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調和の守護者 リリィ&コピ第三部  作者: マスター


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第97話 夜の海は酸素を失う

第96話では、内湾中央の黒泥域ではなく、その外側に残る「内湾生存境界帯」を確認しました。


そこには、小型甲殻類や海草片、貝殻が残り、完全には失われていない場所であることが分かりました。


しかし、その日の夜。


境界帯の底層酸素が、予測より早く低下し始めます。


第97話では、昼には見えなかった夜の海の変化を追います。

観測塔の警告音は、小さかった。


それでも、ナギには大きく聞こえた。


「境界帯の底層酸素、注意値を下回りました」


コピが記録を確認する。


「低下は継続中です。表層酸素も、昼間より下がっています」


窓の外には、暗い内湾が広がっていた。


昼間は、黒泥域と生存境界帯の違いがかろうじて見えた。


だが夜になると、すべて同じ黒に見える。


リリィが端末を覗き込む。


「生き物は?」


「固定観測器では確認できません。移動している可能性があります」


ソウマの声が通信から入った。


『外縁側の水面に、小魚が少し集まってる』


「逃げてる?」


ナギが尋ねる。


『断定はできねえ。だが、昼間より外側に寄ってる』


ファルコンが上空から報告する。


『風はほとんど止まっている。水面の動きも弱い』


コピが原因候補を表示した。


夜間は、海草や微小な生物も光を使えない。


昼に酸素を生み出していたものが、夜には自分自身も酸素を使う。


水面の風が弱ければ、空気から入る酸素も減る。


さらに、黒泥では有機物の分解が続いている。


生きている境界帯が弱いからこそ、夜の変化に耐えにくい。


「黒い泥が広がったわけじゃないの?」


ナギが聞いた。


「現時点では、大きな濁度上昇はありません」


コピが答える。


「主因は、無風状態と夜間の酸素消費である可能性が高いです。ただし、内湾中央から低酸素水が移動している可能性もあります」


ハルトが観測塔へ駆け込んできた。


「仮設潮抜き管を使うか」


明日の夕方に予定していた第二流入試験。


出口角度を変え、生存境界帯へ弱い表層流を送る準備はできている。


だが、今は夜だ。


予定していた潮位でもない。


ナギはすぐに答えられなかった。


流せば、酸素を含む外海水を届けられるかもしれない。


だが、予測外の時間に動かせば、底泥を刺激するかもしれない。


「今の潮位差は?」


トウジが答える。


『外海側がわずかに高い。流入は可能です。ただし、予定時より差が大きい』


コピが計算する。


「通常設定では流量が強すぎます。最小設定以下へ絞る必要があります」


「そんな調整ができるのか」


ハルトが尋ねる。


ミラが通信から答えた。


『仮設弁に手動制限具を追加すればできます。でも、設置に少し時間が必要です』


ソウマが低く言う。


『その間に酸素は下がる』


観測塔が静かになった。


急げば危ない。


待てば、生きている境界が失われるかもしれない。


リリィは表示板を見つめた。


生存境界帯。


昼間に見つけたばかりの細い場所。


守ると決めた場所。


「大きく動かすんじゃなくて、逃げる道を作れないかな」


ナギがリリィを見る。


「逃げる道?」


「魚や小さな生き物が、酸素のある外側へ移れるようにするの」


コピが地図を開いた。


生存境界帯と外海寄りの比較的状態の良い場所の間には、細い水路状の区間がある。


だが、そこには古い係留具と沈んだ木材が残り、水の動きを妨げていた。


ファルコンが上空から確認する。


『外縁部への経路はある。ただし、水面近くに漂流物が集まっている』


ハルトが言った。


「昔の仮設桟橋の残骸だ。すぐにどかせるものもある」


ソウマも続ける。


『船で引く。ただし、底を引きずらない』


ナギは地図を見た。


内湾へ新しい水を入れる前に、生き物が自分で移動できる道を確保する。


それなら底泥への影響は小さい。


「やりましょう」


ナギが言った。


「仮設潮抜きは、まだ使いません。まず、外縁側への水面経路を開けます」


コピが記録する。


「緊急対応。生存境界帯から外縁部への表層退避経路確保」


オルガがすぐに立ち上がった。


「作業区域を空けるよ」


ファルコンは夜空へ飛び立つ。


ハルトと港湾作業員は、小型船を二隻準備した。


ソウマたち漁師も、網ではなく長い鉤と浮具を持って乗り込む。


リリィとナギは観測塔に残り、酸素の変化と船の位置を追った。


作業灯が、暗い内湾に細い光を作る。


最初に見つかったのは、半分沈んだ古い木材だった。


ロープを結び、水面へ浮かせてから横へ移す。


次は、切れた係留索。


水面下に垂れ、海草片を絡め取っていた。


ソウマが船の上から言う。


『底へ触れないよう、上だけ切る』


ハルトが答える。


『港側で回収する』


二つの船が、同じ場所で作業する。


少し前まで対立していた港と漁師が、今は一つの細い水路を開けている。


ナギは位置を記録した。


「経路中央、障害物一つ除去。流速、わずかに上昇」


コピが水質を確認する。


「外縁側からの表層水が、境界帯方向へ少し入り始めています」


完全な流れではない。


風も弱い。


それでも、塞がれていた水面に細い道ができた。


リクの声が干潟側から入る。


『魚、こっちにも来てる』


「数は?」


ナギが尋ねる。


『五匹くらい。前より速く泳いでる』


ソウマが通信で言った。


『外側へ抜ける魚も見えた。道を使ってるかもしれねえ』


ナギは胸をなで下ろした。


