10
「待ってろよ、今助けてやる!」
多くの仲間達をリーダーとして率いている彼等は、普通の子供よりはしっかりとした面を持ち、それぞれに人より秀でた才能、力を持っている。それは子供達の遊びを温かな目で見守っている大人達も認めるところで、将来有望と大人になるその時を待ちわびている。
そんな彼等であっても、やはり子供は子供。
子供らしく行動や考え方に隙がある。それは圧倒的に経験が足りない為の隙であり、そして本当の危機に陥ったことが無い、庇護される立場であるが為の油断だといえる。
手には折れ曲がった金属の棒。
目を意気揚々に輝かせ、でも表情は硬く真剣なもの。そんな様子で街中を走り抜ける姿がどれだけ注目を集めているのか、彼等はきっと頭に浮かべてもいないのだろう。
何に使うかもよく分からないそれを数人の子供が手にして、駆け抜けていく様子がただでさえ、不思議だと大人達は目を向けるだろう。
そして、駆け抜けていった少年達が、幾つも分かれているこの街の子供が属しているグループの、それぞれのリーダー達だと知るだろう。
敵対という言葉は少し過激過ぎるかも知れないが、趣味趣向や性格などで分かれているグループは対立しあったり、時には手を取り合ったりはするものの、基本的には馴れ合ったりはしない。それは昔そこに属していたこの街の大人達はよく知っている。その、普段ならば揃って行動している事など稀な、しかもグループのリーダー達が足並みを揃えて走り抜ける。
その光景に大人達は驚き、凝視する。その姿が見えなくなっても、その見た光景を忘れることは出来ない。この街で育ち大人になった者達は、その光景が意味するところが、何か普通ではない事態が発生しているという事であるとしか思えないのだ。
子供と侮ると痛い目を見る、と街の大人達に常々思い知らせる騒動や行動を起こしている彼等。この街で生まれ育った大人達は商人だろうと貴族だろうと、冒険者や水夫達であろうと、それは自分達もまた子供時分に体験してきたことと、余程のことでもない限りは目を瞑ってくれる。が、最近の子供等の行動には少し、彼等も度肝を抜かれるようなことが多すぎた。それが全てとは言わないまでも、全てのグループから一目置かれている助言者"女王"などと称されている『エチゴヤ』の娘ミアによるものだと理解しながらも、その助言をしっかりと成し遂げてしまう子供達にも、彼等は注目する。大人になった時に何かを成し遂げてくれるかも知れない、という期待を宿した注目が子供達が何か動きを見せる度に向かっていた。
自分達の姿へと集まる注目に、今の逸る気持ちに背中を押されて走る彼等は、気づく事が出来ない。
自分達の動向が街に住んでいる、親達を除いた大人の注目をどれだけ受けているのかなど、想像もしていないのだろう。いや、仲間の危機、そして自分達の手で救出出来るかも知れないという興奮に、普段は大人の視線を意識出来ている少年であろうと、その事をすっかりと忘れてしまっていた。
彼等の意識はただ、"俺達の女王"であるミアから授けられた、特別な道具にしか無かった。
これで仲間を、自分達の手で助けてやれる。
大人達も動いていることは知っている。知っているが、彼等大人の慎重に慎重をきしている動きは、苛立たずにはいられない、鈍間な亀を思わせるものだった。
どうして探しに行かないのか。どうして警邏隊を動かさないのか、どうして、どうして。
子供の安全、犯人達の捕縛など、色々と考えるべき事の多い大人達の動きは、ただ仲間を友人を助けたいのだと言う子供達には戸惑うものでしかない。大人達の考えを理解出来る子供も居ない訳ではない。だが、あまりにも多くの友人達が巻き込まれ、今にも最悪な事態になっているかも知れない、何も友人達の現状を知る事の出来ない状況は、冷静に考える頭を完全に奪い去っていた。
