ぼくとズッコケ三人組
ぼくの名前は綴 天地。小学生。
吸字鬼になってから、本を読まないと飢えてしまう体質になったお祖母ちゃんから、面白かった本をドサドサとお勧めされている。ゲームやったりyoutubeみたりとか忙しいんだけど、バッテリーの残量を気にしなくていいっていう所が便利で、いつも一冊は本を持ち歩いている。
今日もお祖母ちゃんの家にある、僕へのおすすめ専用棚から何か一冊持っていこうと登校前に立ち寄ったところだ。
そして今日、ぼくは軽くて持ち運びに便利だから文庫本が好きなのだけど、本棚の下の段には大きめの本も結構あることに気が付いた。
「ねぇ、おばあちゃん。この『ズッコケ三人組』って、学校の図書室にもあったんだけどさ、もっとシリーズたくさんなかったっけ。数冊しかないんだけど」
「ズッコケ? それはモトフミに読ませた時のね。だから三十年くらい前じゃないかしら。もっと?」
本文は父さんの名前だ。
「なるほど、お父さんが小さい時に読んだやつだから、その後は買ってないってことか」
「そうね。今どのくらい出てるのかしら、私も読みたいから全部買ってきて貰える?」
安楽椅子で、日本人の女性が異世界の貴族令嬢に転生する話の新刊を読んでいたお祖母ちゃんが、書庫にやってきた。凄く大雑把に太っ腹な事を言ってるけど、お祖母ちゃんは未読の本を買う時に財布のひもはゆるゆるになるんだ。
お祖母ちゃんのタブレットを借りて何冊あるのか調べてみる。
「まって、お祖母ちゃん、このシリーズ五十冊出てる……」
「まぁ、それは読みごたえがあるわね」
「そんな気楽に買ってきてって言われても」
「そうね、持ちきれないものね。配達して貰いましょう」
「置く場所が! 無いでしょ!」
「本棚も買いましょう。廊下の突き当りにあと一台か二台は置けるから」
「いきなり五十冊買うのは重いってば」
「……そう?」
ちらりと隣の本棚を見る。グインサーガとローダンが並んでいる。比べる対象がこれなのか……
「でも、場所を取るのも確かだから、天ちゃんの部屋に置いて欲しい。そしてお祖母ちゃんに貸して欲しい」
「まって、僕の部屋を書庫候補にしようとしてる?」
すすっと目を逸らされた。
まとめて買うのは一旦保留にして貰って、数冊ずつ買ってくる事になった。何の解決策にもなっていないけれど、近くのレンタル倉庫に本を運んでスペースを空けるらしい。レンタル倉庫をいくつ借りているのかは聞いても教えてくれない。
台所からかりんとうを持ってきてお茶を入れる。今日は緑茶にしよう。お祖母ちゃんは自分でお茶を入れる位はできるのだけど、さすがにトシなのでぼくが来ている時はポットのお湯を入れ替えたり運んだりはすることにしている。年寄りは転んだら大変だからね。
「ズッコケ三人組は、トイレで宿題のドリルとかやる子が出てくる話だったわよね」
「そうだよ。友達のハルキ君が面白いよって教えてくれたからさ、図書室で読んでみたんだ」
「感想、聞きましょう」
お祖母ちゃんが姿勢を正す。他人の感想を聞くのが大好きなお祖母ちゃんは、みるみる若返って髪の毛が黒くなり、しわが消えていく。
「ぼくはね、最初の巻のクイズ番組でズルしようとする話が好き。三人がかりでクイズを解こうとしてるのに協力が協力になってないんだよ」
「あったわね、その話。最近はほとんど見かけないけれど、昔は一般人の参加するテレビ番組って結構あったのよ」
テレビって芸能人が出るものだと思ってたけど、昔は視聴者参加型企画みたいなのがあったらしい。
「で、友達はね、ズッコケ株式会社っていう巻で、三人組がクラスメイトから出資して貰って、それで株式会社を作ってお弁当とか売る話があってそれが面白いって。こういうのやってみたいって言ってた」
「流石に今のご時世で小学生がラーメン売って回るのは……真似はしないでね?」
「しないってば」
「お話はフィクションとして、高校生くらいになったら文化祭でやれるから、それを楽しみにするといいわ」
ドラえもんとかの漫画を読んでいてもたまにあるけど。昔はおおらかに許されていたけども、今はアウトな事っていうのは結構あるみたい。
「古い作品だから今とは違う事がたくさんあるって事だよね?」
「そう。そこがわかってるなら大丈夫」
「それよりもさ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なにかしら」
「昔はさ。ジュースが100円で買えたりとか、したの?」
おばあちゃんはキョトンとした顔をすると、大きな口を開けて笑い始めた。
ぼくが生まれるずーっと前には、消費税も無くて自動販売機のジュースが100円で買えた時代があったらしい。
そっちの方がフィクションっぽくない?




