第五話 で。
他愛もない話をしながら、ある程度気を抜いて食事を楽しんでいたはずだった。
「何でしょう?」
「この間の続きだが。」
(今までのは違ったのかよ。)
「……何の話でしたっけ?」
「3回目か?」
「直ぐ忘れるんですよこれが。台本も撮影終われば飛んでます。」
「忘れたなら構わん。内容が変わるわけじゃないからな。」
退路が塞がれていく気がする。中々の戦上手だ。
「外神さん、将軍とか向いてると思いますよ。」
「残念ながらこの時代に無い職種だな。」
「敵は戦いたくないと思います。よく言われません?」
「言われるな。」
「ほら。」
「で。」
逃げ切れなかった。
「……せめて食事を楽しみませんか。」
「今日の目的は食事じゃないからな。」
「はあ……何が聞きたいんですか。」
「俺の認識が正しければ今お前は多少気を抜いている。合っているか?」
「合ってますね。」
「来た時とは随分違う。」
「今戻りそうですが。」
「……どうしても嫌ならやめるが。」
ここで引くのか。線引きの分からない男だ。
「嫌というより、困るの方が合うかもしれませんね。」
「何故?」
「人間、自己防衛を突破されそうになると困るものです。」
「それは信頼値の問題か?それとも誰にでも突破されると困るものなのか。」
「守備も一段階にはしないでしょう。人によって入れても困らない層は違う。」
「……今何層だ。」
「ええ……知りませんよそんなの。何層あるかも知らないし。」
「お前の場合、層と言うより守備者が入れ替わるの方が正しい気もするが。」
「半分当たりですね。二段構えじゃないですか。」
「その師は本物を知ってるのか?」
「知ってるけど知らない。外神さんだって……」
「俺はそのままだ。」
「はいそうですね。」
「……お前の顔は変わるようで変わらない。」
「言い得て妙ですね。座布団あげます。」
「いらん。」
「関西人はこれで喜ぶんですよ。」
「お前は関西人なのか?」
「一応生まれは。8歳からこっちですけど。」
「……なら受け取っておこう。」
「律儀ですね。」
「食べないのか?」
「ああ、デザート。どうも和菓子は苦手で。良ければどうぞ。」
「なら残せばいい。甘い物は苦手か?」
「いえ、甘い物の方が食べますね。チョコとか。」
「チョコか……」
「苦手ですか?」
「嫌いじゃないが、食べることが少ない。店は知らんな。」
「私は知ってますよ。」
「……確かにそうだな。菓子の店に個室はあったか。」
「個室……は無いんじゃないですか。」
「そうか。なら次も和食でいいか?」
「はい、大丈夫……って次?」
「結局答えてないだろう。」
これはまずいことになった。
わざとらしく引き攣らせた顔を物ともせず男は続けた。
「好きな店があれば送れ。俺は先に出る。」
「はあ……」
立ち上がり、ドアノブに手をかけた男は思い出したように振り向いた。
「ああ、そういえば。玲。」
「は……?」
「何だ?」
「いや、名前……」
「白崎は芸名だと聞いた。俺は本名を知らん。」
「ああ、そういうこと……」
「Tシャツの前後が逆だ。出る前に戻した方がいい。」
「げ……」
確かに逆だ。慌てて着替えたのが良くなかったらしい。
「またな。」
人の羞恥もお構いなしに、振り向きもせず男は出て行った。一人残された部屋でTシャツから腕を抜いてくるりと回すと、会計へと向かった。
「お会計は済んでおります。」
「え?」
「ご一緒の方がお済ませになりましたよ。」
なんだと。
「……そうですか。」
店を出て、街乗り用の可愛い愛車のエンジンをかけながらついぼやいた。
「何なんだほんと……」
調子が狂う。ハンドルに突っ伏すと、低く唸る自分の声だけが車内に響いていた。




