第八話 まだ、演じ終えていない。
空いている時間の候補を三つ送れというあまりにも具体的なメッセージに逃げ切ることが出来なかった玲は、2日後に予約したというメッセージに天を仰いだ。
(どうすんだよ……)
あれは好奇心だ。単純に、何かが引っかかっているから知りたいだけ。理解すれば、飽きて去っていく。
そんな男に見せて、何になる。
ただ、話すだけじゃダメなんだろうか。
思考だけなら面白い。役作りにも使える。それでいいじゃないか。
台詞を録音し、動きを撮り、修正して、疲れたら踊って。
全ての音が止んだ夜、何をすればいいのか分からない。
布団を敷くのが面倒だった。床に座り込んで膝を抱える。顔を埋めて、何に泣いているのかも分からない。
ぼやける視界のままに、帽子を被って地下に降りた。
車に乗って、追って来る記者は撒いて、山に向かって。
車に乗れば、集中せざるを得ない。音を聞いて、タイヤが地面を滑る感覚を繋げて、ハンドルを握る。
そうしなければ、死ぬかもしれないから。
(……何で、死んだらダメなんだっけ。)
しては、いけないはずの思考。
(あ。)
車体が流れた。
本能がハンドルを切り返し、ブレーキを踏む。スピンしかけた車が、間一髪で止まった。
手にかいた汗が憎らしい。
森の中に蠢く紫の影が、近づいて来る気がした。
「……消えろよ。」
きっと、ロボットには視えたって怖くない。こんな夜も、過ごしはしない。
だから、間違えたんだ。
(……戻るか。)
まだ、演じ終えていない。
会うのを止めるかだって、2日後に考えればいい。
家に戻った玲は床に倒れ込んだまま、朝を迎えた。




