ぼくとレ・ミゼラブル
ぼくは綴 天地。吸字鬼であんまり飲食が必要じゃないばあちゃんの……おやつを持って来た。
いつものように、ばあちゃんの家に買い物袋を持って入り、冷凍食品を冷凍庫にしまっていく。冷凍餃子どっさり。ハーゲンダッツのアイス。三個パックのヨーグルトは冷蔵に。ドクターペッパーがどっさり入っているのをよけて詰め込む。
この冷蔵庫を見ると、余程ドクペが好きなんだなと思うけど、逆なんだ。何かの本に出てきて気になって箱で買ったけどそのまま減って無いんだよ、これ。なので来るたびにぼくが一本貰ってる。
軽く鼻歌を歌いながら、お煎餅や一口羊羹などの常温でいいものを持ってばあちゃんの読書室に入る。読書室って言うより居間だけどね。ずっといる部屋。
「ん、なんだか聞き覚えがある歌だね?」
「うん、最近動画で見かけてさ。なんかカッコよかったから」
ついつい、鼻歌を歌ってしまっていたようだ。
「た~たかうものの~♪っていう歌詞」
「ああ、民衆の歌だね。レ・ミゼラブルだろう。和名だと『ああ、無情』という名前で出ているよ。第二書庫の手前から三つ目の棚の二段目にあるから」
「ばあちゃん、ぼく読むって言ってないよ?!」
「なんで読まないの?」
「僕はお祖母ちゃんとは違って、題名聞いた本は全部読むわけじゃないんだよ」
え……? みたいな顔をしないで欲しい。吸字鬼と違って三度の食事じゃないんだよ、読書は。
「そもそも無常って事は悲しい話なの? ぼく、ハッピーエンドがいいんだけど」
「それはハッピーエンドの定義の話になるわね?」
「めんどくさいことになった」
「だって、織田信長とかの戦国武将の話だって、三国志だって『最後は死にました』だけど、それはバッドエンドかしら?」
主人公が死んでしまうのはゲームならゲームオーバーなのだし、バッドエンドっぽいけど、ハッピーじゃないかって言われると悩む。
「……目的を達成できたかどうか、って事?」
「そうね。幸せな一生とは言えなくても、その生きざまの中に幸せな瞬間はあったでしょうし、思いが受け継がれたとか、誰かを守れたとか、そういう後に残せる何かがあればバッドエンドとか言いたくないわね。救いの無い結末に向かって突き進んでいく小説もあるにはあるけれど……お祖母ちゃんもハッピーエンドの方が好きね。人の努力は報われるべきよ」
「じゃあ、この話はハッピーエンドのお話なんだね」
そういうとお祖母ちゃんは視線をそらして俯いた。
「まって、今の話の流れでどうして……」
「いや、そう簡単に括れないのよ。このお話は人の心とか善と悪とかのお話だと思うの。でも主人公のジャン・ヴァルジャンが最期に報われたかというのなら、報われたと思う!」
ちょっと重そうな話な予感。
「何か特徴的なエピソード、教えてよ?」
お祖母ちゃんはスラスラと、信用した男に銀の食器を盗まれた後、大切な銀の燭台もあたえて盗人の窃盗を無かった事にしたという、ジャン・ヴァルジャンの改心のきっかけとなるエピソードを話して聞かせた。
「有名なのはこの、序盤のミュリエル神父のエピソードだけど、善であろうとする男の物語以外にも、革命のシーンもミュージカルなどでは有名よね。貴方が歌っていた民衆の歌もあるし。
善悪の話でもあるけれど、私はジャベール警部に着目して貰いたいわね。『法』と『善』がイコールなのかという話になると思うの」
まぁ、そんなに言うなら読んでみるけど。お祖母ちゃんの指定した本棚に向かってみることにした。
「うわぁ! なにこれ、なんでこんなにあるの!」
「角川版? 岩波版がおススメだけど、ちくま版もいいわよ。他に新潮文庫からも出ているし、河出書房の文学全集にも載ってるわ。他にも」
「いいよ、一個でいいよ!」
いろんな出版社から出てるって事はそれだけ人気のある名作なんだろうな。でも、ぼくはそれを全部読み比べするっていう濃い趣味は無いんだよなぁ。




