第47章 ③
数日後。
朝からニコは仕事へ行った。
ルークもいない。
三人で依頼に出ている。
四日か五日と言っていたから、帰るのは明日か明後日だろう。
サラは朝食を終えて、畑へ行く準備をしていた。
私は昨日の続きのレースを編んでいる。
今度は小さい。
大きいものは時間がかかる。
しばらく大きいものはいい。
多分。
扉を叩く音がした。
朝から誰だろう。
「はーい」
サラが先に出た。
少しして声がする。
「おばさん」
「何?」
「ニコのお仕事の人」
仕事?
何か忘れたのだろうか。
玄関へ行く。
若い女の人が立っていた。
二十代半ばくらい。
手に何枚かの紙を持っている。
少し息が切れていた。
急いできたらしい。
「朝早くに申し訳ありません。ニコさんはいらっしゃいますか?」
「もう仕事行ったよ」
「やっぱり!」
何がやっぱりなんだ。
女の人が紙を見る。
「行き違いになってしまいました」
「急ぎ?」
「はい。今朝一番で出す予定の書類に不備が見つかって」
大変そうだ。
「ニコに確認しないと駄目なの?」
「昨日、最後に確認したのがニコさんなんです。地区から上がってきた数字と、こちらの記録が合っていなくて」
なるほど。
分からない。
「代官府に行けばいるよ」
「はい。すぐ戻ります」
女の人が頭を下げる。
その横で、サラがまだ立っていた。
「ニコと一緒に働いてるの?」
「はい」
女の人が笑った。
「いつも助けてもらっています」
「ニコに?」
「はい。確認が早いので。間違いもよく見つけてくれますし」
へえ。
家では本ばかり読んでいる。
ちゃんと働いているらしい。
当たり前だけど。
「昨日も遅くまで一緒に確認していたんですが、別の数字を見落としてしまったみたいで」
「遅くまで?」
サラが聞いた。
「はい。昨日は少し遅くなってしまって」
「そうなんだ」
何だ。
サラが少し静かになった。
「ニコさんには申し訳ないんですけど、もう一度見てもらわないと」
「大変だね」
「慣れてます」
女の人が苦笑する。
「ニコさんがいてくれるようになって、本当に助かってるんです」
「そうなんだ」
また同じことを言った。
「では、失礼します」
女の人が頭を下げる。
「朝早くに申し訳ありませんでした」
「気を付けてね」
「はい」
急いで戻っていった。
サラが扉を閉める。
「大変そうだったね」
「うん」
「朝から走ってきたみたい」
「うん」
短い。
「畑行かないの?」
「行くよ」
サラが籠を持つ。
でも、すぐには出なかった。
「おばさん」
「何?」
「ニコって、仕事できるんだね」
「できるんじゃない?」
補佐になっているくらいだから。
「ふうん」
「知らなかった?」
「知ってたけど」
なら何だ。
サラは少し考えてから外へ出た。
よく分からない。
畑のことでも考えているのだろう。
夕方。
ニコが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
今日はいつもより少し早い。
サラも畑から戻っていた。
ニコが鞄を置く。
「朝、女の人来たよ」
サラがすぐに言った。
「ああ」
ニコは驚かなかった。
「会った?」
「代官府に戻ってきたところで」
「書類、大丈夫だった?」
「直した」
それで終わりらしい。
サラはニコを見る。
「一緒に働いてる人?」
「うん」
「よく一緒に仕事するの?」
「するよ」
「ふうん」
ニコがサラを見る。
「何?」
「何でもない」
昨日のニコみたいだ。
いや。
数日前だった。
「名前、何ていうの?」
「リーナ」
名前まで聞くのか。
「仲いいの?」
「普通」
「普通?」
「仕事ではよく話すけど」
「ふうん」
今日三回目だ。
ニコが少し考える。
「リーナさんが何か言ってた?」
「ニコさんにはいつも助けてもらってますって」
少し真似した。
「そう」
「昨日も遅くまで一緒だったって」
「他にもいたけど」
「そうなの?」
「うん」
サラが少しだけ明るくなった。
気がする。
何だ。
ニコが続ける。
「リーナさん、子供が小さいから普段は早く帰るんだけどね」
「子供?」
「五歳だったかな」
サラが止まった。
「結婚してるの?」
「してるよ」
「そうなんだ」
「旦那さんも代官府にいる」
「へえ」
四回目。
でも。
今度の「へえ」は少し違った。
何が違うのかは分からない。
サラが台所へ行く。
さっきより足取りが軽い。
気がする。
「ニコ」
「何?」
「あの子、今日ちょっと変じゃない?」
ニコが台所の方を見る。
「分からない」
「そう」
ならいいか。
サラは二十歳だ。
ニコも二十歳。
私が何でも分かる必要はない。
台所からサラの声がした。
「ニコ、カルト芋食べる?」
「食べる」
いつも通りだった。
多分。




