第八章 愛憎の行方①
間違いなく敵対している二派。
本来ならば、会談など設けるような間柄ではない。
すぐさま開戦となってもおかしくなかった。
だからこそ、果たして何から話すべきなのか。
流石に少しの間、誰もが黙り込んでいたのだが、
「……やれやれだね」
不意にザーラが頭を掻いて口を開いた。
「黙り込んでいてもしょうがないね。まずは改めて自己紹介でもしようかい?」
「……そうですね」
コウタが苦笑いを浮かべた。
「思い返せば、あなたとは、ほとんどまともな会話をしていなかったですし」
「そうさね。まあ、ここには初見の相手もいるようだしね」
そう言って、ザーラはコウタの後ろに控える大柄な少年と、黒髪の少女を見やる。
「あたしはザーラだ。ザーラレット=レガシィだ」
足を組み、ザーラは名乗った。
「あたしの左にいるのがエリス。右にいるのがマイアだ。二人は知っているか。後ろにいるフード男がフェイ。長い黒髪がツルギさ」
「ボクも改めて名乗ります」
それに対し、コウタはザーラを見据えた。
「コウタ=ヒラサカです。右側にいる子はリノ。左側はリーゼ。二人のことはすでに知っているでしょう。ボクたちの後ろに立つ少年の名前はジェイクです。そして黒髪の子がアヤちゃ……アヤメです」
「オレっちとアヤメ嬢ちゃんは、そっちのフード男さんとは面識があるな」
と、ジェイクが告げる。
フード男と呼ばれたフェイは「ああ」と頷いた。
「《水妖星》殿と初めて出会った夜だな。雑兵ばかりとはいえ、盗賊どもを塵のように蹴散らしていたな」
「……あなたが魔獣使いですか?」
コウタがフェイを見据えて尋ねる。
それから一拍おいて、
「……よければフードを取って頂けますか?」
「……ああ」
コウタの要望に、フェイは頷いてフードを外した。
露わになる素顔。精悍さはあるが、ごく普通の青年の顔だ。
けれど、その顔に対してコウタは、
「……なるほど」
小さく呟いた。
「本当によく似ている。あの男に」
続けてそう告げた途端、
「「「―――ッ!」」」
エリス、マイア、ツルギが微かに息を呑んだ。
途方もない圧力が部屋を覆ったのだ。
まるで固有種の魔獣と対峙しているかのような威圧である。
それは目の前の温厚そうな少年から放たれていた。
(……こいつはとんでもないね)
ザーラも顔には出さず、改めて理解する。
この少年は、間違いなく怪物なのだと。
それも、下手をすれば自分の師にさえ匹敵するほどの――。
「……そう威圧しないでくれ」
そんな中、フェイが言う。
「私があの男に似ているのは私自身も不本意なのだ」
「……え?」
コウタは少し驚いたように目を瞬かせた。
「あ。失礼しました。顔に出ていましたか?」
コウタは自身の顔に触れた。どうやら威圧している自覚がなかったようだ。
ザーラは呆れたように苦笑し、エリスたちは表情を強張らせた。
思わず不快感を隠しきれなかった。
たったそれだけのことで固有種に似た圧力が出てしまったらしい。
「君があの男を憎み、恨んでいることは聞いている」
フェイが言葉を続けた。
「しかし、私はあの男と同一ではあるが別人だ。切り捨てられた枝に過ぎない」
「……そうですか」
コウタは表情を真剣なモノに戻して、双眸を細めた。
「あなたはやはりあの男の複製体なのですか?」
「直球だな」流石にフェイも苦笑を浮かべた。
「あの男をよく知るのならば、当然の推測か。《水妖星》殿もいるしな。その通りだ。私はあの男の薬物開発のための試験体だ」
一拍おいて、
「ただ、用済みになって廃棄処分にされた個体だがな。幸いか、もしくは不幸か。私は他の個体よりも実験の影響が少なく、今も生き恥を晒しているという訳だ」
自嘲気味にフェイはそう語った。
「……フェイ」
それに対し、ザーラがフェイの方に視線を向ける。
そして眉をしかめて、
「そいつはあたしも初めて聞く話さね。もっと早く言え。まあ、ともかく」
立腹したように腕を組み、ザーラは告げる。
「あんたがどう自分を思っていようが、今はあたしの参謀なんだ。自分を雑に扱うことは以後、禁止だからね」
「……善処しよう。我が団長」
フェイはザーラにそう返してから、改めてコウタを見やる。
「あの男には私も思うところがある。正直に言えば、ザーラが抱く感情とは真逆のモノだと言ってもいい。それだけに同一視は控えて欲しい」
「……はい。失礼しました」
コウタは謝罪する。
「一応の確認でしたが、お詫びします」
それから、コウタはザーラ一派に視線を向けた。
「エリス=シエロ先輩と、マイアさんとも面識はあります。それであなたは――」
コウタは、ザーラの奥に控えるツルギを見据える。
「傭兵ですね。騎士よりも戦闘向きの気配だ」
「……お前こそ何なのだ」ツルギは険しい表情でコウタを見据えた。
「こうして、ただ対峙しているだけで全身が緊張で強張る。お前のような化け物は戦場でもそうはいないぞ」
「ボクはそこまで怪物ではないですよ」
コウタは苦笑を浮かべた。
「もっと強い人間はいます。それこそボクの兄。それと、ラゴウ=ホオヅキもたぶん今のボクよりもまだ強い」
「……比較対象に《双金葬守》や暴虐の魔人の名が出るだけで怪物だ」
ツルギはそう吐き捨てた。
ザーラの護衛であると自負しているからこそ、ずっと嫌な汗が滲んでいた。
それに対して、コウタはかぶりを振った。
「それでも言いますが、ボクは怪物じゃない」
一呼吸入れて、
「少なくとも、レオス=ボーダーに比べればです」
コウタは指を組んでそう告げる。
そして、
「自己紹介もここまでです。改めて本題に入りましょう。ザーラさん。ボクはあなたの企みを知りたい。そしてあなたはあの男について知りたいのでしょう?」
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