第七章 セレーナ・グリゼルダ・グッリェルミネッティ
■第七章 セレーナ・グリゼルダ・グッリェルミネッティ
校門のところにたどり着いてみると、セレーナは門柱の外側にもたれかかっている。
僕を見るなり、彼女は口を尖らせ、
「……遅い!」
とにらみつけてくる。
「あ、うん、ちょっとごたごたあって」
「……トモミ?」
「どうして浦野だと?」
「なんとなく。深い意味はないわよ」
これから告白しようとしている女性に、別の女性から告白されていたなんて見抜かれてたらいくら何でもばつが悪い。
これ以上追及されませんように、と祈るのみ。
――なんてことを考えていると、セレーナは軽く肩をすくめながら、門柱から背を離し、ふわりと歩み出た。西日を受けた豪奢な金髪が風をはらんできらめく。
「……で?」
たった一言、彼女が言った時に、僕はようやく、僕が彼女を誘ったことを思い出した。
「……とりあえず、帰ろう」
僕は、自宅の方を指差す。いつも向かう地下鉄の入り口ではなく。
それは、いつか、僕が、空を見ながら長い道のりを歩いて帰っていた道。
太陽を右斜め前に見ながら歩く道。
僕が歩きはじめ、セレーナがほとんど横をついてくる。
何をするために彼女を呼んだのか?
その答えは、浦野の口からだった。
そう、僕は、彼女に、告白するのだ。
僕が彼女を好きになってしまったことを。
いや、ずっとずっと前から――僕自身気づいていなかったあのころから、好きだったことを。
……告白って、どんなタイミングですればいいんだろう。
ちっともわからない。
経験はある。
あの日、セレーナに、嘘の告白をした。
あの時、彼女がホテルの一室にいて、僕は彼女を追い詰めていて、無理やり僕の告白を聞かせることができた。
けれど、今度は違う。
僕の横を歩いているセレーナに、どんなふうに振り向いてどうやって声をかければいいのだろう。
純粋な方法論的困難に起因する沈黙を保ったまま歩いていると、やがて、小さな川、そして、その脇の土手道に入る交差点に差し掛かる。
歩いて僕の家に向かうには、この土手道を歩くのが一番の近道。
土手沿いにはたくさんの桜の木が植えられていて、もう半分以上が咲き始めている。
風がさあっと吹き抜けていって、花びらが僕とセレーナの頭上を舞う。
薄ピンクの吹雪が、黄金色の風と戯れている。
夕日はどんどん落ちて行って、オレンジをさらに濃くしていく。二人分の足音だけがついてくる。
僕は、彼女に声をかけられない。
ちらりと振り返って見ると、セレーナは、そんなに退屈そうでもなさそうだ。
そんな風景をぼんやりと楽しんでいた。つい、楽しんでしまった。
情けないことに、先に言葉を発したのはセレーナ。
「この花かしら? 桜って」
彼女が立ち止まって見上げているので、僕も見上げる。
「そう、これが桜」
「なんだか変な木ね。葉っぱが一枚も生えていないのね」
そんな風にこの木を見たことが無かったけれど、確かにそうだ。
葉っぱが一枚も出ないから、桜の花が開くと、桜並木はピンク一色になるんだな。
そんな当たり前のことを、セレーナの言葉で初めて再確認する。
「たくさんの花。それに、もう花びらが散り始めてる。これで、まだ満開じゃないの?」
「うん……そうだね、ほら、まだつぼみがある」
僕は手近な枝を指さす。
セレーナは、背伸びするようにして、小さなふくらみを覗き込む。
「全部開いたらきれいなんでしょうね」
「これでも十分きれいだよ」
「……そうね」
セレーナは、オレンジと紫の中間色になりつつある空を背景に、目を細めて桜を見ている。
「でも、私はあまり好きじゃないわ」
「どうして」
「さあ、分からないけれど。すぐ散っちゃうのはだらしないし、私は、もっと濃い色か、いっそ真っ白が好み」
「そうか」
