第2章《神々の継承者編》 第19話《観測固定》
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村長ハベルが読み上げた通知を聞いたレオン・アークレイアは、治療所の机へ置いていた左手を無意識に握り、そのまま数秒ほど返事を忘れていた。
神殿から誰かが来ること自体は、すでに知らされている。
右手の黒い痕、《レグナ・ゼオ》、灰色の砂と金属針、それから古代施設から保護されたエリシアについて、地方だけでは扱いを決められないと判断された以上、王国か神殿の人間が来ることは避けられなかった。
それでも、名前と到着時刻が決まると意味が違う。
「明日の午後って、かなり近いな」
レオンが言うと、向かいで記録帳を開いていたノア・フェルディが通知文を見ながら頷いた。
「昨日までなら『何日かしたら来る』だったけど、今は明日のどの時間に会うか考えないといけないもんね」
「カイ・アルヴァレインって知ってる?」
「名前だけなら聞いたことあるよ。《天律》の契約者でしょう?」
レオンは眉を寄せた。
「有名なのか?」
「レオンが知らなすぎるんだと思う」
「俺、神殿の騎士なんて毎日調べないし」
「遺跡の石は毎日調べるのに?」
「興味の問題だろ」
ノアはそれ以上言わなかった。
代わりに、村長から渡された通知の写しへ目を戻す。
そこにはカイだけでなく、同行者としてエレナ・サフィールという神殿騎士の名前も記されている。さらに、カイが《天律》を所持したまま来ること、今回の訪問目的が即時拘束ではなく危険性と接続構造の確認であることも、簡潔ながら明記されていた。
レオンはその部分をもう一度読む。
「《到着後、直ちに強制接続解除を行う予定はない》」
声に出す。
エリシアが隣で聞いていた。
今日は治療所の寝台ではなく、机まで自分で歩いてきている。長時間立つことはまだ許されていないものの、治療所と井戸を往復する程度なら自分の荷物を持って歩けるまで回復していた。
「予定はないってことは、必要だと思ったらやるかもしれないんだよね」
エリシアが言った。
レオンは彼女を見る。
「そう読める」
「レオンは嫌?」
「何が?」
「《レグナ・ゼオ》との接続を切られること」
レオンはすぐに答えられなかった。
右手を見る。
黒い痕は今朝からほとんど色を変えていない。
灰色の砂へ近づける試験も、治療担当者から止められたままだ。
《レグナ・ゼオ》との関係が何なのか、自分自身にもまだ分からない。
それなのに、切られるかもしれないと聞いただけで、胸の奥にははっきりした抵抗が生まれていた。
「嫌だと思う」
正直に答える。
「理由は?」
エリシアに聞かれ、レオンはさらに考えた。
「俺が見つけたから、って言いそうになった」
「でも?」
「見つけたから俺のものって決まったわけじゃない」
「うん」
「それでも、何なのか分からないまま切られたら、もう調べられなくなるかもしれない。それが嫌なんだと思う」
エリシアは少しだけ視線を下げた。
「私も似てる」
「何が?」
「私の記憶と《レグナ・ゼオ》が関係してるかもしれないなら、何も分からないまま切られるのは怖い。でも、危険ならそのままでいいとも思わない」
「じゃあ、どうする?」
レオンが尋ねると、エリシアは通知文を見る。
「カイに、どうして切る必要があると思うのか聞く。それから、何を切るつもりなのかも聞きたい」
その言葉で、レオンは少し止まった。
何を切るのか。
《レグナ・ゼオ》との接続。
通知にはそう書いてある。
しかし、自分にはその接続が何なのか分からない。
「そういえば、俺も分かってない」
「何を?」
ノアが尋ねる。
「《接続》って言ってるけど、何を見て接続してるって決めたんだ?」
三人の間に少しだけ沈黙が生まれた。
最初に右手が熱くなった。
古代施設が反応した。
《レグナ・ゼオ》に近づいたとき、身体へ強い魂力が流れ込んだような感覚があった。
その後、村で《灰牙》に襲われたときには、石を持っていないのに右手から高出力の魂力を放った。
それらを見れば、何かが繋がっていると考えるのは自然だった。
けれど、「何かが関係している」ことと、「切断可能な一本の接続がある」ことは同じではない。
「最初に《接続》って書いたの、俺かもしれない」
レオンが記録帳の古いページをめくる。
ノアも覗き込む。
遺跡発見直後の乱れた字。
《右手の印と内部の石が接続?》
疑問符付き。
そこから後の記録では、少しずつ疑問符が減っている。
《接続反応》
《接続時の熱》
《接続解除の可能性》
「最初は仮説だったんだ」
ノアが言った。
「ああ」
