第48章 ①
あれから一年経った。
私は元気だ。
去年、みんなからもらったお守りは今も使っている。
最初のうちは汚したら勿体ないと思って、出掛ける時だけ身につけていた。でも、それではお守りの意味がない気がして、今はほとんど毎日使っている。
オレンジに赤と紺が混ざった紐も、まだ傷んでいない。
サラとミラが丈夫に作ったと言っていたので、しばらくは大丈夫そうだ。
前に自分で作った五百円玉のお守りも、ちゃんとしまってある。
あれはあれで大事だ。
サラは二十一歳になった。
畑の仕事は相変わらず続けている。
最近は自分の畑だけではなく、周りから相談されることも増えたらしい。土の状態を見てほしいとか、水の流れを変えられないかとか、そういう話だ。
魔法で全部どうにかするわけではない。
土を触って、作物を見て、それから必要なら魔法を使う。
昔よりずっと農家らしくなった。
ニコも二十一歳になった。
代官府の仕事を続けている。
代官付きの補佐という立場も変わっていないが、仕事は増えたらしい。
「昇進したの?」
一度聞いたことがある。
「してないよ。仕事が増えただけ」
あまり嬉しくない増え方だった。
それでも辞める気はないらしい。
家から通えるし、仕事にも慣れたし、今のところ他へ行く理由がないと言っていた。
ニコらしい。
ルークは二十四歳。
冒険者を続けている。
ダンとエリオとの三人組も続いていて、最近は少し遠いところから依頼を受けることも増えた。
数日帰らないことも珍しくなくなった。
その代わり、帰る日はちゃんと知らせてくる。
夕飯が必要だから。
そこは大事だ。
連絡なしで帰ってきても、ご飯はない。
二十四歳なら自分で何とかできる。
カイルとミラも相変わらずよく来る。
カイルのところには、予定どおり三人目が生まれた。
母子ともに無事だった。
それを聞いた時は、本当に安心した。
三人の子供を連れてくるようになったので、以前よりさらに騒がしい。
イナは三人が来ると逃げる。
最近は姿を見ただけで逃げる。
賢い。
ミラの子供も少し大きくなった。
歩く。
転ぶ。
また歩く。
目を離すと何かを触っている。
この前は私の糸を引っ張って、部屋の端まで持っていった。
途中で絡まっていた。
解くのに時間がかかった。
孫は可愛い。
可愛いけど、何でも許せるわけではない。
糸は駄目だ。
そんな感じで、一年経った。
特別なことはない。
みんな仕事をして、帰ってきて、ご飯を食べる。
カイルとミラは自分の家へ帰る。
ルークは依頼があれば出掛ける。
サラは畑へ行く。
ニコは朝になると代官府へ行く。
私は家のことをして、空いた時間に編み物をする。
それでいいと思っていた。
その日の夕方。
ニコがいつもより少し早く帰ってきた。
「おかえり。今日は早いね」
「うん。今日は仕事が早く終わったから」
「ご飯、もう少しかかるよ」
「大丈夫」
ニコは着替えに行った。
少しして、サラも畑から戻ってきた。
二人ともいつもと変わらない。
だから、何も気にしなかった。
夕飯を食べて、片付けをして。
私が居間で編み物を始めた頃だった。
「おばさん」
サラに呼ばれた。
「何?」
見ると、ニコもいる。
二人で並んでいた。
珍しい。
「どうしたの?」
サラがニコを見た。
ニコもサラを見る。
何だろう。
しばらくして、サラが言った。
「私たち、結婚することにした」
手が止まった。
「……誰と?」
サラがニコを指した。
ニコも自分を指した。
「僕と」
「そう」
分かった。
いや。
待って。
私は二人を見た。
サラ。
ニコ。
もう一度見る。
「いつから?」
二人が顔を見合わせた。
「それは」
ニコが少し困った顔をした。
サラも困っている。
聞かない方がいいらしい。
「まあいい。そこは個人情報だね」
「うん」
サラがすぐに頷いた。
そこは否定しないのか。
私は編み物を膝に置いた。
結婚。
この二人が。
そうか。
「ルークには言った?」
二人とも黙った。
まだらしい。
なるほど。
私は編み物を持ち直した。
「先に言ってきな」
「今?」
「今」
「今日、帰ってくるかな」
「帰ってくるって連絡あったよ」
サラとニコが、また顔を見合わせた。
何だか少し嫌そうだ。
結婚するのは二人だ。
自分たちで頑張ってほしい。
私は関与しない。
ただし。
ルークが帰ってきたら、少し離れたところから見ていようと思う。
多分、面白い。