それでも、この島の人々は、千年以上もこの花をこよなく愛してきた。
なんてことを、いちいちセレーナに説明する必要は、無いよな。
桜をどんな風に感じるかなんて、自由だ。
そして、二人はまた、歩きはじめる。
今度は、セレーナが前に立っている。彼女がそうしたから、僕の足は勝手にそれを追った。
土手道は永遠に続くようで、いつか、終わりが来る。
僕はそのどこかで、決心しなきゃいけない。
だけど、そう思うたびに心臓は脈を打つのを一回忘れるように飛び跳ねて、僕の決意を鈍らせる。
道の残りはどんどん少なくなっていく。
意気地なしだ、僕は。
「……見覚えがあるわ、ここ」
突然前でつぶやくように言ったのは、セレーナ。
そうだ。
ここは。
僕が初めて彼女に出会った場所。
僕は意識せずにこの場所に向かって、ここにたどり着くことを期待していたのかもしれない。
僕自身が無意識のうちに自らに与えたチャンス。
それはまるでジーニーに小さな確信を植え付けられたかのように。
――この瞬間こそ、その時だ。
「ここは……君と初めて出会った場所だ」
***
「セレーナ、僕は君に伝えたいことがある」
前を歩いていたセレーナは、くるりと振り向いた。
きれいな笑顔だな、と思う。
「なあに? ジュンイチ」
後ろ手に組んで、僕に飛び切りの笑顔をくれる彼女。
「……そうだな、最初から話そうか。僕は君に会ったあの日。君にひどい劣等感を抱いた」
彼女は両目でウィンクするようにして肩をすくめる。
この一世一代の告白にその態度はどうだろう。
「だけど僕は君と一緒にいて、君はただ強いだけの王女じゃないと知って」
あの時の言葉の数々が、脳裏によみがえってくる。
ホテルで何もかもを投げ出そうとしたセレーナに飛び切りの爆弾を投げつけようと、嘘の告白をした。
そのために、セリフを考えて、何度も練習した。
こんな風に役立てようと思ってたわけじゃないけれど。
それは、今思い返してみれば、セレーナのお墨付き。
悪くなかったわ、と言ったのは、このことだったんだな、と思い出す。
「そうね、私は弱い王女」
セレーナは高慢な態度で続きを促す。
「だから、僕は君を守りたいと思った」
剣として。騎士として。そう、あの時は。
「そうね、私もそう思ってた」
ちらりと見ると、セレーナは、ちょっと苦笑いのような表情に変わっている。
「そして、君といることが、楽しくて、仕方がないことに気づいた」
そして、次の言葉が胸の奥で出番待ちしているが、引っかかって舌の奥で渋滞している。次に僕が言うことが決まっているから。
時刻だけが脇をすり抜けていく。
それは体感時間で何時間にも及んだ。
「……うっわ、ここで意気地なしを出しちゃうわけ?」
きつい言葉を吐きながら、彼女は笑顔をちっとも崩さない。
僕は、混乱しながら、出かかっていた台本をほとんど棒読みしてしまう。
「僕は、――君が好きになっていた。友達とか主従だとかじゃない、一人の女性として」
それを聞いた彼女の表情は、まるで変わらない。
言ったんだぞ、僕は。大変なことを君に告げたのに。
「好きだ。宇宙中に叫びたいほど」
僕は台本通りに畳みかける。
「いつまでも、君の笑顔を守らせてほしい」
セレーナは腰に手を当てて、その先の言葉を待っている。
「いつまでも僕のそばにいてほしい」
なんだかそこまで満面の笑みだとからかわれている気にさえなる。
僕の顔も、笑顔でいっぱいになっていた。
「もう一度言うよ。僕は君が好きだ」
僕が言い終わって、過呼吸発作寸前の息をついていると、セレーナは、笑いながら、僕の右横に歩いてきた。土手道の小石が、ジャリ、と音を立てる。
「そんなこと、とっくに知ってたわよ」
耳元を通り過ぎるように、彼女がささやき声でそんなことを言う。
とっくに?