「なのに、途中から普通の名前みたいに使ってる」
エリシアがページを見る。
「神殿にも、その言葉で伝わった?」
「たぶん」
レオンの胸へ嫌な感覚が広がる。
誰かが嘘をついたわけではない。
自分が感じたことを書いた。
周囲もそれを使った。
報告書へ入り、グランゼへ渡り、神殿へ届く頃には、《接続》は出来事を説明するための正式な言葉のように見える。
「これ、直した方がいい」
レオンが言う。
ノアが筆を取る。
「どう書く?」
レオンは少し考えた。
「《右手とレグナ・ゼオの間に何らかの関連反応あり。ただし、その構造を接続と呼べるかは未確認》」
ノアが書く。
エリシアが頷く。
「それなら、カイにも最初に伝えた方がいいと思う」
「神殿がもう接続だって決めてたら?」
「だから聞くんでしょう?」
返され、レオンは小さく息を吐いた。
「そうだった」
それだけの確認なのに、自分がカイと会う目的が少し変わった。
神殿の命令へ反対することだけを考えていた。
今は、その命令が何を前提に作られたのか確かめる必要がある。
もし神殿側も「接続」という言葉を仮のものとして使っているなら、最初から争う理由は減る。
逆に、構造を知らないまま《天律》で切れると考えているなら、そこは止めなければならない。
「明日、最初にこれ聞く」
レオンが言った。
「何を?」
ノアが尋ねる。
「カイが《接続》を何だと思ってるか」
「喧嘩みたいに聞かないでね」
「普通に聞くよ」
「レオンの普通が心配」
「最近はちゃんとしてるだろ」
エリシアが少し笑った。
「最近はね」
また同じことを言われる。
しかし今度は、レオンも笑った。
◇
午後になると、レオンは自宅へ戻る許可を得た。
治療所からアークレイア家までなら距離は短く、左膝も平地歩行には問題ないところまで戻っている。ただし右腕はまだ固定されているため、重い荷物を持つことと、急な動作、それから魂力を流す行為は禁止されたままだった。
エリシアも一緒に来る。
今日の歩行量なら往復できると判断され、自分の布袋には半分だけ満たした水筒と一回分の保存食を入れている。
ノアは記録帳を持った。
治療所を出ると、昼過ぎの風が三人の服を強く押した。
エリシアが借りている上着は少し大きいため、横から風を受けるたびに袖が膨らみ、彼女は歩きながら何度も手首の部分を押さえている。
「動きにくい?」
レオンが尋ねた。
「少し。でも前より慣れた」
「別の服借りる?」
「これ、暖かいから嫌じゃない」
「だったら袖だけ留める?」
ノアが提案する。
「紐で?」
「うん。うちに余ってるのあると思う」
エリシアは少し考えた。
「お願いしてもいい?」
「もちろん」
そんな会話をしながら歩く。
神殿騎士が明日来る。
未知の力を調べられる。
《灰牙》も完全には消えていない。
それでも、今ここでは上着の袖が風で邪魔になることも十分に大事だった。
レオンは自宅へ着くと、母のミレアから最初に右腕を確認された。
「痛みは?」
「二くらい」
「痺れは?」
「ほとんどない」
「右手使ってない?」
「使ってない」
「魂力は?」
「流してない」
「本当に?」
「何回確認するんだよ」
「昨日までなら、これくらい聞かないと心配だったからでしょう」
いつもの答えだった。
レオンは諦める。
父のエドガーは作業場から戻ったばかりらしく、木屑の付いた上着を払っていた。
妹のルナもいる。
「兄ちゃん、神殿の人来るんだって?」
「明日な」
「強い?」
「たぶん」
「兄ちゃんより?」
「比べる意味ないだろ」
「負ける?」
「戦う前提にするな」
ルナは少し不満そうに口を尖らせた。
「だって《天律》ってすごい石なんでしょう?」
ノアが横から言う。
「神核級だよ」
「神核級?」
エリシアが反応する。
レオンも彼女を見る。
そういえば、階級そのものを十分に説明していなかった。
「ソウルストーンには、扱われ方の違いでいくつか階級があるんだ」
説明しようとして、レオンは一度止めた。
全部を話す必要はない。
今必要なのは《天律》がどの程度危険な石として扱われているかだけだ。
「一般に使われてる石よりずっと高位で、神殿が厳しく管理する種類だと思えばいい。《天律》はその中でも有名な石らしい」
「何ができるの?」
エリシアが聞く。
「関係とか経路を切るって、通知には書いてある」
「何でも?」
「そこまでは分からない」
ノアが補う。
「知ってるものなら何でも切れる、みたいな話をする人もいるけど、噂だから本当かは分からないよ」
エリシアは右手を見た。
「もしレオンと《レグナ・ゼオ》の間に何かあったら、それを切れるかもしれない?」
「神殿はその可能性を考えてる」
レオンが答えた。
