ご都合主義は承知の上です。でもわたくしの親友が幸せならいいのです!
ロゼッタは場をわきまえて慎んだけれど、くすくすと笑いが口から漏れそうになって、困ってしまった。
せっかくロゼッタが、自身の自死を装うという穏便なやり方を考えていたのに、セーゲルときたらなんて乱暴な方法を選んだのだろう!
まさかパーティで王子に矢を射かけ、王子とリィリィがかばいあう姿を衆目にさらし、リィリィが王子の婚約者として注目されるよう煽るだなんて!
もし二人が期待通りの動きをしなければ、どうするつもりだったんだろう。
……きっと謎の暗殺失敗事件が起きただけね。
そしてセーゲルのことだから、別の機会に、別の方法でなにか風変わりな作戦をたてたのだろう。
セーゲルの行動は、一般的には非難されるべき犯罪だ。
けれどロゼッタはその程度でひるむほど清廉な精神はもっていなかった。
大切な友人であり、か弱い女性であるリィリィが弓に射られたのに、ひどいだろうか。
けれど王子の妻の座を望んで得るのなら、その代償はすこしくらい払ってもいいとロゼッタは思う。
まぁリィリィがかすり傷しか負わなかった今だから言えることだけど。
ローゼンタール公爵家の手の者は、腕がいい。
万が一にも失敗なんてしないと信じている。
リィリィは穏やかな性質だから、ロゼッタがこんなことを考えていると知れば、失望するかもしれないけれど。
そう考えて、ロゼッタは否と思い直した。
バララーク川が氾濫した時、下町では強盗などが横行し、とても危険な状態だったのに、誰が止めるのも聞かずリィリィは陣頭に立って救援にあたった。
今だって、王子をかばって、弓の前に身をさらした。
彼女は平和を愛する少女だけど、必要とあれば勇敢になれる少女だ。
そして他人のことを気遣って、自分の身を削るような少女だ。
きっとロゼッタが自分のために仮死となる毒を飲む計画より、自分が傷を負う今回の計画のほうがマシだと言ってくれるに違いない。
……この計画では、他の人も危険にさらしたから、計画がばれたら許してはもらえないだろうけど。
まぁ、この計画がバレることはないだろう、と一向に射手を捕まえられそうもない騎士たちを見て考える。
セーゲルは、ロゼッタと王子の婚約解消をあおるべく、周囲の女性たちの話に聞き入り、時に上手に話を誘導し始めていた。
きっとロゼッタと王子の婚約は、早々に解消されるだろう。
まだ内々の内定なのだ、解消は難しくない。
そうすれば、リィリィと王子は改めて婚約できるだろう。
ロゼッタに不幸を招くことを恐れてリィリィが身を引こうとしなければ、そんなリィリィの態度に王子がリィリィに嫌われているのではないかと勘違いしなければ、とっくに結ばれていたであろう二人なのだ。
ロゼッタはクライン王子のことをなんとも思っていなかったが、リィリィをかばったことは評価していた。
リィリィは大切な友人だった。
きっと幸せになってほしい。
あの日盗み見たリィリィの日記にも、ちょうど同じことが書いてあったわね、とロゼッタはかすかに笑う。
その時、ホールから歓声がわいた。
人々の視線の先をたどると、肩に包帯を巻いたリィリィがホールの階段を降りてくるところだった。
その小さな手はしっかりと王子が握り、彼女を守りいたわるように、ゆっくりゆっくりと寄り添って歩いてくる。
リィリィの顔はまだ青ざめていたけれど、その表情は幸せそうだった。
二人をホールで待つ人々は、そんな二人の姿に厳かな気分になり、口をつぐむ。
「まるで、結婚式みたいね……」
シンと静まり返ったホールに、年配の女性が口走った囁き声が響いた。
誰にあててというでもないそのセリフにロゼッタはうなずき、まだ見ぬ二人の結婚式を思って、そっと笑みを浮かべた。
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こちらで最終話です。




