テレビ局
「太子どの」
赤猪子が、軽ノ太子姿の陽一に言った。
「これからは何があるかわからぬから、太子どのと呼ぶぞ」
「わ、わかった」
赤猪子は真剣だ。
「琉依さまのお姿を見たのは太子どのだけだ。気配を探ることはできるか?」
陽一は集中してみたが、近くにあの気配を感じることはできなかった。
「できないみたいだ。エネルギーも感じない」
「赤猪子、われらも急ごう」
「そうじゃな。朋樹よ、ここから、一番近い神社は?」
「あ、はい。阿沼美神社ならすぐに行けます」
そう言って朋樹は、スマホで位置を教えてくれた。
「朋樹、ありがとう」
太子の姿で陽一がお礼を言った。
「晶ちゃんを守ってね、陽一」
「うん」
「あと、陽一どのの人形じゃが、お主、抜かりなく頼んだぞ」
「任せてよ!」
今度は陽一の人形が胸をどんと叩いた。
「俺の方はうまくやっておくからさ、心配するな。な、朋樹」
それを聞いて赤猪子がムッとする。
「二人はこの件に顔を突っ込んでは……」
「わかってる。でも、できることはするよ」
人形の言葉を聞いて、朋樹がえ? という顔をした。
「だって、俺たちにもできることはあるはずなんだ。誰かがやってくれるからって、黙って見ているなんてできない」
太子姿の陽一は、自分を見て思わず笑った。
「本当、俺そっくり。ばあちゃん無理だって、ただの人間でもできることはあるよ」
赤猪子は、複雑そうな顔をして息をついた。
「信用しているからな。わしは先に行く」
そう言い捨てると、赤猪子の姿が消えた。
晶が、朋樹たちに向かって言った。
「朋樹、陽一、あとは頼んだぞ」
「晶ちゃん、気を付けて」
「晶、俺も行く」
太子姿の陽一が言った。
「じゃあ、行ってくるよ」
二人に手を振って晶と太子の姿が消えた。
神社の場所を確認していた陽一たちは、同じ場所にテレポートした。
阿沼美神社は、山の中腹あたりにあり、小さい神社で参拝する人はとても少ない。
鳥居は無事だった。
「ここじゃないのかな」
陽一が呟くと、先に来ていた赤猪子が鳥居に結界を張るのが見えた。
「この鳥居を壊すものが現れたら、わしらにわかるようにした。破壊もできぬようにした」
「すげえ」
鳥居に変わった様子はないが、虫や鳥が避けていくのはわかった。
「鳥居を壊すってどうしてなんだろう。目立ちたいのが目的?」
「いや、そうじゃない」
赤猪子が首を振った。
「これくらいでは感じぬかもしれんが、人間には本来第六感というものがあった。いわゆる勘というやつだ。勘が働くと言うじゃろ。本来、地球の波動から力を得ていた人間たちだったが、それを好ましく思わないレアンたちが鳥居で波動を封じたのじゃ。本来なら、その勘で物事がスムーズに進むはずだが、地球から出ている波動を封じることで、人間の第六感も使えにくくしてしまった。これが、鳥居の目的じゃ」
「じゃあ、鳥居が壊されたら」
「壊されたら困る奴らもいるということだ」
「それって、誰のこと? 敵っているの?」
陽一は深く考えた事がなかった。
これまではハンターや神の力を奪おうとしていたよくわからない敵と戦うために、力をつけていたが、よくよく考えたら、敵って、存在しているのかよくわからない。
赤猪子はそれには答えず、本来の目的を言った。
「今の我らの目的は琉衣どのを探すことだ。姫、何か感じますか?」
晶が集中して気配を探っている。
と、そこへ車の音がしてワゴン車が2台入ってきた。
三人は咄嗟に木のかげに隠れた。
「なんだ、あの車」
陽一が用心深く言った。
「わからぬ」
晶が神妙に答えた。
赤猪子はじっとしている。
見ていると、車から三脚、カメラを下ろし、胸元にマイクをつけたリポーターらしき女の人。
どうやら、テレビ局の人間らしい。
そして、山道からたくさんの人々が現れた。
20人ほどの人間。
男性、女性、若い人から年配と様々だ。
そこへ、一人の若い男性が人々に走りより、大きい声を出した。
「はーい、皆さんここに集まってくださーい。今から簡単に説明します!」
人々は静かに集まり、説明を聞いている。
「じゃあ。この鳥居をくぐる人と自然な感じで参拝に来た感じの方と分かれてください」
人々は慣れた様子で言われた通り、鳥居に向かって歩く人、今までずっとそこにいたかのように振る舞う人とバラバラになった。
それをカメラマンが様々な角度から撮っていく。
カメラを向けられたリポーターは、鳥居がいかに大事かを説明しはじめた。
あっという間のことで陽一はあ然とした。
なんだろう。
鳥居の絵を撮って、何をするんだ? と思っていると、どうやら生中継らしかった。
テレビ局とつながっています、と声があり、リポーターが鳥居と参拝者を映して説明している。
こちらの神社はパワースポットと呼ばれる大岩があり、多くの参拝者が訪れます、などと言っている。
どこにパワースポットがあるのだろうと思っていると、本殿の隣にあるらしかった。
ぞろぞろと人々が鳥居を抜けて、奥の本殿へ向かっていった。
「はーい、いったん、CMでーす」
中継が途切れて人々がはっと立ち止まった。
「赤猪子さん」
「うむ……。人間は不思議なことをするのじゃな」
自分たちの姿は見つかっていない。
「ここに叔父上が来るとまずい」
晶が呟く。
これだけの人に顔をみられ、テレビに映ったりすると大変だ。
「晶……」
その時、陽一は首筋がざわざわして、何かを感じとり空を見上げた。
同時に晶も赤猪子も同じように空を見ていた。
「叔父上がこたえてくれた」
遥か上空に小さな子どもが浮かんでいた。
「参ろう」
赤猪子が言って、3人は空へ飛び上がった。




