第46章 ⑨
枠が出来るまで十日。
その間に、紐を作る。
家へ戻る前に、もう一軒寄った。
木工の店。
「これと同じものを、もう一つ作ってほしいんだけど」
家から持ってきたリリアンを見せる。
サラが使っているもの。
丸い木。
真ん中に穴。
周りに六本の針。
「同じ大きさで?」
「少し小さめで」
「針も六本?」
「六本」
難しいものではないらしい。
二日で出来ると言われた。
今度は糸を買う。
八人分。
何色にするか。
自分は決まっている。
オレンジ。
これは迷わない。
ルークは青。
サラは赤。
カイルは緑。
ミラは黄色。
ニコは紺。
残り二人。
カイルの奥さんと、ミラの旦那さん。
本人に聞こうかとも思ったけど。
やめた。
聞いたら何を作るか聞かれる。
別に秘密ではない。
でも、出来てから渡したい。
カイルの奥さんは薄い緑。
カイルと少し似た色。
ミラの旦那さんは茶色。
仕事でも使いやすそうだから。
糸を買って帰った。
二日後、新しいリリアンが出来た。
サラのものと並べる。
一回り小さい。
「おばさんも作るの?」
サラが覗き込む。
「作る」
「何を?」
「紐」
「私が作ろうか?」
「これは私が作る」
「何で?」
「作りたいから」
「そっか」
納得した。
早い。
サラは自分のリリアンを持って、向かいに座った。
「じゃあ、私も作る」
何を作るのかは知らない。
でも楽しそうなので放っておく。
私は新しい方を手に取る。
六本。
全部は使わない。
一つ飛ばし。
三本。
昔、見たことがある。
普通とは少し違う編み方。
細い糸だけなら、それほど難しくない。
問題は。
「これ」
細い金属の糸。
糸というより、細い線。
柔らかいものを探してもらった。
曲がる。
でも、簡単には切れない。
これを糸と一緒に掛ける。
多分丈夫になる。
「おばさん、それ何?」
サラが見ている。
「補強」
「入れるの?」
「入れてみる」
「大丈夫?」
「分からない」
「分からないの?」
「やったことないから」
サラが少し心配そうな顔をした。
「失敗したら?」
「やり直す」
それだけだ。
最初は自分の分。
オレンジ。
失敗しても困らない。
糸と細い金属を揃える。
三本の針に掛ける。
一つ。
飛ばす。
一つ。
飛ばす。
一つ。
昔見たやり方を思い出しながら、動かす。
最初は遅い。
金属が少し引っ掛かる。
戻す。
やり直す。
また進める。
真ん中の穴から、少しずつ紐が出てきた。
「出来てる」
サラが言う。
「まだ分からない」
もう少し。
少し長くなったところで止める。
引っ張る。
思ったより丈夫。
曲げる。
ちゃんと曲がる。
「いけそう」
「貸して」
サラが引っ張る。
「強い」
「でしょ」
「私のより強い」
「金属入ってるからね」
問題は重さ。
持ってみる。
それほどでもない。
五百円玉の方が重い。
これなら大丈夫そうだ。
そのまま続ける。
オレンジ。
一本目。
長さを決める。
首から下げるものではない。
鞄。
腰。
小物入れ。
好きなところに付けられるくらい。
昔のものより少し長くする。
出来た。
「一本」
テーブルへ置く。
サラが見る。
「綺麗」
「最初にしてはね」
少し歪んでいるところがある。
自分のだからいい。
次。
青。
ルーク。
三本目。
赤。
サラ。
「それ私?」
「まだ言ってない」
「赤だもん」
ばれた。
「私の?」
「そう」
サラが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、これ何?」
「お守り」
「新しいの?」
「うん」
「前のも持ってるよ」
「それはそのまま持ってな」
「うん」
古いものは古いもの。
新しいものは新しいもの。
どちらかを捨てる必要はない。
「ニコのは?」
「紺」
「何で?」
「何となく」
「私が決めてもいい?」
「もう買った」
「そっか」
諦めるのも早い。
四本目。
緑。
カイル。
五本目。
黄色。
ミラ。
六本目。
薄い緑。
カイルの奥さん。
七本目。
茶色。
ミラの旦那さん。
最後。
紺。
ニコ。
八本並べる。
オレンジ。
青。
赤。
緑。
黄色。
薄い緑。
茶色。
紺。
少しずつ長さが違う。
太さも。
最初のオレンジだけ、少し歪んでいる。
でも味があるし全部丈夫だ。
「出来た?」
サラが聞く。
「出来た」
「八本」
「八人だからね」
サラが一本ずつ見る。
「おばさんのは?」
「オレンジ」
「やっぱり」
「何が?」
「おばさん、オレンジ好きだもん」
そうだった。
昔から何となく選ぶ。
気付けばオレンジ。
サラが赤い紐を触る。
「枠は?」
「あと何日か」
「楽しみ」
「自分のだけでしょ」
「みんなのも」
そういうところ。
だから愛。
八本の紐をまとめる。
枠が出来たら。
あとは通すだけ。
昔は、あるもので作った。
百円玉。
簡単な枠。
革紐。
それでも十分だった。
今は。
五百円玉。
ちゃんとした枠。
自分で作った紐。
少しだけ。
出来ることが増えた。
お金も。
時間も。
家族も。
増えた。
悪くない。




