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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で王女と一緒に宇宙を攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

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第五章 至高の魔法(2)


 管制室が、静まり返った。

 もう一度、じゃあ行こうか、と僕は視線だけで、セレーナに尋ねた。

 彼女は、微笑んで、うなずいた。


 さあ、始めよう。

 王女様の至高の魔法を。


 それが、セレーナの。

 僕とセレーナの、決断。


 魔法の術式、開始――


「ジーニー・ルカ、スタンバイ」


 魔法をつかさどる魔人へのオーダー。


『いつでも結構です』


 続けて、その最後の条件を導くために。


『ジュンイチ様、直感演算のためのご準備を』


 僕はうなずき、両腕を広げた。


「セレーナ……じゃあ」


 セレーナは小さくうなずく。

 彼女は両手をゆっくりと上げた。

 僕はその手を取る。


 最初は、指先を小さく。

 それから、手の甲、掌へ、僕の指は滑り。

 しっかりと、彼女の小さな手を包み込んだ。


「あなたが運命の人だったなんて……不思議な気分」


 その言葉は、違う状況で聞けば、きっと全然違う意味で。

 けれど、僕らの出会いと旅は、きっと、運命。必然。計算ではなく。僕とセレーナが紡いだタペストリー。


『ジュンイチ様、セレーナ王女に、ジュンイチ様の網膜をしっかりとご覧になるようお伝えください』


 ジーニー・ルカは、それを僕に伝えた。そう、僕が伝えなくちゃならないから。


「セレーナ……じゃあ、僕の目を」


 少しうつむいていたセレーナは、小さくうなずいて、しっかりと顔を上げた。

 青く燃えるセレーナの瞳が、僕の瞳をまっすぐに射抜く。

 ――はずだった。

 彼女の瞳は、僕を射抜こうと、した。

 僕はまっすぐにそれを受け止め、宇宙の可能性のすべてを彼女の瞳に映す、はずだった。


 なのに、僕の視線は、突然、どこかに行ってしまった。

 僕の視界から、彼女の顔が消えた。

 太陽を直視してしまったときのような本能的な反射が、まぶたを、眼球を、首を、無理矢理にねじ伏せ、視線を逸らさせていた。

 ゆっくりと目を開けても、床しか見えない。

 いつまでたっても、僕の視界に映るのは、ファレン星間カノン基地管制室の無機質な床だけ。

 僕はセレーナから目をそらし、床を見つめている。

 いつの間にか、顔を真下に向け、床と対峙していた。

 顔を上げようとする僕の必死の努力は、全く実らなかった。


 ……どうして?


