後宮
◇◇◇
月へと戻った正勝は、まっすぐ晶のいる後宮へと向かった。
そこには途方に暮れた俊介、その他大勢の人がいた。葵も菜々も目を覚まして無事のようだ。
正勝が現れると、俊介がすぐに気付いた。
「正勝殿」
「陽一は大丈夫だ。大蛇は間違いなく倒した」
正勝の言葉を聞いて、晶が唇を噛みしめてうなだれた。
「ありがとうございます。正勝さま」
「晶、陽一は男らしく戦っていたぞ」
「はい……」
涙ぐむ晶の肩を舞が優しく抱きしめた。
「よかったですわね、晶さま」
「よし! では俺たちは地球へ帰ろうか」
出し抜けに佐野が言って、菜々の手をぎゅっと握り締めた。晶が二人に近寄った。
「叔父上」
「ん?」
「陽一の事、頼みます」
晶が頭を下げると、佐野はにたにたと笑った。
「おう、任せとけ! 浮気せぬか見張ってやるわ」
「殿下!」
俊介がじろりと睨みつけた。
「冗談だよ、冗談」
わははと陽気に笑う。それを晶が少し寂しそうに見つめていた。それからすぐ、佐野と菜々は地球へと帰っていった。
「あの、晶さま……」
「ん?」
葵がおずおずと側に寄って頭を下げた。
「わたくし、陽一さまとお話を致しました」
「なぜ、そなたが……」
「晶さまを喜ばせたくて」
「我を?」
本来は和記のために行ったのだが、ここはひとつ嘘をつかねばと葵は思った。
「はい。勝手な事をして申し訳ございませぬ」
「で、陽一はどうであった?」
晶の手に力がこもった。葵はちょっと息を吸って小さく吐いた。
陽一の後を追って話をしたこと。そして、雪を花に変えたことを思い出す。すると、突然、その場に雪が降り始めた。晶はゆっくりと舞い落ちる雪を眺めていると、それが花びらに変わった。
静かに風が吹いてきて、晶の手のひらに桃色の花びらが舞い落ちる。
それを見た晶の口元が優しくほころんだ。
「晶さまにお花をと、陽一さまからでございまする」
「かたじけない。葵殿……」
「いいえ、晶さま……! わたくし、地球へ行ってよかったと思いました」
葵はそれだけしか言わなかったが、晶は小さく頷いた。
「我はあきらめぬ。必ず、陽一と会えるのだから。な、舞」
「ええ、その通りでございますわ、晶さま」
舞も一緒に泣きそうな顔で、晶にくっついて葵を見た。その瞳は恨めしそうでもあり悔しそうにも見えたが、葵は気づかない。
陽一、お主に会いたい。
晶は吐息をついた。




