第七章 獅子と悪竜の対峙②
一時間後。
コウタたちはサザン伯爵邸を後にした。
サザン伯爵は馬車を用意しようと言ってくれたが、それは丁重に辞退した。
伯爵家の馬車では目立ちすぎることが理由だ。まあ、実際のところは、動きづらいからというのが本当の理由だが。
コウタたち一行は街で大型の幌馬車を借りた。
御者はジェイクが担当し、他のメンバーは荷台に乗った。メルティアは着装型鎧機兵を着た状態だ。大型馬車のおかげで彼女が乗っても壊れることもない。
そうして早速出立した。
向かう先は王都パドロではなく、レイハート家所有の別荘だ。
サザンを出て、街道を進む。
「さてと」
荷台で座るコウタは、おもむろにアヤメに目をやった。
「アヤちゃん。一応確認しておきたいんだけど、今も焔魔堂の人たちはボクらの護衛に就いているの?」
「ゴズやメズたちのこと、ですか?」
アヤメが小首を傾げた。
「いるはず、です。ただよほどの危機がない限り、一定以上は離れているはずなの、です。私たちのプライベートを配慮していますから」
「あまりよい気はしないな」
エルが腕を組んで、ぶすっとした顔をする。
「なんか見張られているみたいだ」
「そなたは生粋の王族なのであろう? 今更何を言うか」
リノが呆れた口調で言う。
「元より王族には影なる者はいるものじゃ。部下として潜むか、それとも完全に影に紛れ込むか。今回は後者じゃな」
「……いや、一応ボクはもと農民なんだけど」
コウタが渋面を浮かべてそう呟く。
それに対し、リノを始め、全員がジト目を向けてきた。
「何がもと農民じゃ。秘密結社の社長令嬢。公爵令嬢二人。貴族出身の女騎士を自分の女にしておいて今更何を言っておるのじゃ」
リノが代表してそう突っ込んだ。
「改めて聞くと、すげえメンツだな」
と、御者をするジェイクが感嘆の声を上げた。
「さらには王族。焔魔堂の娘さん。アイリ嬢ちゃんも含めるなら《星神》もか。コウタ。お前の進む道はとんでもねえ茨だらけっぽいぞ」
「……コレゾ漢道、ダ」「……ウム。オトコミチダナ」
零号と、サザンXもそんなことを言う。
「うん。それは覚悟しているよ」
コウタは真顔で言う。
「ボクはまだまだだから、もっと精進しないと。兄さんみたいにあの人ならあり得るかって思えるぐらいに」
「……これも改めてだが、そう思われるお前の兄ちゃんもすげえよな」
今でこそフランという愛する女性がいるが、コウタの兄の元に残った初恋の女性のことを思い出して、ジィエクは少ししんみりとする。
コウタはジェイクの方を見て、苦笑を零しつつ、
「……少し話が脱線したね」
本題に戻る。そうして改めてアヤメを見やり、
「じゃあ、焔魔堂の人たちは強いけど、基本的には万が一の時の予備戦力として考えておこうか。そっちの方が色々と有利になるとも思うし」
「それでいいと思うの、です」
アヤメが頷いた。
「ゴズやメズたちはあくまで影ですから」
「うん。分かった」コウタも首肯する。
「守られているとか考えたら油断もするから、気を付けて」
そう告げてから、
「繰り返すけど、まずは対話から入る。これは間違いないと思う」
コウタは全員の顔を見やる。
「ザーラは絶対にあの男のことを知りたいはずだ。それに、出会った時の感じだと会話も戦いの一つだと考えるタイプだと思う」
「……いわゆる舌戦ですわね」リーゼが呟く。
「彼女の場合は弁が立つというよりも、こちらのミスを見逃さないという感じですわね」
「うん。かなり強かな雰囲気はあった」
一度だけ会ったザーラの姿を、コウタは思い浮かべる。
「嘘と本当を織り交ぜる。親し気に見せて油断も誘う。どうやらあの男は弟子の育成は得意だったみたいだね」
一拍おいて、
「舌戦は慎重な戦いになると思う。そしてその後、確実に戦闘に入る」
「……コウタはあやつからすれば自分の男を殺した相手じゃからな」
リノが神妙な声で語る。
「怖いぞ。女の情念は。男以上にじゃ」
「でも、負けてやるつもりはないよ」
コウタは臆することも躊躇うこともなく言う。
「人を殺すということはそういうことだから。あの男がボクの故郷を滅ぼすことで、今のボクを生み出したように」
その重い言葉に場がシンとする。と、
『……コウタ』
おもむろに、メルティアが口を開いた。
そして、
――ぷしゅうっと。
着装型鎧機兵の前面が開かれ、メルティアが可憐な姿を現した。彼女は着装型鎧機兵の中から出てくると四つん這いで荷台を進み、正面からコウタに抱きついた。
強く幼馴染の背中を掴んだ。
「……メル」
コウタは瞳を細める。
そして幼馴染であり、今や愛する女性でもある彼女を強く抱きしめた。
「ボクは大丈夫だから。みんなが、君が傍にいてくれるから」
「……はい」
メルティアは頷いた。
対し、女性陣は何とも言えない表情を見せていた。
「(メルティアはこういった時、本当に躊躇いがないですわ)」
「(そうじゃな。あれが幼馴染ムーブというやつか。むむ)」
リーゼとリノが小声で語る。
「(……あればかりはメルティアの特権だよ)」
「(はい。私ではとても……閣下に対して不敬に感じてしまいます)」
アイリとリッカが言う。
「(……不満だ。とても不満だぞ)」
「(……同感なの、です。私たちはまだその前段階なの、ですから)」
と、最も不満げな顔を見せてエルとアヤメが呟く。
女性陣は各々で不満を抱いていた。
ともあれだ。
「とにかく備えましょう」
パンと手を叩いて、リーゼが口を開いた。
「決戦の場所はレイハート家の別荘。地の利はこちらにありますわ」
そう告げるのであった。




