第48章 ②
ルークが帰ってくる前に、コルン焼きを用意した。
別に必要ではない。
夕飯も食べた。
でも、こういう時には何か食べながら見た方がいい気がする。
昔、私がいたところでは、こういう時に食べるものだった。
多分。
「おばさん、それ食べるの?」
サラが聞いた。
「食べるよ」
「今?」
「今」
サラが少し怪しいものを見るような顔をした。
失礼な。
私は椅子に座り、コルン焼きの入った器を膝に置いた。
ニコは落ち着かないらしい。
さっきから座ったり立ったりしている。
「そんなに緊張する?」
「するよ」
「結婚するんでしょ?」
「するけど」
「じゃあ頑張って」
「おばさんは何もしないの?」
「何で?」
ニコが黙った。
自分たちで決めたことだ。
自分たちで話せばいい。
私はコルン焼きを一つ食べた。
美味しい。
しばらくして、イナが顔を上げた。
少し遅れて、外から足音が聞こえた。
「帰ってきた」
サラが言った。
ニコの背筋が伸びた。
私はもう一つ食べた。
扉が開く。
「ただいま」
「おかえり」
ルークが入ってきた。
荷物を置きながら、私を見る。
「何食べてるの?」
「コルン焼き」
「夕飯食べたでしょ?」
「食べたよ」
「じゃあ何で?」
「食べたいから」
ルークはそれ以上聞かなかった。
サラとニコを見る。
二人とも立っている。
「何?」
気付いた。
サラがニコを見た。
ニコもサラを見る。
またそれをやる。
「サラから言えば?」
「ニコから言ってよ」
「僕?」
「どっちでもいいんじゃない?」
思わず言った。
三人が私を見る。
「私は関係ないよ。続けて」
コルン焼きを食べる。
ルークが怪訝な顔をした。
「何なの?」
サラが少し息を吸った。
「お兄ちゃん」
「うん」
「私、結婚することにした」
ルークが止まった。
動かない。
私は静かに次の一つを取った。
「……結婚?」
「うん」
「誰と?」
サラが隣を見る。
ルークも見る。
ニコがいる。
「僕と」
静かになった。
ルークがニコを見る。
ニコもルークを見る。
長い。
私はコルン焼きを食べた。
いいところだ。
「ニコと?」
「うん」
サラが答える。
「何で?」
出た。
サラが眉を寄せた。
「何でって何?」
「いや、何でニコ?」
「駄目なの?」
「駄目とは言ってない」
「じゃあいいでしょ」
「よくない」
「どっち?」
ルークが黙った。
私も黙っている。
口を挟むところではない。
面白いので、このまま見ていたい。
ニコが口を開いた。
「ルーク」
「何?」
「サラと結婚したい」
「聞いた」
「だから、ちゃんと話そうと思って」
「いつから?」
来た。
私はコルン焼きをもう一つ取った。
美味しい。
コーラがあればいうことなかったが。
ニコが困った顔をした。
「いつからって言われても……」
「いつからサラをそういう目で見てた?」
「お兄ちゃん」
サラの声が少し低くなった。
ルークがサラを見る。
「大事なことだろ」
「大事じゃないよ」
「俺には大事」
「私のことだよ?」
「妹だから」
「私、二十一歳だよ」
「知ってる」
「じゃあいいでしょ」
「よくない」
また戻った。
私は笑いそうになった。
我慢する。
ニコが私を見る。
助けを求めている気がする。
私はコルン焼きを食べた。
頑張れ。
声には出さない。
「ニコ」
ルークが呼んだ。
「何?」
「サラを泣かせたら許さない」
ニコは少しだけ考えた。
「それは約束できない」
ルークの眉が動いた。
私も少し驚いた。
「何で?」
「一緒に暮らしてたら、喧嘩することもあると思う。僕が悪くて泣かせることもあるかもしれない。絶対に泣かせないとは言えない」
ルークは黙った。
ニコは続けた。
「でも、泣かせたままにはしない。それなら約束する」
今度はサラがニコを見た。
私は手を止めた。
ちゃんと考えていたらしい。
ルークもしばらく何も言わなかった。
やがて、大きく息を吐いた。
「……分かった」
サラの顔が明るくなった。
「いいの?」
「嫌だけど」
「どっちなの?」
「結婚するなとは言わない」
それで十分だと思う。
サラもそう思ったらしい。
「ありがとう、お兄ちゃん」
ルークはまだ納得していない顔をしていた。
でも、もう止めなかった。
私は残っていたコルン焼きを口に入れた。
終わった。
思っていたより平和だった。
「おばさん」
ルークがこっちを見る。
「何?」
「何でずっとそれ食べてるの?」
「美味しいから」
「最初から知ってた?」
「さっき聞いた」
「何で教えてくれなかったの?」
「個人情報だから」
ルークが何とも言えない顔をした。
サラが笑った。
ニコも笑った。
私も笑った。
コルン焼きは、もうなかった。
もう少し作っておけばよかった。




