第47章 ①
二年経った。私はまだまだ元気だ。
特に変わったところはない。
強いて言えば、作りかけのレースが増えた。
一つ終わる前に、別のものを作りたくなる。
仕方ない。
サラは二十歳になった。
ニコも二十歳。
ルークは二十二歳。
三人とも大人になった。
サラは相変わらず畑にいる。
前より任されることが増えた。
土を耕すのも、水を通すのも早い。
魔法を使えば、普通なら何日もかかる仕事があっという間に終わる。
だからといって、何でも魔法で済ませるわけではない。
種を蒔く。
芽を見る。
虫を取る。
収穫する。
そういうところは普通だ。
本人がやりたいらしい。
代官府でニコは働き始めた。
学校を卒業して少し経った頃、仕事をどうするのか聞いたことがある。
「代官府にする」
「そうなの?」
「うん」
「何かやりたい仕事あった?」
「家から通えるから」
らしい。
近いし毎日帰ってこられる。
給金も悪くない。
学校で習ったことも使える。
本人がいいなら、それでいい。
最初は書類を整理したり、記録を確認したりしていたらしい。
詳しくは知らない。
仕事のことを毎日聞くほど暇ではない。
ニコも全部は話さない。
ただ、時々帰ってきて、
「昔の記録って、何であんなに書き方が違うんだろう」
とか、
「同じものなのに部署によって名前が違う」
とか言っていた。
知らない。
私に言われても困る。
そのうち、代官に直接呼ばれることが増えた。
今は代官付きの補佐をしている。
二十歳で。
早い気もする。
でも、学校ではずっと首席だった。
頭はいい。
使っているならいい。
なるべく正しい道に。
あのお守りの裏に彫った字を思い出す。
本人が覚えているかは知らない。
聞かない。
ルークも変わった。
冒険者として中級になった。
魔法だけなら、とっくにそれ以上の実力がある。
でも、冒険者の仕事は魔法だけではないらしい。
依頼を受ける。
準備をする。
野営をする。
危ない場所を見分ける。
帰るか進むか決める。
依頼人と話す。
報告する。
色々ある。
最初は一人で薬草を採りに行っていた子が、今では何日も家を空ける仕事をするようになった。
そして最近。
仲間ができた。
三人で組むことにしたらしい。
固定の仲間。
二人とも男だと聞いた。
それ以上は知らない。
名前も聞いた気がする。
忘れた。
会えば覚える。
今日、その二人が家に来る。
「おばさん」
ルークが帰ってきた。
声の後に、知らない男の声が二つ聞こえた。
来たらしい。
玄関へ行く。
ルークの後ろに二人いた。
一人はルークより少し背が高い。
体も大きい。
もう一人は細身で、腰に短い剣を下げている。
二人ともルークより少し年上に見えた。
「仲間」
説明が短い。
「分かるよ」
知らない男二人を連れてきて、仲間じゃなかったら困る。
「いつもルークがお世話になってます」
頭を下げる。
二人が一瞬、顔を見合わせた。
何だ。
「こちらこそ」
大きい方が答えた。
「ルークから話は聞いてます」
細い方も言った。
「おばさんのこと」
何を聞いた。
少し気になる。
でも、聞かないことにした。
「入って。お茶くらい出すから」
二人を中へ通す。
ニコはまだ仕事から帰っていない。
サラは畑。
イナは庭で寝ている。
静かなうちにお茶を出す。
ルークたちは仕事の話をしていた。
次に受ける依頼。
必要な道具。
何日かかるか。
私にはよく分からない。
分からないので、口を出さない。
しばらくすると、外から足音がした。
「おばさーん」
サラだ。
扉が開く。
「今日、豆いっぱい採れ――」
止まった。
知らない人がいたからだろう。
サラは籠を抱えたまま、二人を見る。
「お客さん?」
「ルークの仲間」
「ああ!」
すぐに笑った。
「初めまして。サラです」
二人がサラを見る。
大きい方がルークを見る。
細い方もルークを見る。
「妹?」
「そう」
「へえ」
何だ。
二人とも、もう一度サラを見る。
サラは気にしていない。
「ご飯食べてく?」
「サラ」
「何?」
「まだ夕方前」
「じゃあ、夕飯までいればいいじゃん」
そういう問題だろうか。
その時玄関が開いた。
「ただいま」
ニコだった。
「おかえり」
「ただいま」
部屋へ入ってくる。
知らない二人を見る。
ルークを見る。
サラを見る。
また二人を見る。
「ルークの仲間?」
「そう」
「初めまして」
ニコが挨拶する。
二人も返す。
普通だ。
ただ。
ニコが鞄を置いて、本を一冊出した。
いつもの椅子に座る。
本を開く。
しばらくして、私は気付いた。
ページが変わっていない。
珍しい。
「ニコ」
「何?」
「疲れた?」
「別に」
ならいい。
私はお茶を飲んだ。
今日は少し人数が多い。
夕飯、足りるだろうか。
そっちの方が大事だった。