もしかして、あの嘘の告白のことを言ってるのかな。
「いや、その、前のあの告白は、君の真意を知りたくて嘘の告白で……」
「違うわよ」
彼女を追う僕の視線をかわすように後ろに回りこんだかと思うと、さっと僕の左側に現れた。
「あなたがベルナデッダで酔っ払ったとき」
何のことだったろう、と考えて、そういえばそんなこともあったっけ、と思い出した。酔いつぶれてパーティを台無しにしたあの思い出したくも無い醜態。
「酔っ払ってひっくり返ったジュンイチ、何度も叫んだのよ。『僕はセレーナが大好きなんだ!』って。私、大恥かいちゃったわ」
……!
顔から火が出るとはこのことだろう。
耳まで火傷しそうなほどに熱い。
あの時、僕はそんなことをやってしまったのか。あの満座の中で――あー、やり直したい。全部やり直したい。
――ああ、だから、僕がお酒に手を伸ばすたびに、セレーナはそれをもぎ取ってきたのか。
あんな大恥、金輪際ごめんだ、って。
あるいは僕が大恥をかかないために?
「お酒の勢いだと分かっていても、うれしかった。私が、そんな風に人に好かれることなんて、一生無いって思ってたから」
笑顔でそんなことを言うセレーナ。
「――ねえ。最初のファレンへの旅の初めから、私、悩んでいたの。わかるでしょう? 私が誰かの指金でジュンイチを誘惑しようとしてるなんて吹き込まれて。ジュンイチがはたから見てわかるほど動揺してるのが分かって。私のことを好きだって言ってくれる人をもてあそぶようで。そんなたった一人の大切な人の気持ちを嘘にしてしまいそうで」
そんな風に思っていてくれたんだ。
僕はなんて幸せ者だろう。
「ありがとう、ジュンイチ。でもね」
僕は、ごくりとつばを飲んだ。
「ごめん! 私、ジュンイチのこと、そんな風には思ってない!」
……え?
何だこの展開。
てっきり、セレーナも僕のことを……って流れだと思ってたのに。
あれ?
なんだこれ?
僕ののどが、もう一度つばを飲もうとして妙な音をたてた。
「ジュンイチと一緒にいるのは楽しいわ。私がどんどん知らない私になっていく。私にとってかけがえのない人だって、心の底から思ってる」
セレーナは続けて言いながら、ちょっとだけうつむいた。
「……でも、なんていうのかな、うん、ちょっと、私の覚悟が足りない。そんな人を横には……置いておけない」
彼女の残酷な言葉の意味をどうにか理解して、僕はうなだれる。
「ジュンイチがそんな風に私のことを好きになってくれて、私がそれに応える方法は一つしかなくて。でも、……そうね、はっきり言うけど、じゃあジュンイチの子供を産むのかって言われると、そこまで覚悟を決めきれなくて」
「そ、それは飛躍しすぎじゃ」
「飛躍じゃないの。私が、誰かと交際する、恋人同士になるってのは、そういうこと。結婚して次代を産むこと。ただおててつないでデートする仲、なんてものは、無いの」
「そ……」
そんなのって、あんまりだ。
それじゃ、まるで、僕がセレーナの人生を縛ってしまうようなものじゃないか。
あんまりだ。
「だから私とあなたの噂を聞いたカルリージ伯も即座にあなたを養子にして貴族にするって言ったの。……貴族同士でない交際、婚約のない交際なんてものは存在しないから」
ロミルダもきっと、僕の気持ちを知っていたから。僕自身が知る前に。
「だから……今私があなたの気持ちに応えるってことは、あなたを縛ってしまうってこと……」
小さく、つぶやくように続ける。
「あなたの奇跡が道を拓いてくれたのに、あなたの気持ちに応えたら……あなたの自由を奪ってしまったら……私、また、立ち止まってしまいそうで……」
セレーナの言っていることは、とてもよく分かる。
いや――とっくにそんなことは分かっていた。
もうずっと前から分かっていた。
でも、もしかするとセレーナなら。
それをすべて覆す魔法の言葉を知っているかもしれないと――そんな期待が、僕の心のどこかに引っかかっていた。
至高の魔法使いになら、それが可能かもしれないと。
――そんなものは無かった。
そう、無かったんだ。
だって、セレーナが自分でつかみとった自由なんだ。
さっきより少し冷たい風が、僕の頬を撫でていく。太陽が、ゆっくりと寝床に向かう。
大好きなセレーナと、もう一緒にいられないなんて。
僕の気持ちは伝わっているのに、どうにもならないなんて。
