【第二部 風と鎖】第01話 春の終わり
誓いは、破れない。
アルデン王国の子どもは、物心がつくより早く、そう教わる。去年の秋まで、それは誰にとっても本当だった。いまも、ほとんどの人にとっては本当だ。誓紋は相変わらず肌に浮くし、背こうとすれば身体のほうが止まる。変わったのは、たった一つ。この世に一人だけ、誓いを断てる者がいる、と知られたことだった。
世間はその者を「七尺の誓い断ち」と呼ぶ。噂は去年のうちから街道を通り、春には北の山の村まで届いていた。噂の中の大男は、本人より半尺高い。
当の大男は、手の甲に紋の一つも持っていないし、誓いを断ったこともない。頼まれるたびに、断てません、と答える。本当に断てないのだが、誰も信じない。
本当に断てる者は、その大男と一緒に歩いている。亜麻色の髪の若者で、去年の秋より前のことを何一つ覚えていない。自分が何を断ったのかも、帳面で読んで知っているだけだ。
もっとも、そんな大層な話は、春の朝、山の湯から下りてくる本人には、いまのところ何の関わりも無い話だった。本人には、もっと差し迫った問いがあった。
◇
「春は、いつ終わりますか」
エルドは、前を歩くレイフの背中に訊いた。
上の湯から村へ下りる道は、岩場を抜けるとすぐに木立に入る。朝の光が枝の間から落ちて、沢の音が足元から上がってくる。濡れた髪に、木立の空気が冷たい。春の半ばでも、北の朝はまだこの冷たさを残している。レイフはその道を、樫の棒を肩に担いで歩いていた。
「春のうちはここにいると東の当主に言いました。決めるのはそのあとで、と。……春はいつ終わるのですか。誰かが日を決めているのですか」
レイフは立ち止まって、山を見た。木立の切れ目から、峠が見える。雪は消えて、稜線の草がまだ茶色い。
「誰も決めていません。村では、山羊を上の草地へ上げる日から夏です」
「では、あとどれくらいですか」
「……ひと月ほどかと。山羊が、まだ下を向いているので」
エルドは峠を見た。山羊は見えない。見えないが、レイフがひと月と言うならひと月なのだろう。この男は、根拠の無いことを口にしない。日を決めている者がいないのなら、山羊が決めるのが筋というものだ。
後ろで、セシルが今日の分を書いていた。
粗い紙の帳面に、炭で、日付と湯の回数を書く。毎朝、同じ形でだ。ヴァルドが書状で騎士団から十日借り受けた誓約騎士の用向きは、上の湯に立ち会うことで、セシルはそのとおりにしている。
「立会の、六日目です」
畑の段のいちばん下で、誰かが鍬を放り出した。イーダだった。両手を頭の上で振って、山じゅうに聞こえる声を出す。
「馬だよ! 四頭!」
◇
四騎だった。
段々畑のいちばん下の道に、馬が四頭、並んで止まっている。その脇に、徒歩の男が三人。革の胴着に槍。旗も印も無い。東の槍だ。四日前に、縛った賊を町へ渡しに下りた三人だった。
いい馬だ、とエルドは思った。下の町の宿にいる馬とは、脚の作りから違う。鞍は磨いてあり、装いはそろっていて、旗だけが無い。旗の無い一行というのは、旗を掲げられない者か、掲げたくない者のどちらかだ。どちらにしても、賊ではない。賊は、いい馬で来ない。
先頭の馬上の若い男が、外套の襟を立てて、段々畑を見上げていた。薄い茶の髪を短く刈った、自分と同じくらいか、少し下に見える若者だ。
村の子どもが、畑の段を駆け下りていく。ニナがいちばん前だった。
「クヌート! 帰ったの!」
「帰ったぞ。お客だ。若様は」
「上だよ! 湯から下りてくる!」
先頭のクヌートが槍を持ち直して、馬上の若者に何か言った。若者はうなずき、馬を下りた。手綱を後ろの騎馬に預けると、自分の足で畑の段を上がりはじめる。
