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子供達の誘拐。
その家族への身代金要求。
有り触れていると言えば、有り触れている悪事だ。連れ去った子供の使い道など数え切れない程にあり、何処の大陸、何処の国に向かったとしても、例えどんな見目の子供でも売りさばききれないなどということにはならない。子供は大人と違って抵抗があったとしても簡単捕まえることが出来る上、黙らせることも簡単。それもあって彼等は、これを自分達の商売、子供は商品と決めていた。街から街へと渡り歩きながら商品を仕入れ、大きな街にたどり着けば売り払って、ということを生業とする根っからの悪人だった。
根っからの、だからこそ彼等は自分達の周囲へと注意を怠ることは無い。
何時、子供を失った悲しみに狂った親が追いかけてくるやも知れない。親によって指しぬけられた兵士が襲ってくるかも知れない。そんな事を考えながら、彼等は日々を過ごしている。
だから、その異変にもすぐに気づいた。
彼等がこの街での拠点としているのは街の高台にある廃墟だ。その廃墟の一番高い場所にある窓から決まって一人は見張り役が街を見下ろしている。その見張り役がある、何時もとは違う動きを街から見い出していた。
子供が何時も以上に、それも幾つかの大きな塊を作って街中を動き回っている。
そして、よく見るとその子供の塊の後を、それなりに腕が立つと遠目にも確認が取れる大人達が姿を隠しながら追っている状況。
これは何なのか。自分達を探しているのか。いや、それならば子供とそれを追いかけている大人という構図は可笑し過ぎる。
見張り役はすぐに仲間たちを集めた。
犯人達の目に留まったとは露にも知らず、『エチゴヤ』の不可思議アイテムを駆使した子供達がたどり着こうとしていたのは、街の北の端、小高い丘となっている場所に立っている一軒の廃墟だった。
元々は50年ほど前、街でも一・二を争う商人だった男が暮らしていた豪邸だったそこは、今では随分とくたびれ薄汚れ、最後の持ち主が死んだ10年前からは買い手もつかずに手入れも行き届いていない廃墟と成り果てていた。何時崩れ落ちるかも分からない状態の為、滅多な人は寄り付くことはない。
だが、確かにアイテムは、そこに向かって大きく左右に開くのだ。
それを信じている子供達は迷う事なく足を止めない。それを追う大人達も、何を探しているかを道中に子供達の囁く声を拾い集めることで知り、あそこならまぁありえるだろうな、と考える。
「あそこだ」
「早く助けなくちゃ」
「いこう」
子供とは簡単に無謀なことを行おうとするものだ。
姿を消して彼等を導いたミアも、見つけ出した、仲間が囚われていると思われる場所を前にして、子供達の無謀にも程がある囁き声に溜息をつく。
こうなったら、と。
思わないでもない。
この廃墟の中に気づかれることなく入り、何人居るかもまだ定かではないが犯人達を全員、動けないようにすることは、ミアには赤子の手を捻るようなもの。
廃墟の薄暗い物陰からミアを見てないる彼女も、それを望んでミアの前に現れたのだろうし。
「ねぇ、あれ、何?」
一人の子供の声が、物陰から覗く微笑む女を睨みつけていたミアの視線を、廃墟へと戻させた。
「火だ!」
「えっ、でも、此処に居るんだよね!!?」
どうしよう。どうする。なんで。
四方に分かれた子供が全て、北側で反応が出たと聞いて集まってきていた。廃墟の前には多くの子供が居る。その子供達がそれを見て、パニックを起こした。
廃墟から煙が上り始め、その後に赤い炎がゆらゆらと廃墟の昔の窓だった場所から覗いたのだ。
何人かの、勇敢な子供は仲間を助けようと、炎が覗き始めた廃墟の中へと駆け込んでいく。が、それは後を追ってきていた大人達によって簡単に止められた。バタバタと手足を動かし、自分を捕まえる大人の腕に噛み付いたり、子供達は抵抗するが梨の礫でしかなかった。
「ガキ共がこっちに、なんだ、あの数は!?」
廃墟から火が出た少し前のこと。
廃墟の中では悪党共が騒ぎ始めていた。
廃墟に向かって集まってくる子供。それだけならば、片手では足りない悪行を重ねてきた彼等にとって、何も怖いモノなどない。だが、その子供の後ろには何人もの大人がついている。
騒ぎが大きくなればなる程、彼等が逃げ延びる可能性は低くなるということも、経験上しっかりと分かっていた。
「仕方ねぇ。今回は儲けは諦めて、街から出てくか」
ボスはただ一言、慌てる部下達を前にしてそう言った。
近くのテーブルの上に並べてあった酒瓶を横薙ぎにして床へ落とし、部屋中に避けの匂いが充満する。
「ボス?」
その突然の行動に部下達は表情を怪訝に歪めた。
「火事でも起きりゃぁ、そっちに必死で俺達を追うなんて思わねぇだろ」
あぁそうか、と納得する辺り、彼等のボスに対する信頼は強い。
じゃあ俺はあっちに火ぃつけてきますわ。
ガキ共の居る地下の入り口あたりには酒だけ撒いとけよ?火が回ってきてからが楽しくなるぜ?
ボスの発案にのり、部下達は下卑た笑いを浮かべて廃墟の中へと散っていった。
大変。
そう囁く声は彼等には届かない。
憂い顔で睨みつけてくる女性の姿も見えていない。
廃墟の中を駆け巡って酒を撒き、火を放っていく彼等の中を、一人の幼い少女が歩いて、地下への扉へと向かっていく光景も、彼等の、誰一人の目にも映りはしなかった。
「良かった」
さぁ行くか、と駆け出したボスの隣を通り過ぎる時、ミアはそう呟いた。
やっぱり、その声も姿も、彼等には全く無いものではあった。
「風や水、土は得意じゃないけど、火ならいい」
火はとっても得意だよ。
ミアのその言葉と共に、まだ火と呼べる小さな燃え始めでしかなかったそれが、突如として炎と表現するに相応しい大きな、荒ぶる破壊の化身と進化を遂げた。
悪党達は馬鹿ではない。
火付けをするといっても、自分達が逃げる時間はしっかりと残るようにしていた。逃げる道も確保した上での廃墟の至る所への、燃料となるアルコールの撒布し、火を放っていた。
廃墟の燃え具合もしっかりと計算の上での、彼等にとっても楽しい遊び。
だが、彼等の計算にはミアが入ってはいなかった。
火を生み出したのは彼等であろうと、それはすでにミアの支配下にあった。




