第46章 ⑩
十日後。
鍛冶屋へ行く。
頼んでいたものは、ちゃんと八つ出来ていた。
「確認してください」
布の上に並べられる。
五百円玉を囲む金属の枠。
前に作ったものより細かい装飾が入っている。
でも、派手ではない。
五百円玉もちゃんと見える。
一つ取る。
裏返す。
仁。
「いいね」
文字もちゃんと読める。
私が書いたものより綺麗かもしれない。
「こっちの文字は初めて彫りましたよ」
「大変だった?」
「少し。でも面白かったです」
残りも見る。
信。
和。
優。
誠。
義。
愛。
道。
全部ある。
間違っていない。
「ありがとう」
代金を払って、持って帰る。
家へ着いてから、八本の紐を出した。
どれが誰のものかは決まっている。
仁にオレンジ。
義に青。
愛に赤。
道に紺。
信に緑。
和に薄い緑。
優に黄色。
誠に茶色。
一つずつ付ける。
並べる。
出来た。
「おばさん!」
サラが来た。
見つかった。
「出来たの?」
「出来たよ」
赤い紐のものを探す。
すぐ見つけたらしい。
「これ!」
「まだ触らない」
「何で?」
「みんな揃ってから」
「見るだけ」
「触ってるでしょ」
手を離した。
素直。
その日の夕方。
カイル達も呼んだ。
カイルは奥さんと一緒。
ミラも旦那さんと一緒。
ルークは仕事から戻っている。
ニコもいる。
八人。
揃った。
テーブルの上に、お守りを並べる。
「何これ?」
カイルが最初に聞いた。
「お守り」
「また?」
「また」
「俺、持ってるぞ」
「知ってる」
カイルが服の中から革紐を引っ張った。
先に付いている。
昔の百円玉。
「まだ持ってたの?」
「お守りだろ?」
そうだけど。
隣でミラも出した。
「私もあるよ」
「私も!」
サラまで出す。
ルークも黙って首元から引き出した。
ある。
ニコも。
ある。
何でみんな持ってるんだ。
いや。
お守りだから持っているのか。
「新しいのは、古いのを捨てろってことじゃないからね」
「捨てないよ」
サラがすぐ言った。
「二つ持つ」
「重くない?」
「大丈夫」
ならいい。
「はい」
一つずつ渡す。
最初はカイル。
緑。
「これ、前のより重いな」
「五百円だから」
「金額上がった?」
「上がった」
「出世したな、俺」
「全員五百円」
「全員か」
少し残念そうな顔をするな。
奥さんには薄い緑。
ミラは黄色。
旦那さんは茶色。
ルークは青。
サラは赤。
ニコは紺。
最後に私。
オレンジ。
「おばさんのもあるんだ」
サラが言う。
「あるよ」
「自分で作ったの?」
「そう」
「自分のお守り?」
「そう」
何かおかしいだろうか。
サラは少し考えていたけど、それ以上は言わなかった。
カイルが五百円玉をひっくり返す。
「何か書いてある」
気付いた。
「俺の、これ何?」
「信」
「しん?」
「信用の信」
カイルが一度黙った。
それから、お守りを見る。
「商人だから?」
「それもある」
「他は?」
「色々」
「適当だな」
「一文字で全部説明出来るわけないでしょ」
「まあな」
でも。
少し嬉しそうだった。
奥さんの和。
ミラの優。
旦那さんの誠。
一つずつ意味を話す。
「おばさん」
ミラが黄色い紐を持ったまま聞く。
「優って、優しい?」
「そう」
「私が?」
「そう」
ミラが笑った。
「じゃあ、大事にする」
「お守りなんだから大事にして」
ルークは自分から聞かなかった。
裏の義を見ている。
「義」
私が言う。
「守るものを守る、とか。正しいと思うことをする、とか」
「うん」
それだけ。
多分、ルークにはそれで分かる。
サラはもう聞く前から待っている。
「私は?」
「愛」
「愛情?」
「そう」
「何で?」
「多いから」
「何が?」
「愛情」
サラが笑った。
「いいでしょ?」
「いいよ」
多すぎる時もあるけど。
それは言わない。
ニコは知っている。
紺のお守りを裏返す。
道。
「これ、出来たんだ」
「出来たね」
「なるべく正しい道」
「そう」
「難しいやつ」
「頭使って」
「分かってる」
本当に分かっているかは知らない。
でも。
考えるなら、それでいい。
最後にサラが私のものを覗き込む。
「おばさんのは?」
「仁」
「じん?」
「人を大事にするとか」
「おばさんにぴったり」
「そう?」
「うん」
自分では分からない。
でも。
サラがそう言うなら。
まあいい。
八人。
八つ。
昔は百円玉だった。
今は五百円玉。
昔のものも、まだある。
新しいものも増えた。
どっちかを選ぶ必要はない。
両方あればいい。
私はオレンジの紐を指に掛けた。
少し歪んでいる。
最初に作ったから。
でも丈夫。
使うには問題ない。
「おばさん、それどこに付けるの?」
サラが聞く。
「鞄かな」
「なくさないでね」
「お守りを?」
「うん」
「サラもね」
「なくさないよ」
多分。
この子達なら。
昔の百円玉をまだ持っているくらいだから。
大丈夫だろう。
新しいお守りが八つ。
また家族の持ち物が一つ増えた。
悪くない。