「……歩いて来ます」
レイフが言った。馬でも上がれる道だ。荷馬でも上がれる。上がれる道を歩いて来るのは、歩くと決めたからだ。
エルドは木立を抜けて、畑の縁で若者を待った。マグダは村の入口の石積みに腰かけて、若者が段を上がってくるのを眺めていた。値踏みする目だ。
「……ちび。あれは、いい家の子だよ。歩き方で分かる。あんたと同じ歩き方だ」
エルドは、自分の足を見た。見ても、同じかどうかは分からなかった。
◇
若者は、畑の縁で足を止めた。
灰色がかった青い目が、エルドを見て、それから、集まってきた村の者へ動いた。村の者の目は、みなエルドに向いている。それで、分かったらしい。
「北の若君と、お見受けします」
エルドはうなずいた。
「うちで話しな。戸口で話す用じゃないだろう、その顔は」
ベルタだった。杖で、いちばん上の家を指す。若者はそれに従って、ベルタの家まで上がり、戸口をくぐった。エルドは、そのあとから入った。
入った所で、若者が振り向いた。そして、土間の上で片膝をついた。
「アルデン王ゲオルクが末の子、ユリアンと申します」
若い声だった。高くて、澄んでいて、どこにも震えが無い。
「北の若君に、王家の言葉を届けに参りました」
村の者が、静かになった。
王というものを、エルドは帳面でしか知らない。帳面にも、ほとんど出てこない。この国では誓いのことは宰相が仕切り、王は誓いに口を出さない。去年の秋までは、そう決まっていた。北の家の名を戻し、継ぐか継がぬかはおぬしが決めろと勅を出し、誓わせぬと書き添えたのは、宰相の去ったあとの王宮だ。それでも、王の子が山の村の土間に膝をつく光景は、帳面のどこにも無い。
エルドは、それを戸口の内側で見ていた。自分が先に頭を下げるべきだったと、あとから気づいた。
「……お立ちください。私が、エルド=ファーレンです。土間は冷えます」
ユリアンは立った。外套の膝を払わないまま、エルドを見ている。
「うちの土間で王様の子が頭を下げるのを見るのは、初めてだよ。初めてついでに上がりな。冷えるって言われたろう」
ベルタが、炉の脇から言った。杖で床を一つ突く。ユリアンはベルタを見て、それから、少しだけ笑った。笑うと、年相応の若者に見えた。
◇
炉の脇に、ユリアンと並んで座った。
供の三人は、戸口の外に立ったままだった。中に入れ、とベルタが二度言ったが、動かない。三度目は言わなかった。ベルタが三度目を言わないのは、諦めたときではなく、放っておくと決めたときだ。この村で何日か過ごせば、それくらいは分かる。
呼び方は、先に片づいた。
「ユリアンと呼んでください。私のほうは、エルド殿と呼んでよいですか」
「はい。では、ユリアン殿と呼びます」
「殿は、要りません」
そういう訳にはいかない。ユリアンは炉の向こうに座っているレイフを一度見て、それ以上は言わずにおいた。
「あなたにお会いするのは、初めてですね」
エルドは、先に言った。去年の秋からこちら、人に会うたびに、先に言うことがある。私はあなたを覚えていません、という、あれだ。この人には、それを言う前に確かめることがあった。
「父も私もあなたに一度もお会いしていません。王宮にもあなたが来られたことは無いと聞いています」
帳面のどこにも無い人だ、とエルドは思った。
去年の秋からこちら、会う人はたいてい自分を知っていて、こちらが知らないことまで知っていた。帳面に無い人と、帳面に無い話をする。そのことが、少し楽だった。
「王家の言葉というのを、伺います」