「でも、何が繋がってるのか分かってないのに切れるのか、明日聞く」
「うん」
エドガーが会話を聞きながら言った。
「その前に、今日やることを忘れるなよ」
「今日?」
「荷物」
レオンは父を見る。
作業台の横には、いつもの探索用の袋が置いてある。
古い革袋。
採掘用の小槌。
細い縄。
火口。
予備の布。
小型の魂晶灯。
水筒。
以前はそれだけで遺跡へ向かっていた。
「何で出してるの?」
「明日、神殿の騎士と話したあと、遺跡へ行くことになる可能性が絶対にないとは言えないだろ」
レオンの表情が少し変わった。
「行っていいの?」
「許可したとは言ってない」
「何だよ」
「だから、行けることになった場合に必要なものを先に考えておけと言ってる」
エドガーは袋を机へ置いた。
「前のお前は、入りたいと思ってから道具を集めてた。今度は逆にしろ」
「必要なものが揃わなかったら?」
「行かない」
即答だった。
レオンは少し黙る。
以前なら、足りない道具を「何とかなる」と考えたと思う。
今は、それで怪我をした結果が右腕と膝へ残っている。
「分かった」
「まず、その袋を左手だけで持てるか試せ」
レオンは持ち上げようとした。
重い。
右腕を使えば普通に持てる。
けれど左だけでは持ちにくく、肩へ掛けようとすると身体が傾く。
「無理だな」
自分から下ろした。
エドガーが頷く。
「なら今の荷物量では行けない」
「減らせる」
「何を?」
レオンは中身を見る。
小槌。
縄。
灯り。
水。
布。
火口。
採掘道具。
「小槌はいらない」
「どうして?」
「今回、石を掘りに行くわけじゃないから」
横へ出す。
「太い縄も、遺跡の入口までは必要ないかもしれない」
「内部で段差があったら?」
「それは必要か」
戻す。
考える。
以前は「使うかもしれないもの」を全部入れた。
今は、「使う可能性」と「自分が運べるか」を比べなければならない。
エリシアも机へ近づいた。
「私も自分の分を考えたい」
「何を持つ?」
レオンが尋ねる。
「水と食べ物と治療布。それから、私が昔の文字を見たときに書くもの」
ノアが記録帳を軽く上げる。
「記録は私が行くなら持つよ」
三人とも止まった。
「ノア」
レオンが言う。
「何?」
「行くって決めたの?」
前に聞いたとき、ノアは考えると言った。
レオンが行くから自分も行く、とは決めないと。
ノアはすぐには答えなかった。
「まだ完全には」
「じゃあ、今の言い方は?」
「行くことになったら持つって意味」
「そっか」
レオンは少しだけ残念に思った。
その感情を隠す必要があるか迷い、結局そのまま言った。
「俺は来てほしいと思ってる」
ノアが見る。
「前も言ってたね」
「でも、ノアが決めることだってのも分かってる」
「うん」
「だから、来てほしいけど、行けとは言わない」
ノアは少し黙った。
「私も、行きたい気持ちはあるよ」
「本当?」
「でも、怖い」
その言葉をレオンは聞いた。
《灰牙》。
戦闘。
逃走。
レオン自身の力の暴発。
ノアは戦えるわけではない。
怖くないはずがない。
「怖いなら来なくても――」
言いかけて止める。
怖いから行かない。
それもレオンが決めることではない。
「ごめん。今のなし」
「何で?」
「また俺が決めそうになった」
ノアは少し笑った。
「でも、心配して言ってくれたんでしょう?」
「ああ」
「それなら、心配することまでやめなくていいよ」
レオンは少しだけ目を見開いた。
エリシアも二人を見る。
ノアは続ける。
「私が決めるっていうのは、レオンが何も言わないってことじゃないでしょう。危ないと思うなら言って。そのうえで私が考える」
「分かった」
「私も、レオンが危ないことしようとしたら言うから」
「それはもう何回も言われてる」
「じゃあ慣れてるね」
三人で笑う。
エドガーは少し離れた場所で作業を続けながら、口を挟まなかった。
◇
荷物の確認には、思っていたより時間が掛かった。
小槌を外す。
縄は細いものへ変える。
水筒は満量ではなく、途中で補給できる場合を考えて量を調整する。
治療布は減らさない。
予備灯は一つだけ。
食料は一日分ではなく、帰還が遅れる可能性を見て一回分だけ余分に入れる。
結果として、以前の探索袋より軽くなった。
それでも、右腕が使えないレオンにはまだ重い。
「今の身体なら、誰かと分担しないと無理だな」
自分で言う。
エドガーが答えた。
「それでいい」
「よくないよ。俺の荷物だぞ」
「だから?」
「自分で持てないなら――」
「行けない?」
レオンは言葉を止めた。
少し前の自分なら、そう考えた。
自分の荷物を誰かへ持たせるなら、自分が行く資格がないように感じる。