 考えた瞬間に、分かった。

 なんてことだ。

 こんな時に。

 こんなことに気づくなんて。


「ジュンイチ……顔を上げて。あなたの目が見えない」


 僕はとんでもない馬鹿だ。

 どうして今まで気付かなかったんだろう。

 どうしてこんな時に気付くんだろう。


 全宇宙のあらゆる星にかけて、僕は、今まで気付かなかったんだ。

 気付かないふりをしてたとかじゃない。本当に知らなかった。


 だけど今。

 宇宙を裏返すようなとんでもないことに、気が付いてしまった。

 どうしても顔を上げられない。

 顔を上げてしまったら。

 セレーナを見つめてしまったら。

 きっと僕はおかしくなってしまう。

 このことに気付いてしまったから。

 ああ、どうして今なんだ。

 僕は気付いてしまった。

 僕は。


 セレーナが好きだ。


 なんてことだ。

 ずっと好きだった。

 宇宙中に叫びたいほど好きだった。

 僕は馬鹿だ。

 こんなにも長い間。

 こんなことに気付かなかったなんて。

 地球もエミリアも、宇宙そのものだってどうでもいい。

 今すぐこの手を引いて、宇宙の果てまで二人で逃げよう。

 きっとそれは楽しい旅。


『ジュンイチ様、お目を』


 うるさい。

 僕は、宇宙よりも。

 セレーナが欲しい。

 今なら間に合う。

 セレーナに気持ちを告げて。

 ドルフィン号に乗って宇宙の果てへ。

 僕とジーニー・ルカ。

 その全知の力をもって。

 宇宙を統べる魔王になろう。

 セレーナを王宮に迎え。

 二人だけの王国を築こう。


 大丈夫。どんな敵だって打ち払える。

 だって、僕は、宇宙で最強の魔人だから。

 宇宙を統べる魔王だから。

 大丈夫。

 今つかんだこの手を引いて、このまま、ドルフィン号に乗れば、それでおしまい。

 だってこの宇宙にはもう僕とセレーナの二人きりだから。

 さあ、行こう。

 時間の終わりに向けて、僕らの魔法を紡ごう。

 ね、セレーナ。

 僕と。

 永遠の――


 ……。

 ……。


「ふふっ」


 僕は自分のあまりに馬鹿らしい考えに、思わずうつむいたまま笑いを漏らしていた。


「どうしたの? ジュンイチ」


 僕は、セレーナの瞳を見つめる前に、おかしくなっていたらしい。

 僕がセレーナを好きだからなんだってんだ。

 そんなことが、彼女の自由を奪っていい理由になんてならない。

 これは、この宇宙で最も気高く美しい王女様を――いや、僕の大好きな女の子を守るための戦い。

 セレーナが好きだからこそ。

 今は、勇気を持って。

 口元から笑みを消し、顔を上げる。

 全く力の入らなかった首筋の筋肉が言うことを聞いてくれる。

 痺れていたような指先の感覚が帰ってくる。

 視線を上げ。

 落ちてこようとする瞼をこじ開ける。

 ――やがて、セレーナの瞳が視界に入った。

 僕の心は、その青い瞳の奥深くに吸い込まれた。


 大好きだ、セレーナ。



挿絵(By みてみん)



『演算完了しました。ジュンイチ様がご所望の二組の数値の事実性評価結果、確度は99.999999999999999999999999――』


 その9の数こそが、僕がセレーナを想う気持ちの強さ。


『――9999999999999999999パーセント』


 最後の一音が反響して消えていく。


「ジーニー・ルカ、あなたとの旅は楽しかったわ」


『セレーナ王女、私もです。どうぞ、ご命令を』


 演算が終わり、そのために必要だったセレーナの手は僕の手から滑り落ちた。

 手のひらに残った温もりを逃がさぬよう、僕は、手をしっかりと握った。

 セレーナはパネルに向きなおり、再び、通信機のスイッチを入れる。


「オオサキ外交官殿。コンラッド閣下。これが、エミリア王国第一王女の決断と覚悟です。――エミリアの諸侯たち、とくと見なさい! これがこの世でただ一人、王女たるこの私だけが使える至高の魔法よ!!」


 芝居がかった所作で、彼女は右手を振り上げる。

 人差し指をぴっと立て、時間の果てに向けて、まっすぐ前方に振り下ろした。


 その声と行動をオーダーと解釈したジーニー・ルカが、魔法の最後の引き金を引いた。


 ドン、という衝撃、続けて、カノンの砲身を、ドルフィン号がすさまじい加速を受けて駆け抜けていく振動が伝わってくる。

 通常はありえない加速に、砲身のきしむ音が遠くから響いてくる。

 ルイスとスコットの作った式が吐き出す数字が、正確にマジックシステムとカノンの反転装置に吸い込まれていくのを感じる。

 ビクトリアが取り付けなおした制御システムがその数字を正しく処理する。

 アンドリューが結集させた、アルカス、リュシー、そして、アンビリアの知恵が、一つの結晶となる。


挿絵(By みてみん)


 次の瞬間、砲身の咆哮は静寂と交代した。


 衛星の映るターゲットモニターの中央で異変が起こったのはその時だった。

 直径数十キロメートルという巨大な質量の塊。

 それが、突然、ふわりと膨らみ、虹色に光り、小さな塵クズとなって周囲の空間を満たし、霧散した。

 強力な反重力によりあらゆる構造を原子単位にまで吹き飛ばす第一波。

 そして、魔法は、空間に闇を、すべてを呑み込む『闇』を、作り出した。

 それこそが真に恐るべき第二波、反重力津波。

 それ自身が圧力を持つ『闇』の爆風に、エミリア艦隊は木の葉のように宇宙空間を舞った。 

 静かなものだった。

 最初から、そこには何もなかったように。

 その映像を見ていたあらゆる人々の心に、闇の持つ圧倒的な恐怖を植え付けた。


挿絵(By みてみん)


***


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