ユリアンは、外套の内側から書状を出した。白い紙に、蝋の封。封には印がある。鞘に納めた剣を横に置き、その上に冠を載せた形だ。王家の印です、とユリアンが言った。ヴァルドの書状に押してあった灰色の三筋とは、形が違う。
受け取るとき、手が見えた。
右の手だ。剣を執る側の。その甲に、鎖のように絡み合った輪が二つある。古い、薄い青の細い線が、皮膚に馴染んでいた。誓紋だ。それは分かる。門衛の手にも、兵の手にも、何度も見た。セシルの右手に無いもの。レイフの右手に無いもの。
若い手に、古い紋があった。
訊かなかった。初対面の相手に、手の甲の紋を訊く作法は、たぶん無い。
封を切って、読んだ。
——エルド=ファーレン殿。継ぐか継がぬかは、そなたが決めよ、と春に書いた。それは変わらぬ。誓わせぬ、も変わらぬ。夏の終わりまでに、王都へ来られたし。王家より、伝えることがある。
二度、読んだ。
「伝えることとは、何ですか」
ユリアンは首を振った。
「私は聞かされていません。父が自分の口で言うそうです。書いたのは叔母です。王妹のヒルデ。王宮のことは、いまは叔母が執っています」
「王族のあなたが、わざわざ北まで来られたのですか」
「北の家への使いは王家の者が行くべきだ、と叔母が申しました」
エルドは書状を畳んで、膝の上に置いた。
領のことは、春にヴァルドが沢で伝えてくれたときと、同じ答えしか持っていない。王都へ行くかどうかは、それとは別の話だ。行けば、王が自分の口で何かを言う。それを聞かずに春を待つ理由は、山羊のほかに無い。
「東の当主に、春のうちはここにいると言いました」
エルドは言った。
「決めるのはそのあとで、と」
エルドは書状の上に手を置いた。
「……春は、ここで終わりにします」
ユリアンは少し待って、続きが来ないので訊いた。
「……春が、ですか」
「私の春が、です。行きます」
炉の向こうで、ベルタが鼻を鳴らした。
「王都だろうがどこだろうが行くのは飯のあとだ。うちは客に飯も食わせずに帰す家じゃないよ」
◇
昼は、山羊の煮込みだった。
辛くはない。祝いではないので、根はすりおろさない。椀が回ると、戸口の外から供の一人が入ってきて、ユリアンの椀へ手を伸ばした。毒見だ。手が届く前に、ユリアンが首を振った。
「下がれ。エルド殿の前で、毒見はしない」
供は手を引いて、戸口の外へ戻った。毒見は、出した者を疑う作法だ。ユリアンは、ここではしないと決めたらしい。エルドは椀を膝に置いて、それを見ていた。
エルドは二杯食べ、レイフは三杯食べた。ユリアンは一杯目を行儀よく食べ終えて、椀を置いた。置いた椀に、ベルタが二杯目を盛った。ユリアンが何か言いかけたが、ベルタは聞いていない。食う奴には食わせる、うちはそういう家だ、と言って、二杯目が減るのを見届け、椀が置かれる前に三杯目を入れた。戸口の外で、供の一人が動きかけて、止まった。下がれ、と言われたばかりだ。
「王様の子に三杯食わせた婆さまってのは、きっとこの国じゃあんた一人だ」
マグダが壁際で言った。声を殺して笑っている。ベルタは、食う奴には食わせる、ともう一度言った。
ユリアンは三杯目を食べた。食べながら、炉の向こうのレイフを、ときどき見ていた。見るたびに目が少し上へ行く。座っていても、レイフは大きい。
「……あなたのことを、王都では七尺と聞きました」
「六尺と、半分です」
「では、噂は半尺間違っています」
本気で言っている。
マグダが壁に頭をつけて、天井を仰いだ。エルドは椀の中を見た。言葉をそのまま受け取る、レイフと同じ側の人だと思った。同じ側が二人そろうと、こういうことになる。
◇
午後、エルドは上の湯へ上がった。今日の二度目だ。