「よし、ここだよな。街の中心!」
「じゃあ、ここから俺は南に向かっていく」
「なら僕は東に行こうかな。あっちは君達は入り難いだろうから」
「なら私が西ね」
「…北は俺」
街の中心についた彼等は素早く向かう方向を決め、無駄口一つ叩くことなく、両手に金属の棒を、ミアに言われた通りに持って、頭に消えてしまった仲間達を思い浮かべて歩き出した。
商人達の家が集まっている界隈。
まだ本通りにある店が開き、賑わいを見せている時間帯。人が多く集まっている本通りを思えば人気の少ない場所ではあるものの、全く人の目が無い訳でもない。
その証拠に、突然押し寄せてきたかと思えば、こそこそと話し合い、そして四方に分かれるように歩き出していった子供達に、なんだなんだと家々の窓から覗く目も少なくは無かった。その集団の中に自分の子の姿を見つけ、捕まえて何をしているのかと問う家族の姿も目についた。
だが、誰も口を割ることは無い。
子供達の結束は、大人のそれ以上に強いのだ。
大人のように他に移ることの出来ない、狭い世界にしか存在することの出来ない子供。子供の世界の結束を、約束ごとを破ればどんな目にあうか。逃げることが出来ないが故に、彼等はそれをなんとしても守ろうとする。
ミアから授けられた、ダウジングという名のアイテム。
それを手に捜索を開始した子供達。
ミアは四方に分かれた中の、北に向かった少年の前に立つ。勿論、姿は人の目に映らないように消し去っている。緊張した面持ちで少年が手にしている、平行した棒にミアは手を添え少しずつ、本当に少しずつ、棒を左右に開いたり、そして閉じたりして、彼等をある場所へと導いていく。
少年達が中心部に辿り着いた頃には、ミアは誘拐された子供達が閉じ込められている場所を見つけ出していた。
ミアが後することは、彼等をダウジングという方法として、その場所に案内すること。
緊張しているのだろう。がっちりと握り締められた棒は滅多やたら、動くようにはなっていない。少年の力とはいえ、緊張状態にある時の力というものは、大人にも匹敵する侮れないものになってしまう。
今の少年の手にも、そんな力がしっかりと使われ、棒を固定してしまっている。
だが、緊張しているということは、手に汗をかいているということだ。
ミアの、人あらざるが故の腕力というものを使えば、簡単に動かし左右に開かせることは簡単なことだった。
棒を手に握る少年は、自分の意思とは別に動くそれに少しだけ驚き、そしてミアの説明を思い出して、動きを示す方向へと足を向けた。
ちらり。
戸惑いも、恐れる様子もなく、ミアの導きにしっかりと従う少年に微笑みを浮かべながら、ミアは少年とその背後に連れ立つ子供達の、後ろの物影に目を向けた。
見知った大人達の顔がチラチラと、さすが本職といった様子で気配を完全絶って、棒の様子に夢中な少年達を追いかけている。
その多くは『エチゴヤ』の前で騒いでいた常連客達のもの。
ミアが渡したダウジングの効果や、子供達の探し物というものが気になったのだろう。
「うん。そうするって思ってたよ」
ミアは笑う。
勿論、姿と同じ様に、その声も人には届かない。
彼等がミアの話に聞き耳を立てていたのを、ミアはちゃんと知っていた。
そして、それを耳にした彼等が子供達の後を追うだろうことも。
「探すのは子供でも出来るけど。それ以上は大人じゃないと、ね」
付いて来ている面々を確認し、誘拐犯と対峙しても何の心配もない実力者が揃っていることに、ミアは笑った。計画通り、と。
それにしても、と何の心配も無くなったミアは一人心地る。
まさか彼女まで、この世界に来ていたなんて。
誘拐された子供達を捜す際に現れた、仲間とも言える存在を思い出し、ミアは驚きや喜びなどが混ざり合った、複雑な気持ちで胸が一杯だった。