だが、酸素値はまだ低い。


「コピ、上がってない」


「はい。経路確保は、生物の退避には有効ですが、水域全体の酸素改善には不足します」


ハルトが船から言った。


『次はどうする』


コピが新しい計算結果を表示した。


「仮設潮抜き管を最低流量の半分以下で使用すれば、底泥反応を抑えながら表層へ水を送れる可能性があります」


ナギはトウジへ確認する。


「今の潮位差で、本当に制御できる?」


『制限具を付ければ可能です。ミラが作業中です』


ミラの声が続く。


『あと少し。全開にはならないよう二重に止める』


ソウマが言った。


『魚が逃げる道はできた。なら、少しだけ水を入れてもいい』


ハルトも同意する。


『港湾水位への影響は、この流量なら小さい』


ナギは全地点を確認した。


外縁退避経路、確保。

底泥濁度、変化なし。

港湾水位、安定。

外海波浪、低。

仮設弁、二重制限。


「緊急表層流入を実施します」


ナギが言った。


「予定時間は一分。異常がなくても、一分で止めます」


誰も延長を求めなかった。


コピが告げる。


「緊急表層流入、開始」


ハルトとトウジが仮設弁をわずかに開く。


外海水が管を通り、角度を変えた分散出口から内湾へ入った。


前回より、はるかに弱い。


水面に大きな筋は生まれない。


ただ、作業灯の光が少しだけ揺れた。


コピが数値を読み上げる。


「表層流、境界帯外側へ到達。底層濁度、変化なし」


三十秒。


生存境界帯の表層酸素が、わずかに上がる。


底層は、まだ低い。


四十五秒。


ソウマが言った。


『魚の動き、急変なし』


リク。


『干潟の魚も大丈夫です』


一分。


ナギが言う。


「停止してください」


弁はすぐに閉じられた。


流れは細くなり、消えていく。


延長しない。


うまくいっているように見えても、決めた時間で止める。


コピが結果を確認する。


「底泥反応なし。表層酸素、局所的に上昇。底層酸素低下は停止し、横ばいへ移行しています」


ハルトが息を吐いた。


「持ち直したのか」


「回復とは言えません」


コピが答える。


「ただし、注意値以下への急速な低下は止まりました」


ナギは記録した。


夜間低酸素対応。

退避経路確保後、表層へ極低流量で外海水を導入。

底泥撹乱なし。

酸素低下、横ばいへ。


夜明け前。


風が少し戻った。


水面に小さな波が生まれる。


空気と水が触れ、表層酸素はゆっくり上がり始めた。


生存境界帯の底層も、危険値を下回らずに持ちこたえた。


船が戻ってくる。


ハルトとソウマは、どちらも泥と海水に濡れていた。


オルガが二人を見て笑う。


「夜中に仲良く海掃除?」


ソウマが顔をしかめる。


「仲良くはねえ」


ハルトも頷く。


「作業目的が同じだっただけだ」


「それを仲良くって言うんじゃない?」


二人は同時に否定した。


「違う」


ナギは思わず笑った。


緊張していた観測塔の空気が、少しだけ緩む。


リリィは明るくなり始めた内湾を見た。


黒い泥は残っている。


酸素も十分ではない。


けれど、昨夜は一つの場所を守れた。


大きな設備を動かしたからではない。


生き物の逃げ道を先に作り、必要な量だけ水を入れ、決めた時間で止めた。


「流れを戻すって、水を送るだけじゃないんだね」


リリィが言った。


ナギが頷く。


「逃げられる道も必要です」


コピが記録する。


「今後の夜間対応手順へ追加します」


確認会では、昨夜の対応が新しい手順としてまとめられた。


一、夜間の無風予測時は、境界帯の酸素監視を強化する。

二、退避経路を常に塞がない。

三、酸素低下時は、生物の移動先を先に確保する。

四、流入は極低流量・短時間とする。

五、数値が改善しても予定時間で停止する。

六、翌朝まで経過を確認する。


ソウマが言った。


「海に空気を入れるより先に、魚の逃げ道か」


アルセリウスが答える。


「人間が環境をすぐ変えられないなら、命が自分で選べる余地を残すことも大切よ」


ハルトは夜間作業で回収した木材を見た。


「港の残骸が、逃げ道を塞いでいた」


ナギが言う。


「これからは、境界帯だけでなく、そこから外へつながる道も地図に入れます」


新しい地図には、細い水色の線が加えられた。


生物退避経路。


潮の道。

雨水の道。

人が使う航路。


そして、命が逃げるための道。


海の地図に、また一つ必要な流れが戻った。


朝日が昇る。


生存境界帯の酸素計は、ゆっくりと通常の注意範囲へ戻っていた。


リクが記録板に、小さな魚を五匹描く。


その横に、一本の細い線を引いた。


「これは?」


ナギが尋ねる。


「魚が逃げた道」


リリィはその絵を見て微笑んだ。


守るとは、囲い込むことではない。


動けるようにすること。


逃げる道を残すこと。


夜の海は、酸素を失う。


だが、その夜を越える道を、人々は一つ覚えた。

第97話では、内湾生存境界帯の底層酸素が夜間に低下しました。


原因は一つではなく、無風による水面交換の低下、夜間の生物による酸素消費、黒泥域からの影響などが重なった可能性があります。


今回は、すぐに大量の外海水を入れるのではなく、先に生物が外縁部へ移動できる退避経路を確保しました。


その後、仮設潮抜き管から極低流量の水を一分間だけ送り、底泥を動かさずに酸素低下を止めています。


次回は、この夜間対応を通常運用へ組み込む一方、内湾中央の黒泥域から境界帯へ何が広がっているのかを調べます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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