でも、エリシアが水筒を自分へ渡したとき、その選択を弱いとは思わなかった。
必要な荷物を分けた。
それだけだった。
「分担すれば行けるなら、それも条件に入るのか」
「同行者が了承するならな」
エドガーが言う。
「勝手に持たせるなよ」
「分かってる」
エリシアが横から言った。
「私も重くなったら頼む」
「俺、右腕治ってないと持てないぞ」
「そのときはノアか、ほかの人に頼む」
ノアが笑う。
「私はまだ行くって決めてないよ」
「だから、行くなら」
「それならいい」
荷物一つでも、条件が増える。
誰が行くか。
誰が何を持つか。
途中で誰かが疲れたらどうするか。
それでも、以前より準備が面倒になったとは思わなかった。
むしろ、自分がどこで他人の力を必要とするのか見えるようになった。
「これ、明日カイにも見せる?」
ノアが尋ねる。
「荷物を?」
「私たちが遺跡へ行くつもりなら、神殿側が何を必要だと思ってるか聞けるでしょう?」
レオンは少し抵抗を感じた。
神殿の騎士に、自分たちの探索準備まで確認してもらう。
許可をもらうようで嫌だった。
でも、違う。
「意見は聞く」
レオンが答える。
「言われた通り全部変えるかは別だけど」
「それでいいと思う」
エリシアも頷いた。
「神殿が持ってる道具で、私たちが知らないものがあるかもしれないし」
「逆に持ってけって言われた物が重すぎたら?」
「無理って言う」
即答だった。
レオンは笑う。
「エリシア、最近本当に強くなったな」
「身体はまだレオンより弱いよ」
「そっちじゃない」
「じゃあ何?」
レオンは答えようとして、少し迷った。
言葉にすると違う気がする。
「自分で決めるのが、前より普通になってきた」
エリシアは驚いたようにレオンを見る。
「最初は普通じゃなかった?」
「最初は、何か聞くたびに『これ言っていいのかな』って顔してた」
「そんな顔してた?」
「してた」
ノアも頷く。
「してたと思う」
エリシアは少し恥ずかしそうに袖を触った。
風が窓から入り、借りた上着の布を揺らす。
「今も怖いよ」
「何が?」
「間違えること」
レオンは黙って聞く。
「自分で決めたのに、あとで違ったって分かったらどうしようって思う。でも、昨日村長が、間違ったら直すって言ってたでしょう」
「ああ」
「だから、最初から絶対正しい答えを選ばなくてもいいのかなって」
レオンはその言葉を考えた。
右手。
《レグナ・ゼオ》。
《灰牙》。
神殿。
自分も、最初から正解を出そうとしていた。
何かが起きれば、一つの原因を決める。
右手だと思う。
エリシアだと思う。
《レグナ・ゼオ》だと思う。
そのたびに情報が増え、仮説が崩れる。
「俺も同じかも」
「何が?」
「間違えたくないから、早く答え決めてたのかもしれない」
「逆じゃない?」
ノアが尋ねる。
「普通は間違えたくないなら慎重になるでしょう?」
「分からないままなのが嫌なんだよ」
「それは知ってる」
レオンは記録帳を見る。
《接続?》
最初は疑問符があった。
いつの間にか消えた。
言葉を固定すると、分かった気になる。
それは便利だった。
でも、その便利さのせいで確認を飛ばすこともある。
「明日、カイに話すとき、最初から全部否定しない方がいいな」
レオンが言った。
ノアが見る。
「神殿のこと?」
「ああ。俺、接続解除って聞いただけで嫌だと思った。でも、神殿が何を危険だと考えてるかまだちゃんと聞いてない」
「移送は?」
「嫌だ」
「そこは変わらない?」
「勝手に連れていかれるなら嫌。でも理由を聞く」
エリシアも言う。
「私も」
「それで、納得したら?」
ノアが尋ねる。
レオンは少し考えた。
「変えるかもしれない」
自分で言うと、少し奇妙だった。
神殿に反対する。
それが自分の意思だと思っていた。
でも、自分で決めるというのは、最初の意見を最後まで変えないことではない。
情報を聞いて、それでも同じなら残す。
違うと思えば変える。
「カイも変えると思う?」
エリシアが尋ねた。
「分からない」
レオンは答える。
「だから明日見る」
その返事で十分だった。
◇
夕食はアークレイア家で取ることになった。
エリシアが治療所の外で食事をするのは、保護されてから初めてだった。
ミレアは特別な料理を用意しなかった。
豆と根菜の煮込み。
焼いた薄いパン。
塩漬け肉を少し。
畑の作業が遅れているため、葉野菜の量は普段より少ないらしい。
「ごめんなさい」
エリシアが食卓を見て言った。
ミレアが眉を寄せる。
「何が?」
「私の分、増やしてもらったから」
「一人分増えたくらいで困らないわよ」
