!」


 オルチェのこの言葉に偽りはなかった。事実そうである。もしも、フレイヴがこの場にいなかったら、カムラを必要としていなければ――これらの条件に当てはめれば彼女を無視していたのだから。なかったことにしていたのだから。だが、ケレントが何を考えて彼女を狙っているのかはわからないのであるが。


「バックヴォーンは何が狙いなんだろうな」


 このまま三人に引導を渡したままだと話が進まないと思ったらしい。軌道修正するかのごとく、アルフレッドは話題を変えた。というか、こういう疑問こそ自分たちが知るべきではないだろうか。向こうはカムラの何かを知っているからこそ、強奪しようとしているのだから。


「お嬢を狙っているにしてもだよ。お嬢が武器になることを知っていたってことしか思いつかん。その武器、ナズーを一刀両断できるんだろ?」


「武器……。ぼく、裏社会のことを詳しく知りませんけど、ナズーを倒す武器はたくさん持っているはずですよね?」


「まあ、だろうな」


 カムラを奪おうとするケレントの狙いがそれぐらいしか思いつかないフレイヴとアルフレッドだったが、ここで彼女が「もしかしたら」とページを開き出す。


『神様の日記を見つけようとしているかもしれない。魔王を探す手掛かりとして、あたしを利用としているのかもしれない。』


「えっ」


『裏社会の人間だからこそ、もっと自分が思い通りに世界を動かしたいからって狙っているかも。』


 その言い分はわからなくもない。なぜって、神様の日記は世界の歴史や事実を改変できる代物。革命家や政治家は喉から手が出るほどそれを欲しがるに違いないから。それほどまでに人の心を動かせるような道具とも言えるだろう。この憶測に珍しくオルチェが同意した。彼は「そうだろうな」と苦笑いをする。


「俺たちの敵は魔王だけじゃない。ケレント・バックヴォーンもだってことだ」


 これからはナズーに気を張るだけではない。ケレントの刺客に気をつけなければならないということだ。それに気付いたフレイヴは絶対に手放すものか、と高くそびえ立つ建物の群集を見据えるのだった。

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