【幕間②】苦労人、深見。
合コンの3週間前 : 深見side
深見は一人頭を抱えていた。
[行けますよ!]
[白崎玲来るってマジっすか!行きます!]
次々返ってくる威勢のいい返事に深見は喜んでいた。
この前収録で出会った可愛らしい女の子と話してみたかった。だから知り合いの女優が持ちかけて来たこの合コンに快諾したのだ。
深見も、誘いに乗ったチームメイトもバスケに賭けていても普通の男だ。女子と話せる機会に胸を高鳴らせることもある。
対してこの男。
じっとコールボタンを睨みつけ、押すか迷うこと5分。
こいつが来なければ喜んでいる他のメンバーも肩を落とす羽目になる。勿論深見もだ。
仕方ない。意を決してボタンを押した。2コールで聞こえる低い声。
「もしもし。」
「外神、7月日本帰って来るよな?」
「そうですね。」
「7月9日、予定はあるか。」
「今の所ありませんが。」
「……会食がある。来れるな。」
「……何のですか。」
「知り合いの女優仲間とうちの代表メンバーでだ。」
「合コンでは。」
「お前その言葉知ってんのか。」
「俺を何だと思ってるんです?」
「外神だろ。『好きじゃなくてもいいから付き合ってください』で真に受けるやつはお前以外いねえよ。」
「……悪かったとは思っていますが、理解は出来ません。」
「泣いてたもんなあ花乃ちゃん。」
「意図は理解して謝りました。そもそも深見さんが何で知ってるんですか。」
「そりゃお前、部員は皆花乃ちゃんに同情してたからな。付き合う前から。」
「……そうですか。」
「で、9日な。来いよ。」
「何故ですか。」
「……羽鳥は代表の新メンバーなんだよ。」
「そうですね。それが何か?」
「お前はいつも新メンバーとの交流に苦労してるな。」
「してません。必要なことは聞いています。」
「羽鳥はこの会食を喜んでるんだ。お前が来なくておじゃんになればあいつはお前を恨むな。」
「女に会えず恨まれるのは納得いきません。」
「それは分かるがな。恨むまで行かずとも考えてみろ、好意的な状態かつ顔見知りの状態で練習するのと、不満がある状態で練習するのと、どちらが効率的か。」
黙った後輩に深見は勝利を確信し、ガッツポーズを決めた。
「……確認したいセットとシチュエーションが50はあります。練習付き合ってください。深見さんが。」
ガッツポーズは撤回し気が遠くなりそうになった。
こいつのシミュレーションに終わりがないことは、この身をもってよく知っている。
「分かった……だが22時までには帰らせろ。」
「どの道1日では終わりません。」
深見は悟った。恋路を1日進めるために、1週間犠牲にしなければならないことを。
「……分かった。日時と場所は送るよ……」
「お願いします。端に座ってるだけでいいですか。」
「構わん。向こうは見たいだけだ。話しかけては来るだろうが。」
「見たいのはよく分かりませんが茶でも飲んでいます。」
「ああ、そうしてくれ……」
「用件は他にありますか。」
「ない。じゃあな。」
「はい。」
厄介な後輩は今やスーパースターだ。顔は変わらないが。
多大な犠牲だが約束は取り付けた。
一仕事終えた深見はのろのろと立ち上がり、食器棚の角に頭をぶつけて一人呻いていた。
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会食当夜。
「連絡先は?」
聞こえて来た言葉が空耳かと耳をダンボにした深見は、続いた言葉でそうではなかったと知った。
「連絡先を知らずにどうやって会うんだ?」
星の数程浮かんだ言いたい言葉をグッと飲み込み、男だけで二次会に行った。勿論外神は帰ったが。
「深見さん、外神も白崎玲好きだったんすか……」
「いや……あれは違うぞ。」
「何でっすか。ずっと話してましたよ。あんなに喋る人だと思いませんでした。」
「確かに案外喋るんだけどな……女相手は初めて見たな……幻聴かと思った……」
「白崎玲、笑った顔やっぱ可愛いんすよね……あのギャップで死ねるのを間近で拝めただけで俺はもう満足してたんですが、まさか外神が……!」
「お前らも結構話してただろ。玲ちゃんの感じもよかったのに。」
「でも早々に端に戻っちゃったんですよ……というか白崎玲と釣り合う自信が俺にはありません。」
「潔いな。」
「イレール・ロランなら諦めがつきました。でも外神……天才ですけど!顔も金もありますけど!」
「玲ちゃん嬉しそうにも見えなかったけどな……」
「深見さん今度聞いてください、何が起きてるのかを。」
「伊都ちゃんに探り入れてみるか……」
「そっか深見さんは伊都ちゃんがいるんすね……」
「何だよ。」
「俺らは全敗です。」
「そういうこともある。あのな、お前が白崎玲に会いたいがために俺は1週間差し出したんだぞ。」
「1週間?」
「外神を連れて来るためにな……筋肉痛で死ぬんじゃねえか俺……」
「深見さん、山にでも連れてかれるんすか。」
「山の方がマシかもな。合宿楽しみにしてろ。」
「何されるんすか俺らは……」
「あいつは気になったことは試さないと気が済まない。1だったはずが100に膨れ上がるなんてことはザラだ。」
「カメラ回ってる間笑う自信ないっす……」
「どうせ外神は笑ってねえよ。」
「あいつが笑わないとストイックでカッコいいって言われんの納得いきません!」
「誰もいってねえよ。」
「はあ……」
玲の予想通り苦労している被害者3名、静かに乾杯した酒を一気に飲み干した。