「でも村の食べ物減ってるって」
「減ってるから、何をどのくらい使うか考えてるの。だから食べる分まで遠慮しなくていいのよ」
「残したら?」
「最初に少なく取って、足りなければ増やせばいいでしょう」
エリシアは頷いた。
自分で器へ取る。
最初は少なめ。
食べられたら足す。
それだけのことでも、治療所で決めてもらっていた頃とは違う。
レオンは左手で食事をすることにもかなり慣れた。
右手は固定されたままだが、器をノアや父に押さえてもらわなくても、今日は自分で最後まで食べられる。
「兄ちゃん、明日神殿の人と戦うの?」
ルナがまた聞く。
「戦わないって言ってるだろ」
「もし向こうが攻撃してきたら?」
「逃げる」
以前なら、戦うと答えたかもしれない。
ルナも意外だったらしく目を丸くする。
「勝たないの?」
「何に?」
「神殿の人に」
「話しに来る奴を倒してどうするんだよ」
「でも強いんでしょう?」
「強いから戦わない方がいいだろ」
エドガーが笑った。
「そこまで分かるようになったなら、怪我した意味も少しはあったな」
「怪我しなくても分かりたかったけどな」
「次はそうしろ」
食卓に笑いが広がる。
エリシアも小さく笑った。
食事が終わる頃、外はかなり暗くなっていた。
治療所まで帰るには問題ない距離だが、夜風が強くなっている。
ノアが自宅から持ってきた細い紐で、エリシアの上着の袖口を軽く留めた。
「きつくない?」
「大丈夫」
腕を動かす。
風が入っても袖が大きく膨らまない。
「これ、借りてもいい?」
「もちろん。返すのはその上着返すときでいいよ」
「ありがとう」
エリシアは手首の紐を見る。
小さなもの。
でも歩きやすさが変わる。
必要な助けは、いつも大きなものではない。
レオンはそのやり取りを見ながら、明日のことを考えた。
カイ。
エレナ。
《天律》。
神殿。
どんな人間かはまだ知らない。
強いという噂だけ。
命令書の内容だけ。
それで相手を決めるのは、自分が《接続》という言葉を固定してしまったのと同じかもしれない。
「レオン」
ノアが呼ぶ。
「何?」
「明日、面談に私もいていいのかな」
「俺はいてほしい」
「エリシアは?」
「私も」
ノアは少し考えた。
「じゃあ、カイにも聞こう」
「何で?」
「神殿側が個別に話したい理由があるかもしれないから」
「それはそうか」
「最初は三人で話して、必要なら別々に?」
エリシアが言う。
レオンは頷いた。
「それでいいと思う」
自分の右手の話だから、自分だけで聞く。
以前ならそう思った。
今は違う。
自分だけでは気づかないことがある。
ノアが記録する。
エリシアが別の質問をする。
それで相手の説明が少しでも正確になるなら、一人で抱える意味はない。
「記録帳も持っていこう」
レオンが言った。
ノアが聞く。
「私が?」
「ああ。頼む」
「レオンの記録だけど?」
「もう俺だけの記録じゃないだろ」
言ってから、自分でも少し驚いた。
ノアも同じだったらしく、すぐには返事をしなかった。
記録帳にはノアの字がある。
エリシアの発言もある。
バルガスから聞いたこと。
村長の判断。
《灰牙》の証言。
ドルガの昔話。
最初は自分が見つけた遺跡を自分のために残す帳面だった。
今は、複数の人が何を見て、何をまだ分からないと考えたかを残している。
「そうだね」
ノアが笑った。
「じゃあ、明日も私が持つ」
「頼む」
エリシアも記録帳を見る。
「私が言いたくないことを書かないでって言ったら?」
「書かないよ」
ノアが答える。
「あとで必要になったら?」
「そのとき、エリシアが書いていいって言ったら書く」
「分かった」
また一つ、決め方が増えた。
◇
治療所へ戻ったあと、レオンは右腕の状態をもう一度確認された。
痛みは二。
痺れなし。
指の動きも正常。
皮膚の下に残っていた赤みも薄くなっている。
それでも、魂力使用許可は出なかった。
「明日、神殿の人が来る」
レオンが治療担当の女性へ言う。
「聞いてるわ」
「右手を調べるって」
「それも聞いてる」
「力を出して見せろって言われたら?」
女性は包帯を巻き直しながら答えた。
「私は反対する」
「神殿が必要だって言っても?」
「まず、今の状態で使用する医学的な必要性があるか聞く」
「神殿の騎士より、治療所の判断を優先する?」
「治療についてはね」
迷いがない。
「でも、最終的にどうするかは?」
「あなたにも聞く」
レオンは少し笑った。
「最近、その答えばっかりだ」
「嫌?」
「いや」
「なら覚えておきなさい。明日、相手がどれだけ強い石を持っていても、あなたの身体を使う検査なら、何をするのか説明を聞いてから決めればいい」
