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男達が酒を撒いた上で放った火は、一瞬にして大きく成長し、何もかもを呑み込もうと顎を開いた。
それは火を放った男達には予想外のことだった。
「な、なんで!」
「おい、誰だよ!逃げ道確保するのを忘れやがったのは!!」
男達が逃げようと確保しておいた、火が最後の最後まで回ってこないようにしたそれが真っ先に、真っ赤に燃え上がる炎に飲み込まれた。
背後で大きく広がろうとしている、確かに自分が放った炎はしっかりと当初の、彼等が思い描いた光景を実現させて、彼等の立つ場所へと迫ってくる。
どうなっているんだ。
まさか、こんな所で死ぬのか。
これまで自分達が行ってきた犯罪の数々を省みることもせず、彼等は死にたくないなどと訴える。
「くそっ!何が幸運だ。何の役にも立たねぇじゃねぇか!!」
そう言って一人の男が炎の中に投げ捨てたのは、気紛れと興味本位で立ち寄った『エチゴヤ』で今日購入したばかりの物だった。
「いや。幸運なんじゃないかな?」
炎の中から、飄々とした男の声が届く。
「だ、誰だ!?」
「これ以上の罪を重ねなくてよくなったんだ、それはとても幸運なことだろう」
赤々と、全てを焼き尽くさんと燃え盛っている炎の中を、ガロウズは驚くことに平然と、街の本通りを歩いているかのような風体でまっすぐ、男達へと向かって歩いてきた。
「な、なんだ、てめぇ」
「俺のことは別にいいだろ?それより、肩までの黒髪の女の子、見なかった?」
はぁ!?と男達は声を荒げた。
どれだけ男達が凄もうと、真っ赤に燃え盛る炎が迫ってこようと、ガロウズは表情を変えることなく、これくらいのさ、と言いながらミアの背丈や髪型などを手で表現していく。
炎が巻き起こしている熱さえ、ガロウズには届いていない。そんな風にも思わせる立ち振る舞いに、男達は目を見開いて、怯える様を見せた。
呆気に取られてミアを見送ってしまったガロウズだったが、すぐに正気を取り戻し、ラース達と目配せを交わして店を出てきた。
ヘラヘラと、ミアが感じたものと同じ、軽そうな印象を他人に与えるガロウズではあるが、プロなのだ。
今、彼が受けている任務は、店とミアを助け護ることだ。
その目的などは分からないまでも、一人で飛び出して行ったミアを追いかけることは、任務の上で当たり前のことだった。
だが、ガロウズは一つ失敗した。
彼はミアをただの子供だと思っていたからこその失敗だ。今から追いかけても子供の足だし、すぐに追い付くだろう。そんな簡単に考えて気配を絶って走り出したガロウズだったが、いつまでも経っても、それこそ不思議な道具を手に走る子供達を追い抜いても、ミアの姿は何処にも無かった。
一応、と街中を駆け巡って探してみたが、ミアの姿を見つけ出すことは出来なかった。
もしや、と思って駆け込んだのが、この燃え始めた廃墟だったのだ。
ガロウズを炎が害することは無い。
その自信と確信があるからこその、無謀だった。いや、ガロウズにとっては無謀でもなんでもない。炎は彼にとって、空気も同じなのだから。
「どこに行ったんだ?」
ジリと燃え盛る炎が男達の肌を焼き始めた。
だが、やはりその炎は、ミアが何処に行ったのかと呟いたガロウズの肌を焼く事はない。
ガロウズが恐ろしく、一歩も動くことが出来なくなっていた男達も、自分達を燃やし尽くそうとしている炎の勢いが増した状況では動かずにはいられない。ガロウズに対する恐怖よりも、炎によって死ぬかもしれないという恐怖と熱さと、肌を焼かれる痛みが勝った。
普段ならば持つことなど出来ない、そんな温度を宿した自分達の武器を手にする。
逃げ道に立ち塞がっているガロウズを殺して…、彼等の頭はその考えだけに支配された。
「私などがこんなことを言うなんて、本来ならば許されぬこととは存じますが、」
そう前置きして、女は口を開いた。
「分かってる。甘んじて受け止めるわ」
ミアはきっと女が自分に向けて発するだろう言葉を予想出来ていた。
「私などよりも余程、人の近くで暮らしていらっしゃった方のなさることとは到底思えません」
「だって、こんな事態は初めてだもん」
女の指摘と非難の目に対して、見た目の通りの子供らしさで、ミアは口先を尖らせ拗ねた様子を作った。
『エチゴヤ』に飴を求め、それを囚われの子供達に配り女神を評された女とミアは、燃え盛る廃墟の地下に居た。子供達が囚われている地下の一室の、ドアの前。迫り来る炎と熱風の中で、二人は平然と立っていた。
「炎は防ぐことが出来るのよ」
「そのようですね。ですが、子供達はそれだけでは死んでしまいます」
熱い。
何が、起こってるの?
一枚の木で作られたドアの向こう側から、子供達のそんな声が漏れ出てくる。
ミアは火なら防ぐことが出来る。
だが、熱はその範疇ではない。それを防ぐには風の力が必要なのだが、生憎ミアにその力は無いのだ。
女は言う。
人は炎に炙られずとも、熱で死んでしまうのだ、と。
ミアよりも人の性が強い、この懐かしき同郷の存在たる女の言葉に、ミアは頭を悩ました。
まさか同郷の存在がこうして、ミアと同じように此方に存在しているとは。そんな驚きを露にしている場合でもない。が、それと共についつい、この事態を解決するに相応しい同郷の仲間を想像してしまう。
それだけではなく、此処は地下。燃え盛る炎によって破壊された地上の建物が崩れ、その負荷が地下にまで及んだら、つまり地下の天井が落ちてきてしまったら。
その可能性を示すように、ミアの頭上でもミシミシという音がしている。
それこそ、ミアにはどうしようもなく、子供達は死ぬ事になるだろう。
「そもそも、私が居れば家がこんな事態に陥ることは無いもの。こんな事になる前に、その可能性を排除してしまうのが私だし。だから、いまいちどうしたらいいのか分からない」
どうしよう、と呟いた瞬間。
ミアはある気配を、上階から感じ取った。




