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第4話 仕返しするなら木っ端微塵に

深夜。王都の喧騒がようやく静まり返る頃、宿舎に戻った俺は、ベッドに倒れ込んだ。

国家壊滅級の巨竜を指一本触れずに葬り去り、はるか上空から逃亡貴族の馬車を完全ロックする。

規格外の魔力を連続で行使したのだ。肉体的な疲労よりも、精神的な気怠さが勝っていた。


「……ふわぁ。さすがに疲れたな」


着替えもそこそこに、枕に頭を沈める。

目を閉じれば、数時間前に腕の中でかすかに震えていたエレノア様のドレスの感触と、あの甘い髪の匂いが、不思議と脳裏をよぎった。


――だが。

俺が深い眠りに落ち、完全に意識を失ったその瞬間。

(あるじ)の就寝を検知した俺の魔力が、無意識のうちにパッシブスキルを起動させる。


(自動迎撃結界:常時展開・睡眠時パッシブモード移行)


ベッドを中心に、半径3メートル。

空気の対流すら計算された、完璧な【絶対不可侵の透明球】が、俺を包み込むように静かに完成していた。

その寝室の窓が、内側から音もなく開く。

漆黒の夜の闇に紛れて滑り込んできたのは、気配を完全に消した三人の「黒い影」。

ゼクス公爵が全財産を叩いて雇い入れた、裏社会でも悪名高い一級の暗殺者たちだった。


(……標的、完全に熟睡中)


暗殺者たちは互いに目配し、うなづく。

その手にした呪毒の短剣を、躊躇なく俺の胸元へと突き下ろした。

超一流の刺突。並の魔術師なら、障壁を張る暇すらなく心臓を貫かれる神速の刃。

――スン……。

しかし、刃が俺の皮膚に届くよりも遥か手前、空間の境界線に触れた瞬間。

暗殺者の男は、自分の腕が「ビシィッ!」と強烈な力で固定されたかのような錯覚に陥った。


「なっ……!?」


驚愕に目を見開いた刹那、俺の結界が「主への明確な殺意」を検知し、カウンターの法則を書き換える。


パキィィィィィン!!!

(睡眠時迎撃モード:カウンター機能・質量100倍反射)


「が、ぶふぉっ!?」


暗殺者が己の全体重と殺意を込めて踏み込んだ、その突進の衝撃。それが寸分違わず「100倍の質量」となって、男の細い肉体にそのまま叩き返されたのだ。

男は、自分の放った踏み込みの力によって己の全身の骨をバラバラに砕かれ、悲鳴を上げる暇すらなく壁へと激突し、肉塊となって絶命した。


「な、なんだこれは!? 起きて……いや、本当に寝ているぞ!?」


「化物め、死ねぇ!」


仲間が一瞬で消滅した恐怖に狂った残りの二人が、それぞれ最大出力の爆破魔法と、部屋ごと切り刻む風刃のスキルを俺に叩きつける。

だが、部屋が目映い光に包まれたのは一瞬だった。

すべての破壊エネルギーは、俺の結界の表面に触れた瞬間に内側へと100%遮断・反転された。


ドォォォォォォォン!!!


結界の外側だけで、何千倍にも増幅された自滅の爆発が吹き荒れた。

あまりの超高圧の衝撃に、暗殺者たちは自らの魔法の熱量によって塵一つ残さず蒸発していく。

もちろん、俺のベッドには風一つ、衣服の埃一つ届かない。

俺はただ、心地よい温かさに包まれながら、静かに寝返りを打っただけだった。


「……ふわぁ」


翌朝。

小鳥のさえずりで気持ちよく目を覚ました俺がベッドから起き上がると、部屋の床には、焦げ付いた床と、持ち主を失った数本の短剣だけが転がっていた。


「……朝から部屋が汚れてるな。まぁ、いいか」


俺はいつも通り、ポケットに両手を突っ込んだまま、昨夜の戦後処理の報告のために団長執務室へと足を向けた。


「――そうですか。ゼクスが、あなたに暗殺者を」


報告を聞いた瞬間。

机に向かって書類に目を通していたエレノア様の、ペンを握る手がピタリと止まった。

ゆっくりと顔を上げた彼女の表情からは、一切の血の気が引いていた。

普段の冷静沈着な「鉄の女」の仮面が、音を立てて崩れ落ちていく。

その青い瞳の奥に渦巻いていたのは、昨夜の巨竜に見せた冷徹さなど生ぬるいほどの、ドロドロとした『底なしの怒りと狂気』だった。


「エレノア様……?」


「私の……大切な、大切なアルトに……。あのドブネズミどもが、その汚い手を伸ばそうとした……?」


カタカタと、エレノア様の全身が激しい怒りで震え始める。


「エレノア様、おちついて。俺はなんともない」


俺は少なからず驚いた。彼女にとって、俺の存在はどういうものか、聞かなくても分かる気がした。

単なる優秀なバディという枠を遥かに超えていた。

自分の命を救い、誰よりも信頼できる、絶対に失ってはならない「世界の中心」のように俺をみてくれている。

バァン!!! と、エレノア様は猛然と机を叩いて立ち上がった。

その衝撃で高級なインク瓶が倒れ、書類が黒く染まっていくが、彼女は一顧だにしない。


「ガイル!! 聖騎士団の全軍を招集しなさい! 今すぐにです!」


「は、はいっ! ど、如何なされましたか団長、そんな恐ろしいお顔で……!」


扉の外に控えていた副団長のガイルが、見たこともない団長の「般若のような激怒」に顔を青ざめさせる。

エレノア様は壁に掛けられた愛用の細剣を乱暴にひったくると、王宮全体を震わせるほどの凄まじい殺気を放ちながら言い放った。


「公爵家の権力、我が実家の武力、そして聖騎士団の全戦力をもって、ゼクスの一派を文字通り『根こそぎ』叩き潰します。一人残らず、この国から、この世から消し去りなさい!」


「だ、団長!? いくら相手が罪人とはいえ、事前の審議もなしにそんなことをすれば、下手をすれば国を敵に回すことに――」


「構いません!!


これには俺も言葉を失った。

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