「危険だから絶対必要って言われたら?」
「何が危険なのか聞く」
「すぐやらないと誰かが危ないって言われたら?」
「そのときは待てない場合もある」
「じゃあ、結局従う?」
女性はそこで手を止めた。
「従う、従わないだけで考えない方がいいわ。急ぐ理由が本当にあるなら、私もあなたへ検査を勧める。それでも方法が危険なら、別の方法を求める」
「カイが別の方法ないって言ったら?」
「その根拠を聞く」
レオンは頷いた。
どこへ行っても同じだった。
聞く。
説明する。
条件を見る。
答えが違えば話す。
それでも時間がなければ、その時点で決める。
単純ではない。
でも、単純な方が正しいとも限らない。
治療が終わった。
「今日はよく寝ること」
「分かってる」
「カイが来るからって夜中まで質問考えない」
「それは……」
「何?」
「少しだけ」
「一刻まで」
「二刻」
「一刻半」
「分かった」
交渉が成立した。
ノアが後ろで笑っている。
「何?」
レオンが聞く。
「ちゃんと条件決めてるなって思って」
「俺だって学ぶんだよ」
「遅いけどね」
「一言多い」
エリシアも笑った。
◇
翌朝、風は前日より強かった。
窓を開けると冷たい空気が入り、吊るしてあった薄い布が大きく揺れた。
レオンは約束通り夜更かしを一刻半で止めたため、睡眠は足りている。
右腕の痛みは一まで下がった。
それでも固定布は外れない。
エリシアは自分で水筒へ水を入れた。
満量にはしない。
午前中に必要な量だけ。
午後は神殿騎士との面談があるため、遠くへ歩く予定もない。
ノアは朝食後に自宅から来た。
記録帳を持っている。
「今日、私が持ってていいんだよね」
「ああ」
「途中で返せって言わない?」
「言わない」
「本当に?」
「信用ないな」
「昔のレオンなら、知らない人に見せる直前になって自分で持つって言いそうだから」
否定しづらい。
「今日は任せる」
「分かった」
三人で治療所前の長椅子へ座る。
村長ハベルも少しして来た。
「カイたちは予定通り進んでるそうだ」
「何時頃?」
レオンが尋ねる。
「昼を過ぎてから。道の状態が悪くなければ午後の第二鐘より前だろう」
「最初にどこへ?」
「集会所へ来てもらう。まず私とダルが神殿側の任務内容を確認する」
「俺たちは後?」
「そのつもりだ」
レオンは少し不満だった。
自分のことなのに、自分より先に村長が話す。
しかし、それをそのまま口へ出す前に考えた。
神殿騎士は村へ来る。
村の中で話す。
なら、村長が先に対応するのは不自然ではない。
「俺たちも最初から同席したいって言ったら?」
ハベルはレオンを見る。
「理由は?」
「俺たちについて何を決めるつもりなのか、後から聞くより直接聞きたい」
「神殿側がまず現地責任者だけと話したいと言ったら?」
「その理由を聞く」
「分かった。希望として伝える」
即座に認めるでも、拒否するでもない。
ハベルは続けた。
「ただし、村側として確認しなければならない話もある。灰牙、遺跡封鎖、村の警備。この三つは君たち個人の問題とは別だ」
レオンは頷いた。
「じゃあ、そこは村長たちで話して。そのあと俺たちの話になったら呼んでほしい」
「それなら妥当だと思う」
「エリシアは?」
レオンが聞く。
エリシアも頷いた。
「私もそれでいい」
ノアが尋ねる。
「私は?」
ハベルは少し考えた。
「本人二人が同席を希望して、神殿側が異議を出さなければ構わないと思う。ただ、個別の身体検査へは別だ」
「そこは分かってます」
レオンがノアを見る。
「来てほしい」
「分かった」
昨日までは「行くかどうか考える」と言っていたノアが、神殿との面談については迷わず答えた。
遺跡へ同行することとは別。
今できることとして、記録を持つ。
その選択だけはもう決めている。
「それで」
ハベルが三人を見る。
「神殿側へ最初に何を伝える?」
レオンは昨日書き直した記録を開こうとして、ノアが持っていることを思い出した。
「ノア、あのページ」
「これ?」
開いて見せる。
《右手とレグナ・ゼオの間に何らかの関連反応あり。ただし、その構造を接続と呼べるかは未確認》
レオンは指を置かず、目だけで確認した。
「これを最初に言う」
ハベルが読む。
「どうして?」
「神殿の通知には接続解除って書いてある。でも、その接続って言葉の元はたぶん俺の仮説だから」
ハベルの表情が変わる。
「そうなのか?」
「最初の記録に疑問符付きで書いてた。そのあと俺たちが普通に使うようになって、報告にも入った」
「グランゼ側でも、そのまま使った可能性があるな」
「だから、カイが何を見て《接続》だと思ってるのか聞きたい」
