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調和の守護者 リリィ&コピ第三部  作者: マスター


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第96話 まだ生きている境界

第95話では、内湾の黒い底泥を四か所から採取し、場所によって状態が大きく違うことが分かりました。


港湾排水口付近には油や金属。

内湾中央には厚い黒泥とガス。

旧潮抜き水路前や外海寄りには、比較的薄い泥と貝殻。


そして陸上試験では、黒泥へ酸素を送ることで、金属成分が動く可能性も見えました。


第96話では、悪化した中心部ではなく、その周囲に残る「まだ生きている境界」を探します。

四つの試験槽は、朝から違う表情を見せていた。


そのまま置いた槽は、黒い水を抱えたまま。


空気を送った槽には、赤茶色の膜が広がっている。


砂をかぶせた槽は表面こそ静かだが、底のガス反応は消えていない。


比較的状態の良い泥を重ねた槽も、すぐに変化したわけではなかった。


リクが倉庫の入口から覗き込む。


「どれが一番いいの?」


ナギは記録板を見た。


「まだ決められない」


「全部だめ?」


「そうじゃないよ」


ナギはしゃがみ、リクと同じ高さになる。


「何をすると、何が起きるのかが少し分かった」


リクは首を傾げた。


「良くする方法じゃなくて?」


「危ない方法を先に知るのも大事なの」


コピが横から言う。


「海中で試してから危険が分かるより、安全です」


リクは納得したような、していないような顔で頷いた。


ハルトは空気供給槽の数値を確認する。


「金属反応は、昨日より少し下がった」


コピが答える。


「初期上昇後、安定し始めています。ただし、泥の種類によって反応は異なります」


ソウマは腕を組んだ。


「つまり、この泥だけ見ても、内湾全部のことは分からねえ」


「はい」


「なら、どこから手を付ける」


ナギは壁に貼られた底質地図を見た。


内湾中央は黒。


排水口付近は赤。


旧潮抜き水路の前は灰色。


外海寄りには、茶色の細い帯が残っている。


「ここです」


ナギが指したのは、黒と茶色の境目だった。


「悪い場所の中心じゃないのか」


ハルトが尋ねる。


「中心は、まだ危険が大きすぎます」


ナギは地図を指でなぞる。


「でも、この境界には貝殻が残っていて、ソウマさんも小魚を見たことがあると言っていました」


ソウマが頷く。


「完全に死んだ底じゃねえ。だが、少しずつ黒い泥が広がってきている」


アルセリウスが言った。


「最初に守るべきなのは、すでに失われた場所だけではないわ。失われかけている場所もよ」


リリィは地図を見つめた。


黒い中心へ踏み込む前に、まだ生きている縁を守る。


それなら、変化も見つけやすい。


「境界を見に行こう」


調査船は、内湾中央より少し外側で止まった。


水面の色は暗い。


だが、完全な黒ではない。


採泥器を下ろす前に、ソウマが細い網を入れた。


底を引きずらない。


水中を短く通すだけ。


網を上げると、小さな甲殻類と、糸のような海草片が入っていた。


リクが目を輝かせる。


「生きてる!」


ソウマはすぐに言った。


「触るな。記録したら戻す」


ナギが数と状態を確認する。


「小型甲殻類三。海草片あり。動き、確認」


コピが水質を測定する。


「表層酸素は低め。底層も良好とは言えません。ただし、内湾中央より高い値です」


ミラが採泥器を下ろした。


引き上げた泥は、上部が茶色く、その下が黒い。


二つの色がはっきり分かれている。


リリィは筒を覗いた。


「黒い泥が下から来てる?」


コピが答える。


「下からというより、黒泥層の上に薄い酸化層が残っています。この表面部分で、わずかに酸素が使われている可能性があります」


ソウマが言った。


「この薄い茶色が、生きている境界か」


「その可能性があります」


ファルコンが上空から報告する。


『境界帯は、旧潮抜き水路前から外海側へ弧を描いている。幅は一定ではない』


ハルトが地図を見る。


「黒泥が広がれば、この帯も消える」


ナギは頷いた。


「だから、ここを最初の保護地点にします」


「何をする」


「新しい汚れを入れない。底をかき回さない。表層の水を少し動かす。そして、生き物が減っていないか見る」


ソウマは地図を見た。


「派手じゃねえな」


オルガが笑う。


「最近ずっとそうだね」


リリィも少し笑った。


「でも、守る場所が見えた」


その日の確認会で、境界帯は正式に記録された。


内湾生存境界帯。


黒泥域と、比較的状態の良い外縁部の間。


小型甲殻類。

海草片。

貝殻。

わずかな底層酸素。


まだ豊かな場所ではない。


ただ、完全には失われていない。


コピが初期方針を表示する。


一、境界帯への船舶進入を減らす。

二、底を引く漁具を使用しない。

三、港湾排水口からの流入方向を変える。

四、仮設潮抜き試験では、境界帯へ弱い表層流が届く角度を検討する。

五、生物、水質、泥の色を定期観測する。

六、黒泥域からの拡大速度を記録する。


ハルトが言った。


「排水口の向きを変えるなら、修理場側の仮設溝を止める必要がある」


作業員が不安そうにする。


「止めたら、雨の日に作業場が浸水します」


ミラが旧点検槽の図を出した。


「全部止めるんじゃなくて、処理区へ回す。大雨の時だけ、別の安全な越流路を使う」


「越流先は?」


「内湾中央ではなく、追加の沈砂槽へ」