ユリアンが、ついてきた。供の三人もついてきて、湯の手前の岩で足を止めた。岩のあいだから湯が湧いて、石で囲った溜まりに落ちている。湯気が、まっすぐ上がっていた。
「地面から湧く湯があるとは書物で読みました。……見るのは、初めてです」
湯気を見上げ、それから、湯の湧いている岩のあいだを覗きこんだ。書物のとおりかどうか、確かめているのだろう。ユリアンは顔を上げた。
「エルド殿は、毎日入っておられるのですか」
「毎日です。日に四度」
「王宮の湯殿でも、そこまでは沸かしません」
言いながら、供の三人を見ている。三人は何も言わない。言わないが、顔に書いてある。王の子を山の中の湯に入れるわけにはいかない、と。ユリアンはそれ以上三人を見ずに、外套の紐を解いた。
「入ります。エルド殿が日に四度なら、一度で足りるはずがない」
理屈が、どこか間違っている気がした。間違っているが、行き先は正しい。エルドは、黙っていた。
ユリアンは少し急いで衣を脱ぎ、畳まずに岩の上へ置いて、足から入った。足で熱さを確かめ、腰を下ろし、そこからは一息に沈んだ。しばらく、黙っていた。それから、両手で湯をすくって、匂いを嗅いだ。
「鉄の匂いがする。……稽古のあとの、手の匂いだ」
そう言って、声を立てて笑った。王の子が、山の中の湯をすくって笑っている。供の三人は、そろって空を見た。主の入っている湯を、じかに見るわけにいかないらしい。空には雲がひとつ流れていて、三人とも、それを熱心に見ていた。
ユリアンは、長くはもたなかった。赤くなって上がっていく背中を、エルドは湯の中から見送った。岩の上の衣を、ユリアンは濡れた身体のまま引っかけた。
今日は言わない。王都までは長い。注文をつける日は、何日でもある。
◇
日が傾いてから、東の当主が沢から上がってきた。
竿を一本、肩に担いでいる。魚籠は軽そうだった。鉄色の髪に白のまさった、岩のような人だ。グレンツ家の、ヴァルド。五日前にこの村へ来て、仏頂面は、来た日から一度も変わっていない。沢の風が、その背中から火のほうへ抜けて、煙を村のほうへ寝かせた。
ヴァルドは竿を岩に立てかけて、火の脇に腰を下ろした。それから、火の周りにいる顔ぶれを順に見た。エルド。レイフ。マグダ。セシル。村の者。最後に、ユリアン。
「……王の、末の子か」
「はい。ユリアンと申します。グレンツの当主殿とお見受けします」
「グレンツの、ヴァルドだ」
ユリアンは立って、頭を下げた。ヴァルドは座ったまま受けた。
「王族が、自分の足で北へ来るか」
誰にでもなく、言った。
「宰相府なら使いが文を置いて帰るだけだった。王家は、王の子を寄越した。……そのうえ自分の足で畑を上がったそうだな」
ユリアンがうなずくのを見て、ヴァルドはエルドを見た。
「行くのか」
「行きます。春は、終わりです」
ヴァルドは、そうか、と言った。仏頂面のまま、少しのあいだ火を見ていた。
「わしも、行く」
誰も何も言わないうちに、足した。
「北の家には、いま後ろに立つ者がおらん。東の家が立つ。それだけだ」
エルドは、頭を下げた。それから四冊目を開いて、供の三人を見た。三人は、火から少し離れた所に、まだ立っている。
「お名前を、伺えますか」
三人は顔を見合わせずに、火の向こうのユリアンを見た。
「答えてよい」
ユリアンが言い、三人は一人ずつ、自分の口で名を言った。ゲルト。アルヴィン。ホルスト。エルドは、四つの名を書いた。
ユリアンは、炭の先を見ていた。それから、火に手をかざした。かざした右手の甲に、火の色が映った。薄い青の紋が、火の下で少しだけ濃く見える。エルドの目がそこにあるのに、ユリアンは気づいた。気づいても、手を引かない。
「これですか」