ハベルは頷いた。
「重要だと思う」
エリシアが続ける。
「私は、切る必要があるなら理由を聞く。それと、何を切ったら私やレオンに何が起きるのか分かってるかも聞きたい」
「分からないと言われたら?」
ハベルが尋ねる。
「分からないなら、その状態で切るのは怖いって言う」
「それでも危険だから必要と言われたら?」
エリシアは少し考えた。
「何もしないと起きる危険と、切ったときに起きる危険を比べたい」
ハベルは小さく息を吐いた。
「数日前より、ずいぶん質問が増えたね」
「多すぎますか?」
「逆だよ。答えを先に決めるよりいい」
レオンも聞く。
「村長は、神殿に従った方がいいと思ってる?」
「内容次第だ」
「神殿の方が村より詳しいだろ」
「だから意見を聞く価値がある。ただ、詳しいことと、現地のすべてを知っていることは同じではない」
「じゃあ俺たちの方が正しい?」
「それも違う」
レオンは少し笑った。
「分かってたけど聞いた」
「試すな」
ハベルも笑う。
風がまた強くなった。
エリシアの袖口はノアが結んだ紐のおかげで大きく膨らまない。
ノアは記録帳を胸へ抱える。
レオンの右腕はまだ固定されている。
三人とも、今日の午後に何が決まるかは知らない。
それでも、前より準備はできている。
「午後まで何する?」
ノアが尋ねた。
レオンは少し考える。
以前なら、カイが来るまで遺跡の資料を読み続けたと思う。
今は違う。
「俺は治療のあと、父さんと荷物をもう一回確認する」
「エリシアは?」
「午前中の歩行量を終わらせて、昼まで休む。疲れたまま話したくないから」
「私、記録の質問を整理する」
それぞれ違う。
でも、同じ面談へ向かうための準備だった。
「じゃあ昼にまた集まる?」
ノアが聞く。
「うん」
エリシアが答える。
レオンも頷いた。
三人が立ち上がる。
ノアは自然に記録帳を持ったまま歩き始めた。
レオンはそれを返してもらおうとはしなかった。
自分の右手について書かれた記録。
自分が見つけた遺跡の記録。
それを今は、誰かに預けたままでも不安ではなかった。
ノアが数歩先へ進んでから、レオンは自分も治療室へ向かおうとする。
その隣へエリシアが並ぶ。
「緊張してる?」
エリシアが尋ねた。
「少し」
「私も」
「怖い?」
「少し。でも、話せるなら話したい」
「俺も」
「カイが嫌な人だったら?」
「そのときは嫌だって言う」
「強かったら?」
「強いことと話が正しいことは別だろ」
エリシアが笑った。
「それ、明日まで忘れないでね」
「今日来るんだぞ」
「そうだった」
二人で笑う。
時間を間違えたことより、エリシアが「明日」という言葉を自然に使ったことの方が、レオンには少し嬉しかった。
数日前、彼女にとって未来は何千年も飛ばされた先に突然現れた大きな空白だった。
今は、今日の午後があり、その次の朝がある。
何を食べるか。
どこまで歩くか。
誰と話すか。
そういう小さな予定が未来を埋め始めている。
レオンはそのことを本人へ言わなかった。
言葉にしなくても、今一緒に歩いている事実で十分だった。
◇
昼前、レオンは父と探索袋をもう一度開いた。
昨日よりさらに一つ、荷物を減らす。
古い採掘記録の束。
必要なページだけをノアの記録帳へ写してあり、束ごと持つ必要はない。
代わりに、治療布を一枚増やした。
重量はほぼ変わらない。
用途は変わる。
「これで、右腕が治れば自分でも持てそう」
レオンが言う。
エドガーが袋を持ち上げる。
「お前が行く時点の身体次第だ」
「分かってる」
「それと、神殿が護衛を出すと言ったら?」
「話を聞く」
「断る理由は?」
「今のところない」
以前なら、自分で見つけた場所へ神殿の騎士を入れることに抵抗したと思う。
今も完全に平気ではない。
それでも、《灰牙》がいる。
自分は戦闘経験が足りない。
エリシアも十分に動けない。
護衛が必要なら、強い人間がいる方が安全だ。
「ただ、勝手に遺跡のもの持ってくなら嫌だ」
「そのときは?」
「止める」
「どうやって?」
質問され、レオンは一瞬黙った。
力で。
そう言いかける。
カイは《天律》を持っている。
今の自分が勝てる相手ではない。
そもそも戦う必要もない。
「まず話す」
「それでも持っていったら?」
「村長と領主側にも言う」
「それでも?」
「……その先は、そのとき考える」
エドガーが頷く。
「それでいい」
「答えないのに?」
「今分からない条件まで決めても仕方ないだろ」
レオンは少し笑った。
父も同じことを言う。
今ある条件で考える。
あとで変われば考え直す。
「父さん」
「何だ?」
「俺、遺跡見つけたとき、自分だけで見つけたって思ってた」
