第七話 店、送れ。
[店、送れ。]
「ロボットかよ。」
「何に突っ込んでんのよ。」
「知らん。」
CM撮影の合間。あくびをしながら携帯を覗く玲を、千鶴がニヤリと見ていた。
「カツ丼は美味しかった?」
「あんまり。肉はやっぱダメだね。」
「あらら。また見てるからよっぽど美味しかったのかと思ったのに。」
カツ丼でなかったことぐらいは分かり切っているだろうに。ただの揶揄いだ。
「千鶴さんの方が好きかもよ。」
「へえ、結局誰なの?」
「外神秋。」
「はあ!?」
「だよね。」
滅多に聞けない千鶴の素っ頓狂な声に笑うと安心した。
「え、この間の会食よね?」
「そう。」
「来てたの?」
「来てたよ。連れて来られたんだって。」
「あの外神秋が!?」
「確かに意外だけどそんな?」
「有名よ?女子アナや向こうの女が声かけてもガン無視だって。」
「声かけられてることに気づいてないんじゃないの。」
チョコレートを一粒口に放り込み、溶ける感触を味わっている玲には他人事だ。
「そんなことある?」
「あるんじゃない、あれなら。」
「何、そんなに変わった人なの?」
「変わってるのは確かだね。」
「でも誘われたんでしょ?」
「誘われたんじゃないのよあれは。会話が終わってない判定よ。」
「何なのそれは。」
「だから言ってんの。千鶴さんどう?アスリート押してくるじゃん。」
「あんたが興味ないからよ。でもまあ外神秋なら見た目は100点ね……」
「靡くんかい。」
「浮気はしなさそうよ。」
「する奴は論外なのよ。」
「多いけどねえ……また会うの?」
「いや……人の概念が通用しなくてさ……」
「人外なの?」
「人間のはずなのよ。」
「あんたも大概人外なの分かってる?」
「うっさい。私ほど人間らしい人間もそういないわよ。」
「まあでも意外と人外やったことないわね……次のが初か。」
「発音死ぬ程困ってる。」
「何で?」
「ニュアンス出そうとしたらまた別の筋肉いるの。先生の動き見て必要そうなところ解析して鍛えてんだけど間に合うかな……」
「中国語の時もおかしなことしてたわねえ……」
「話したこと殆どなかったんだもん。仕方ないじゃん。」
「こんなんだから世界が放っとかないんだけどねえ……」
「もうちょっと放っといてくれたら尚いいけどね。」
一言話せば、一軒の店に寄れば大騒ぎだ。やってられない。
ため息を吐いた千鶴は今日のスケジュールを慣れた調子で告げた。
「無理な相談ね。さて、CM1本、合間にインタビュー3本、雑誌1本。頑張ってらっしゃい。」
「はあい。」
「あとフォンドルからオファー来てたけど断るわね?」
「チョコと車は聞かなくていいよ。受けないから。」
「公言しても来るのよねえこれが。」
「あーあ、世の中面倒事ばっかだよ。」
「そんなもんかもね。」
画面に映るメッセージに、力無く書いた店名を送信した。




