第48章 ⑤
結婚式の日取りを決めることになった。
急ぐ必要はない。
二人とも仕事があるし、呼ぶ人の都合もある。
カイルとミラにも聞かなければならない。
代官府の人も来るらしい。
サラは畑の人たちを呼びたいと言っている。
ルークはダンとエリオを呼ぶと言った。
少しずつ決めればいい。
そう思っていた。
ある日の朝。
サラが朝ご飯を残した。
珍しい。
「いらないの?」
「うん。何か、食べたくない」
額に触る。
熱はない。
「気持ち悪い?」
「少し」
風邪だろうか。
でも、咳もない。
顔色もそこまで悪くない。
「今日は畑休んだら?」
「そうする」
素直だ。
それが逆に気になった。
サラは少しくらいなら畑へ行く。
その日は一日家にいた。
次の日も、朝ご飯をあまり食べなかった。
三日目。
私はサラを見る。
サラも私を見る。
何となく。
嫌な予感ではない。
別の予感がした。
「サラ」
「何?」
「もしかして」
サラが首を傾げる。
本人は分かっていないらしい。
私は医者を呼んだ。
結果。
「子供ですね」
医者が言った。
サラが目を丸くした。
私も少し驚いた。
やっぱり。
ニコは固まった。
その日の夕方。
ルークが帰ってきた。
私は夕飯の準備をしていた。
サラとニコは居間にいる。
二人とも妙に静かだ。
「ただいま」
「おかえり」
ルークが入ってくる。
手を洗い、荷物を置く。
「今日何?」
「煮込み」
「分かった」
いつも通りだ。
私は鍋を混ぜる。
後ろでサラが言った。
「お兄ちゃん」
「何?」
「話がある」
ルークの動きが止まった。
前にも見た。
嫌な予感がしたのだろう。
「……何?」
サラがニコを見る。
ニコもサラを見る。
またそれだ。
私は火を少し弱くした。
今度はコルン焼きがない。
残念だ。
「赤ちゃんできた」
静かになった。
私は鍋を混ぜる。
ルークがサラを見る。
次にニコを見る。
もう一度サラを見る。
「……誰の?」
私は手を止めた。
サラも止まった。
ニコも止まった。
「ニコのに決まってるでしょ!」
「分かってる!」
じゃあ聞くな。
ルークがニコを見る。
ものすごく見る。
ニコが少し後ろへ下がった。
「ニコ」
「何?」
「一発殴らせろ」
出た。
ニコが困った顔をした。
「何で?」
やっぱり聞いた。
「何でって」
ルークが詰まる。
サラが立ち上がった。
「駄目だよ!」
「まだ殴ってない」
「殴ろうとしたでしょ!」
「一発だけ」
「一発でも駄目!」
「サラ」
「何?」
「お前はちょっと黙ってて」
「私の赤ちゃんの話でしょ!」
正しい。
私は鍋を混ぜる。
焦げたら困る。
「だいたい」
サラが続ける。
「結婚するって言ったでしょ?」
「式はまだだろ!」
「式と結婚は別でしょ!」
「別じゃない!」
「別だよ!」
ルークが私を見る。
助けを求めているような気がする。
私は首を振った。
知らない。
自分で頑張れ。
「おばさんは何とも思わないの?」
とうとう聞かれた。
「何が?」
「式の前だよ?」
「カイルもそうだったよ」
ルークが黙った。
そう。
前例がいる。
しかも三人の父親になっている。
「だからいいって話じゃないだろ」
「悪いとも思ってないよ」
二人とも成人している。
結婚すると決めている。
子供ができた。
それだけだ。
ただ。
私はサラを見る。
「体は大事にしなさい」
「うん」
「畑も無理しない」
「分かった」
「ニコ」
「はい」
「ちゃんと見ててね」
「分かってる」
それでいい。
ルークだけが納得していない。
「俺だけ?」
「何が?」
「気にしてるの」
多分。
私は鍋の火を止めた。
「ご飯にしよう」
「今その話?」
「冷めるよ」
ルークが何とも言えない顔をした。
サラが笑った。
ニコも少し笑った。
私は皿を並べる。
結婚式より先に、家族が一人増えることになった。
予定とは少し違う。
でも。
こういうこともある。
カイルの時にもあった。
あの時より、私は驚かなかった。
慣れたのかもしれない。
ルークはまだニコを見ていた。
殴るのは諦めたらしい。
よかった。
治療費がかからない。




