第七章 獅子と悪竜の対峙④
「当家の別荘へようこそおいでくださいました」
レイハート家の別荘にて。
エントランスホールで、ザーラたちを出向かえたのはリーゼだった。
「では、こちらへ」
そして先行して、ザーラたちを案内する。
「へえ。お嬢ちゃん」
後に続きつつ、ザーラはリーゼの背に声を掛ける。
「もう体調はいいのかい? 結構負担があったと思うんだけど?」
「……ええ。大丈夫ですわ」
リーゼは、少しだけ歩く速度を落とした。
「コウタさまにはいささか以上にご迷惑をおかけしてしまいましたが、体調は万全です」
「ふ~ん……」ザーラはさらに探る。
「けど、暴走はしたんだよね? あんたを止めたのはやっぱり坊やなのかい? もしかして生身でかい?」
「ええ。その通りですわ。恥ずかしい限りです」
リーゼは振り返らずに答える。
「主人の手を煩わせてしまうとは。あなたには本当にしてやられましたわ」
「……まあ、あたしの思惑とは大分違ったけどね」
ザーラは内心でやれやれと感じた。
あの薬物で暴走した人間の恐ろしさは、エリスの時でよく知っている。それを生身で取り押さえるとはとんでもない話だ。
ふと、傍らに付き従うツルギを一瞥した。護衛としてツルギにも同行してもらったが、やはり対人戦は避けるべきだった。
「……あの子は何者なの?」
その時、ザーラの同行者の一人であるエリスが口を開いた。
「正直に言ってあの子は怪物だわ。レイハート家縁の子なの?」
「いいえ。あの方は村民だそうです。こればかりは譲れないといったご様子で、いつも頑なにそう言い張っていますわ」
そこでリーゼは小さく嘆息した。
「確かに、あの方が小さな村のご出身なのは事実です。貴族ではありません。ですが、あの方の出自においては一つだけ教えておきましょう」
リーゼは足を止めて振り返った。ザーラたちも足を止める。
「グレイシア皇国の《七星》はご存じですか?」
その問いかけにザーラたちは眉をひそめる。
「そりゃあ知ってるさ。子供でも知る有名人たちだしね」
ザーラがそう告げると、リーゼは微笑み、
「当代の《七星》の第三座。《双金葬守》アッシュ=クラインさま」
一拍おいて、
「その方こそが、コウタさまの実のお兄さまですわ」
そう告げて、再び前へと歩き始める。
ザーラたちは大きく目を見張っていた。
もと騎士であるエリスにいたっては、ポカンと口を開けていた。
「……これもとんでもないビックネームよ」
マイアが呻くようにザーラに告げる。
「化け物揃いの当代の《七星》の中でも最強だと言われてる人物よ。騎士になる前は暴虐の魔人にも劣らない有名な傭兵だったわ」
「……拙者も聞き及んでいる」ツルギも険しい表情で呟いた。「まさか戦場において恐れられたあの男の血族とは」
「《双金葬守》か。これはまた因縁深い名前だな」
と、屋内であってもフードを深くかぶり、歩く音もなく影のようにザーラの傍に立つフェイも呟いた。
「レオス=ボーダーを仇敵だと公言していた男だ。あの男が潰した村の生き残りだという話だった。ただ、噂では、あの二人は何故か互いに遭遇する機会がなく、一度も対峙したことがないと聞いていたが」
一拍おいて、
「いずれにせよこれから会うのは怪物の血族だ。警戒は怠らないことだ」
「まあ、ここまで来たらね」ザーラは肩を竦めた。
「あの坊やが化け物なのは最初から分かっていたことさ。まあ、そこに根拠が紐づいただけって話さ。警戒度は最初からMAXだよ」
そう嘯いて、ザーラはリーゼの後に続いた。
そうして一分後。
ザーラたちは応接間に通された。
大きなソファーとローテーブルが置かれた部屋だ。
そこにはザーラたちを迎える者たちがいた。
まず今回の会談の主催者であるコウタ=ヒラサカ。
次に《水妖星》リノ=エヴァンシード。
さらに二人いるが、ザーラは初めて見る人物たちだ。一人は大柄な騎士服を着た少年。もう一人は黒髪の少女だ。
コウタ=ヒラサカはソファーの中央に座り、リノ=エヴァンシードはその右隣に座っている。初見の少年と少女はソファーの後ろに控えていた。
(この二人はいざっていう時の戦闘要員ってとこかね)
ザーラはそう判断する。
「コウタさま」
その時、リーゼが言う。
「お客さまをお連れしましたわ」
「ありがとう。リーゼ」
コウタはリーゼに感謝を告げた。
「ごめん。ここはレイハート家の別荘なのに」
「いえ。だからこそわたくしが出迎えるべきでしたから」
そう告げて、リーゼはザーラたちに視線を向けた。
「では、どうぞ。お座りください」
「おう。遠慮なく」
太々しい笑みと共に、ザーラはドスンとソファーに腰を降ろした。
コウタの正面の位置だ。エリスとマイアは互いに顔を見合わせてから、ザーラの左右に座った。フェイとツルギは無言でソファーの後ろに控える。
それを見届けてから、リーゼはコウタの左隣に腰を降ろした。
これで五対五。対峙する形だ。
「……さて」
ややあって、コウタは口を開き、
「それじゃあ会談を始めようか」
会談の始まりを告げるのであった。