エドガーが手を止める。
「急に何だ」
「今見ると、ノアが記録持って、村長が神殿と話して、バルガスが外調べて、父さんが荷物見て、治療所の人が身体見てる」
「そうだな」
「俺の遺跡じゃなくなったみたいで、前なら嫌だったと思う」
「今は?」
レオンは袋を見る。
「俺が見つけたことは変わらない。でも、それで全部俺が決める理由にはならないって、少し分かった」
エドガーは何も言わなかった。
しばらくして、袋の留め具を締める。
「なら、そのことを忘れるな」
「褒めないの?」
「褒めたら調子に乗る」
「ひどいな」
「今までの実績だ」
また同じだった。
レオンは笑った。
◇
昼食後、三人は集会所の裏にある小さな待機室へ集まった。
カイたちが到着するまで、あと一刻ほど。
ノアが質問項目を読み上げる。
最初。
《神殿は何を危険と判断しているか》
次。
《接続という言葉をどのような構造として認識しているか》
《天律で解除する場合、何を切るのか》
《解除によってレオンまたはレグナ・ゼオへ何が起きると予測しているか》
《エリシアを移送する必要があると考える条件》
《村に残したまま安全を確保する方法はあるか》
レオンが聞いているうちに言う。
「多いな」
ノアが顔を上げる。
「減らす?」
「いや。聞きたい」
エリシアも自分の項目を見る。
《記憶について答えたくない質問は拒否してよいか》
《自分の過去を調べるため、遺跡へ戻ることを神殿はどう考えるか》
《保護という言葉に中央移送以外の方法も含むか》
それぞれ違う質問。
その違いが大事だった。
「ノアの質問は?」
レオンが聞く。
「私?」
「記録するだけじゃなくて、何か聞きたいことないの?」
ノアは少し考えた。
「あるよ」
「何?」
「私たちが神殿の説明を聞いたあと、考える時間をもらえるか」
レオンは少し驚いた。
「その場で決めなくていいかってこと?」
「うん。危険がすぐじゃないなら、一回持ち帰って話したい」
エリシアが頷く。
「それ聞いてほしい」
「分かった」
ノアが自分の項目へ書き足す。
レオンはその字を見る。
昔なら、答えを聞いたその場で賛成か反対か決めたと思う。
今は、一度持ち帰って考えるという選択肢もある。
ただし、本当に危険が切迫していないなら。
そこも聞く必要がある。
外で馬の音がした。
三人とも顔を上げる。
一頭ではない。
複数。
まだ遠い。
村の入口へ近づいてくる蹄の音。
レオンの胸が少し強く鳴る。
右手は反応していない。
黒い痕も変わらない。
「来た?」
エリシアが尋ねる。
ノアが窓へ寄る。
「たぶん」
レオンも立ち上がろうとした。
その瞬間、左膝へ僅かな重さを感じる。
痛みではない。
長く座っていたせいだ。
それでも急がない。
ゆっくり立つ。
記録帳はノアが持つ。
エリシアは自分の布袋を肩へ掛ける。
レオンは右腕の固定を確認する。
三人とも準備が違う。
「行く?」
ノアが聞く。
レオンは一度息を吐いた。
「村長が呼ぶまで待つ」
自分でも意外な答えだった。
会いたい。
早く確かめたい。
それでも、村長と神殿側が最初に村全体の話をする約束になっている。
今そこへ割り込む理由はない。
「待てるんだ」
エリシアが少し笑う。
「最近はな」
「自分で言った」
「何回も言われるから」
馬の音が近づく。
やがて集会所の前で止まる。
人の声。
装備の金具が触れる音。
誰かが村長を呼ぶ。
カイ・アルヴァレインがすぐ外にいる。
レオンは窓へ近づかなかった。
代わりに、ノアが持つ記録帳を見る。
最初に聞くことは決めてある。
相手が強いかどうかではない。
神殿が正しいかどうかでもない。
自分たちが間違っていないと証明することでもない。
同じ言葉を、同じ意味で使っているのか。
そこから確かめる。
しばらくして、待機室の扉が開いた。
村長ハベルが顔を出す。
「レオン、エリシア。それからノアも、神殿側が三人同席で構わないそうだ」
レオンが立つ。
「村の話は終わった?」
「最低限はね。詳しい警備の話はあとでダルと続ける」
「カイは?」
「中にいる」
「どんな人だった?」
ハベルは少し考えてから答えた。
「自分で見た方がいい」
レオンは笑った。
「それもそうだな」
三人が部屋を出る。
集会所まで十数歩。
以前ならレオンが先頭を歩いた。
今回は、ノアが記録帳を持ち、エリシアがその隣へ並び、レオンは二人より半歩だけ後ろから同じ速度で廊下を進んだ。
扉の向こうには、まだ一度も話したことのない《天律》の契約者が待っている。
レオンは自分の記録帳をノアへ預けたまま、エリシアと並んでカイ・アルヴァレインの待つ部屋へ入った。




