第七章 獅子と悪竜の対峙③
そうして約束の夜が訪れる。
森の奥。一人の騎士が闇夜に潜んでいた。
全身に白き鎧を纏う騎士。そう、白金仮面だ。
(ふむ)
木々に身を隠しつつ、レイハート家の別荘を視界に捉える。
仮面の下でハワードは双眸を細めた。
(よもや、あの場所を決戦の地に選ぶとな)
ハワードにとって因縁深い場所だった。
そもそもこの森自体が、ハワードが生まれ変わった場所とも言える。
この森で初めてハワードは宿敵である少年と対峙したのだ。
すべては一人の男のおかげだった。
あの男の名は忘れもしない。グリッド=ワイズだ。
ハワードがこの手で殺した男である。そしてあの男のおかげで、ずっと生き飽きていたハワードの灰色の世界は、ここまで鮮やかなる色を得ることが出来たのだ。
宿敵を得て、新たな愛機を得て、そうして愛する妻も得た。
あの男には感謝しかなかった。
(せめて墓ぐらいは建ててやるべきかもな)
ふと、そんなことも考えるが、
――はン。いらねえよ。糞伯爵が。
あの男なら、きっとそんな悪態をついてくることだろう。
(思えば惜しい男を亡くしたかもな……む)
そこでハワードは面持ちを鋭くした。別荘の前に一台の馬車が到着したのだ。そこから見覚えのある黒衣の男と、数人の女たちが降りてくる。
(……ほう。堂々と来るか)
だが、情報にある人数には足りていない。
現れたのは全員で五人だ。
残りはハワードと同じく周辺に潜んでいると考えられる。
(興味深いな。しかし)
伏兵の方も気になるところだ。
はてさて、どちらから探りを入れるべきか。
ハワードは数秒ほど考えて、
(そちらから行ってみるか)
行動の方針を決めるのであった。
◆
「さて。ウチらは控え組っすけど」
同時刻。同じ森の中でラックが仲間たちに声を掛ける。
そこは会談場として指定された館が視認できる場所である。
木々に覆われたその場所にいるのはパメラ、レミとラミの双子姉妹、そしてルシアだ。ラックを含めると獅子兵団の内の五人がその場にいた。
一方、会談側のメンバーは、ザーラにフェイ。エリスとマイア。相手側と因縁深いメンバーになっている。そこに対人戦の護衛としてツルギがついていた。
ザーラたちは馬車で会談の館に向かい、ラックたちは待機している状況だ。
「どうなるっすかね。この会談」
「恐らく戦闘にはなるでしょう」
と、パメラが淡々とした声で答える。
「互いの立場を鑑みれば、平穏に終わるはずがありません」
「やっぱりそうなるかな?」「やっぱりそうなるよね」
レミとラミの双子が不安そうに呟く。
「相手は恐ろしく強いというお話でしたわね……」
ルシアが瞳を細めて言う。
「対人戦でマイアさんを圧倒した殿方。ツルギさんは、対人戦では私たちの中で最強ですが、彼女でも厳しいのでしょうか……?」
その問いかけにラックが腕を組んで「う~ん」と呻いた。
「確かにツルギさんは強いっすけど、ザーラさんの話だと、その男の子って魔獣にさえ生身で勝ったって話っすよね? 流石にそれは無茶苦茶っすよ。人間にどうにか出来る相手じゃないっすね」
「……ザーラも対人戦は悪手を考えているそうです。鎧機兵戦に持ち込む方が、勝ち目があるということでしょう」
肩肘をそっと押さえて、パメラが言う。
「全員、鎧機兵戦を想定していてください。ザーラの合図で襲撃します」
「了解っす」「承知いたしましたわ」
ラックとパメラが即答する。レミとラミも互いの手を強く掴み、
「任せておいて」「レミとラミは強いから」
そう告げる。パメラは静かに頷いた。
「十分後に散開します。しかし、先走ることは禁止です」
パメラは警告する。
「ザーラが戦闘の意志を見せてからです。戦闘は確実ではありますが、あくまで最後の手段と考えてください」
ザーラを除けば、実質的にリーダーであるパメラの言葉に全員が頷いた。
それからパメラは静かな眼差しで館の方に目をやった。
丁度、馬車の姿が見え始めたところだ。御者にはフェイの姿がある。
馬車は館の前で停車し、ザーラが最初に降りて、マイア、ツルギ、エリスの順で馬車から降車してくる。最後にフェイが御者台から降りてきた。
ザーラたちが館のドアの前に立つと、ドアが開かれた。
何故か全身鎧を着た幼児が二人、ザーラたちを出迎えたようだ。
ザーラたちは館の中に招き入れられた。
いよいよ、会談が始まるようだ。
――対極のような立場にある二人の人間の。
(会談が上手くいくとは思えません)
それがパメラの率直な意見だ。
恐らく、ザーラ本人も含めた全員の意見でもある。
魔獣を生身で屠るという少年。極めて危険な相手だ。だが、それでも対峙せずにいられないのが、ザーラの本心なのだろう。
(少し嫉妬してしまいます。レオスという人物には)
あのザーラが少女のように想い続ける相手。
果たしてどんな人物なのか。
今のところ、怪物めいた話しか聞いていないことも気になる人物だ。
彼女たちの愛する主人の師であり、想い人でもある男。パメラのみならず、兵団のメンバー全員が気にするところだった。
(……ザーラ。私たちはあなたの兵団です)
パメラは館を静かに見据える。
そうして、
(どんな状況であろうとあなたを支えます。だから決して焦らないで)
彼女は微かに唇を噛んだ。
(どうか無事に戻ってきてください)
そう願った。