悔しいじゃないか。
悔しい。
僕は何もかも失ってしまう。
「あなたはあなたの人生を、自分の力で歩むの。私は私の人生を、自分で切り拓くわ」
とても大切なことを言っているはずなのに、彼女の言葉を虚ろに感じる。
最初から分かっていたんだ。
結ばれることなんて、土台許されていなかった。
最初から、失恋することが決まっていた僕の恋。
彼女は、これから、これまでよりも何十倍も何百倍も重いものを背負わなきゃならない。
それは、彼女が選んだ、戦う自由。
僕は、その彼女の決意を邪魔しちゃいけない。
こんなふうに彼女を悩ますくらいなら、僕の気持ちなんて伝えなければ良かった。
やっぱり僕は、馬鹿だ。
「……ありがとう、君の気持ちが聞けて、うれしかった」
僕の声帯は、ようやくこれだけの言葉を絞り出した。
「こっちこそ、ありがとう」
ありがとう……か。
そうとも。
彼女は、僕が彼女を愛してしまったことを、うれしく感じてくれたんだ。それは、とても素敵なことじゃないか。
彼女の、ありがとう、は、なんだか僕に力をくれる気がする。
僕は、地面の小石と枯れ枝を見つめたまま、小さくうなずいた。
「うん……これで、僕は前に進める」
それは紛れもなく僕の本心だった。かなわぬ恋に縛られて一歩も歩けなくなってしまう――そんなの嫌だ。だから、僕は彼女に告白をしようと、そう思ったのだ。
――浦野がそうだったみたいに。
「私も」
彼女も、僕が秘めていた気持ちを知っていたからこそ、僕のことを思えば前に進めなくなると思っていた――のかもしれない。
僕が彼女に愛を告げて、彼女はそれを優しく拒んだ。それこそが、彼女に必要なことだったんだ。
僕は、ポケットから、小さな黒くて四角いものを取り出した。ジーニー・ルカのインターフェース端末。
これがあれば大丈夫。
そんな錯覚を僕に覚えさせるその端末。
あらゆる困難から僕らを守る小さなシェルター。
それは母親の子宮のようで。
……きっと僕を、振り返らせてしまう。
僕は、セレーナは、前を向いて歩く。
もう、これは、邪魔なもの。
「……これはもう、僕が持ってちゃいけないね」
セレーナに歩み寄って。
彼女の右手をとって。
その手に、黒いものを握らせた。
でも、彼女はその手を閉じなかった。
その手から、彼女の震えが伝わってきた。
「やっぱり……やっぱり、いやだよ、ジュンイチ……」
セレーナは、ぐすっと鼻を鳴らす。
「もっとジュンイチといろんなところに行きたい……もっと子供でいたい……」
僕だって。
僕だってそうだよ、セレーナ。
「私……私……ジュンイチと一緒に……やっと子供になれたのに……」
鼻の奥に、何か、ツンとする匂いを感じて、思わず大きく息を吸い込んだ。
――でも、時は流れるんだ。
どんな時間だっていつか過去に流れていく。
その代わり、新しい未来の風は常に僕らの前から吹いてくる。
「前に進む、って決めたじゃないか。君はこれから、エミリアを変え自分の人生を切り拓いていくんだ」
僕の想いを込めた言葉に、セレーナはうつむいたまま、首を縦に振る。
「僕は、僕の道を歩き出す、約束する」
彼女はもう一度うなずいた。
「さあ、だったら。これは必要な儀式だ」
セレーナは、右手に乗せられた黒いものを、じっと見ていた。
そして、震える手でゆっくりとそれを握り締める。
僕は、いたたまれずに目を閉じる。
セレーナの右手が、僕の左手から零れ落ちていく。
僕に無限の力を与えてきたそれは、静かに僕から離れていった。
「あなたに会って、私は、自分の人生を切り拓くことを教わった。うん。こんなものに頼らない。全知の力なんて、きっと邪魔になる。だって、私は自分の力で切り開くんですもの」
彼女の声が震えている。
僕の閉じたまぶたの隙間から、熱いものがあふれかけているのが、自分でも分かる。
今、彼女はどんな表情なんだろう。
知りたいけれど、怖くて目を開けられない。
笑顔じゃない彼女がいたら、と思うと。
自ら歩き出す、と気丈に告げる彼女が、泣き顔だったら。
僕の決心は、きっと揺らいでしまう。
抱きしめて、どこにも行くな、と叫んでしまうかもしれない。
だけど、それはいけない。
絶対にやっちゃいけない。
だから、目を閉じて、彼女の声の震えが聞こえなくなるのを待たなきゃならなかった。
――!