ハルトは考え込んだ。


「もう一つ槽が必要だな」


ユウリが手を上げた。


「旧肥料倉庫の外に、使っていない貯留槽があります。運べるかもしれません」


ゲンの通信が入る。


『あれはひびが入っている。使うなら補修しろ』


ユウリが答える。


「分かっています」


ソウマが苦笑した。


「どこの廃設備も、急に忙しくなったな」


アルセリウスが微笑む。


「捨てられたものが、役割を持ち直しているのよ」


リリィはその言葉を聞きながら、地図を見た。


旧点検槽。

旧雨潮連絡路。

旧雨水樋門。

使われなくなった貯留槽。


新しい大設備ではない。


残った構造を確かめ、今の役割を与え直している。


それも、この世界が自分で巡るための方法だった。


午後、境界帯に小さな観測標が設置された。


船が近づきすぎないよう、浮標を三つ。


水面下には、酸素計と濁度計。


底には触れない高さで、小型の流速計。


リクは浮標に絵を描きたがったが、ソウマに止められた。


「目立ちすぎると、見物船が来る」


「じゃあ何も描けないの?」


ナギが小さな板を渡した。


「観測塔の記録板に描いて」


リクは考えた後、茶色と黒の境界に小さな貝を描いた。


「まだいる印」


ナギはその絵を地図の端へ添えた。


夕方。


仮設潮抜き管の出口角度を変える作業が始まった。


前回は中央へ向かう流れが底泥をわずかに動かした。


今回は、堤沿いに表層水を流し、境界帯の手前で弱く広がる角度を試す。


水はまだ通さない。


模型槽で色水を流し、動きを見るだけだ。


ミラが透明な模型へ水を入れる。


一回目。


流れは堤へ当たり、中央へ戻った。


「これだと前と同じ」


二回目。


出口を少し上へ向ける。


表面を滑った水は、境界帯の手前で弱く散った。


ファルコンが上から模型を見た。


「実際の風向きを加えると、もう少し南へ寄る」


ハルトが出口を調整する。


三回目。


今度は、境界帯の外側に沿って細い流れが伸びた。


ソウマが目を細める。


「これなら、黒泥の中心を起こさずに済むかもしれない」


コピは慎重だった。


「模型上では有効です。実海域では確認が必要です」


オルガが笑う。


「絶対に成功とは言わないね」


「はい」


ナギは試験案を記録した。


次の仮設潮抜きは、内湾全体を動かすためではない。


生存境界帯へ、弱い表層流を届けるため。


目的が変わった。


黒い中心を一気に直すのではなく、残っている命の場所を守る。


それが最初の一歩になった。


夜。


観測塔には、境界帯から最初の記録が届いていた。


小型甲殻類三。

貝殻複数。

海草片。

底層酸素、低いが維持。

黒泥境界、変化なし。


ナギは記録を保存した。


「何も増えてない」


リクが横で言う。


「減ってもいないよ」


ナギは彼を見る。


リクは真剣な顔をしていた。


「守るって、増やすだけじゃないんでしょ」


ナギは少し驚き、それから笑った。


「うん。減らさないことも守ることだね」


リリィは窓の外の内湾を見た。


黒い水はまだ広い。


生きている境界は細い。


でも、細いからこそ守らなければならない。


すべてを失ってから戻すより、残っているものをつなぐ方が、海への負担は小さい。


コピが端末を確認した。


「明日の夕方、仮設潮抜き第二流入試験が可能です。条件がそろえば、生存境界帯への表層流を確認できます」


ハルトが尋ねる。


「旧雨水樋門は使うのか」


「今回は使いません。流入と排出を同日に行うと、影響の原因を分けられないためです」


ソウマが頷く。


「一つずつだな」


ナギは試験予定を記録した。


その時、生存境界帯の酸素計がわずかに下がった。


大きな変化ではない。


だが、夜間の低下が予測より少し早い。


コピが警告を出す。


「境界帯の底層酸素、注意値へ接近しています」


ナギの表情が変わった。


「今夜のうちに下がり続けたら?」


「小型生物が外側へ移動する可能性があります」


ソウマが通信へ入る。


『船を出すか』


コピが答える。


「船の移動で底を動かす危険があります。まず周辺地点を確認します」


リリィは暗い海を見た。


守る場所を見つけた、その日の夜。


その場所は、すでに次の危機へ近づいていた。


黒泥域から何かが広がったのか。


風が止まり、水面の酸素交換が弱まったのか。


港の奥から低酸素水が流れてきたのか。


まだ分からない。


ナギはすぐに夜間観測を開始した。


「増やす前に、減らさない」


リクが言った言葉を胸の中で繰り返す。


まだ生きている境界を守れるか。


次の潮を待つ前に、今夜の海を見なければならなかった。

第96話では、内湾中央の黒泥域ではなく、その外側に残る「内湾生存境界帯」を確認しました。


そこには、小型甲殻類、海草片、貝殻、薄い茶色の表層泥が残っていました。


完全に回復した場所ではありません。


ただ、完全には失われていない場所です。


そのため、黒泥の中心を一気に直すより先に、生きている境界を守る方針が決まりました。


次回の仮設潮抜き試験も、内湾全体を動かすのではなく、境界帯へ弱い表層流を届けることを目的にします。


しかし夜、境界帯の底層酸素が予測より早く低下し始めました。


次回は、その原因を夜間観測で追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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