「……訊いていません」
「見ておられました」
ユリアンは、手の甲を火のほうへ向けた。
「生まれたときからあります。父も叔母も兄たちも、王家の者はみな持っています。王家の徴、と呼んでいます。何の紋かは、誰も知りません。古いものだ、とだけ聞いています」
ユリアンはそう言って、手を下ろした。
エルドは、その二つの輪を見た。誓紋は、誓いの住む場所に浮く。剣の誓いなら剣の手に。口の誓いなら喉に。血の誓いなら、生まれた子の肌に。それくらいは帳面で読んだ。だが、誰も知らないことを生まれたときから持っている人に、それ以上何を訊けばいいのかは、思いつかない。
自分の右手を、火にかざした。何も無い。何も無い手のほうが、この国ではよほど厄介なものらしい。
「ゲルト。アルヴィン。ホルスト。座ってよい。今日はもう、誰も来ない」
ユリアンが言った。三人は、朝から初めて腰を下ろした。
クヌートが、火の脇へ来て、しゃがんだ。若様、と小さな声で言う。
「賊は町の代官の兵が引き取りました。詰所へは代官が送るそうです。……町で、若様の名を聞きました」
エルドは、炭を止めた。
北の領は王宮の預かりだ、とヴァルドは沢で言った。町に代官がいるとは、誰も言っていない。春のあいだ、三人は下の町の宿にいた。市で買い出しをした。宿の亭主は三人の顔を見ず、市の者は値の話しかしない町だった。代官という言葉を、エルドは今日初めて聞いた。
「王宮の使いが着いた日に町の者が口にしはじめたと。代官が来てからこっち、誰も口にしなかった名だそうです」
クヌートは、そこで一度、火のほうを見た。
「城が焼けた冬からずっと町にいる人だと。……町の者が、そう言っておりました」
言い終えても、クヌートは腰を上げない。まだ何か、言いそびれたものがあるらしい。
◇
日が落ちた。昼の暖かさは、日と一緒に落ちる。火の周りで、外套の襟を立てる者が増えた。
火が落ち着いて、村の子らが縄を回しはじめた。歌が始まる前に、ヨープが上の道から下りてきた。見張りの槍だ。走ってはいないが、速い。
「若様。……峠の向こうに、人がいます。賊の馬ではありません。いい馬です。四騎。旗は無い。こちらを見ています。上がってきません」
供の三人が、立った。今日はもう誰も来ない、と言われて座った三人だ。
エルドも、立った。
峠は、上の湯のさらに上だ。日が落ちて、尾根の線だけが空に残っている。その線の上に火は無い。何も見えない。それでも、見ている者がいる。四騎、と聞いて、朝の畑の下に並んだ四頭を思った。あれは、旗を掲げたくない側だった。峠の四騎がどちら側かは、ここからでは分からない。
「ユリアン殿。王宮の馬ですか」
「……いいえ。私たちは、これで全部です」
ユリアンの声が、少し低くなった。エルドは、峠を見たまま言った。
「見ているだけなら見させておきましょう。明日、発ちます」
「ずいぶん急だね」
「決めたのは、昼前です」
セシルが帳面に一行足しながら口を開いた。
「立会はあと四日あります。町の宿にも湯はあると聞きましたから、立ち会う先が動くなら私も動きます」
ヴァルドが、黙ってうなずいた。
尾根の線は、もう空と見分けがつかなくなっていた。レイフが、エルドの後ろに立った。何も言わずに、同じ線を見ている。
◇
——王の末の子が来た。土間で、私に頭を下げた。夏の終わりまでに王都へ、とある。明日、発つ。
——ユリアン殿の右手に、古い紋がある。誰も知らない紋だそうだ。訊いていない。
——峠の向こうに、旗の無い四騎。上がってこない。夜は、俺が峠を見る。
【改稿履歴】
2026/10/05 ユリアンの右手の甲の描写を、線→紋に変更