不意に、鼻先に気配を感じた。
風のような。
香りのような。
次いで、僕の唇に新しい感覚。
温かくて。
柔らかくて。
目を開けられない。
目を開けたら、その正体を知ってしまう。
息ができない。
体が震えて、どこにも力が入らない。
両腕で彼女を抱きしめたい。
なのに、腕が動かない。
僕の頭の中では、接触時間をカウントするストップウォッチだけがくるくると回っていた。
そのストップウォッチが八秒五をさしたところで、唇から温かい感触は遠のいていった。
鼻先から、風と温もりが遠のき、消えていった。
いつか嗅いだ、セレーナの長い髪のいい匂いだけが残った。
「あーあ」
セレーナの声が聞こえてきた。
「私の純潔、ジュンイチに奪われちゃった。大問題ね」
僕は恐る恐る目を開ける。
そこには笑顔のセレーナがいた。
「先払いよ。私ね、エミリアを、王位継承権者が結婚する気もない人とデートできる国にするの。血筋なんて気にしなくていいんだって……ロミルダに教えられたから」
彼女はたおやかな白い花のように笑った。
「さっ、先払いにっ、きっ、ききき、キスは行き過ぎでは!?」
キス、と言葉にしてしまって、僕の紅顔はその赤みを倍にした。
「なによ、年頃の男女のお付き合いでどんな事するのかも知らないわけ?」
「で、でも、だからってちょっと……!」
「……ジュンイチ、だから」
彼女のささやくような声とともに、空に気配を感じた。
風を切りながら、白いものが降りてくる。
魔人を乗せ魔法で飛ぶ、僕の知る最も高貴な王女様の船。
この宇宙でたった一機、僕が名づけた宇宙船、ドルフィン号。
「……なんだか、これ以上一緒にいたら、帰れなくなるから。みんなには、適当によろしく言っといて」
魔法の唸りを上げながら、宇宙船は静かにタラップをセレーナの後ろに伸ばした。
セレーナは振り向いて、タラップに向かって歩き出す。
「いつか、また。会えるかな」
僕は後ろから声をかけた。
セレーナは歩を止める。
「さあね」
そして、豪奢な金髪をなびかせながら軽やかにタラップに飛び乗る。
「もし私がすべてを成し遂げることができたらね」
「……君なら必ずできる!」
僕が彼女の背に向けて叫ぶと、彼女はタラップの上で優雅にターンした。
両手を腰に当てて。
不敵な笑みを浮かべ。
気品にあふれる声で。
青い瞳に燃える色をたたえて。
「……当たり前よ! この私を誰だと思ってるの! 宇宙に冠たるエミリア王国の国王第一息女、至高の魔法を自在に操るセレーナ・グリゼルダ・グッリェルミネッティよ!」
ごうっという風に思わず右腕で目を覆った。風の中に、ジュンイチ様お元気で、と言う魔人の声が聞こえた気がした。
風が止んで目を開けると、オレンジの筆記体の入った白い宇宙船は、深い深い藍色の宇宙へ吸い込まれていくところだった。
西の空には、この季節には珍しい、目をみはるばかりのきれいなの夕焼けが燃えていた。
●●● 魔法と魔人と王女様 第六編 魔法と魔人と終焉の奇跡 完 ●●●
●●●●●●●● 魔法と魔人と王女様 完 ●●●●●●●●●




