第46章 ⑥
「王様はいないよ」
ニコが止まった。
「いない?」
「いない」
「じゃあ、誰が国を治めるの?」
来た。難しいやつ。
「みんなで選ぶ」
「誰を?」
「国を動かす人」
「誰が選ぶの?」
「国民」
ニコが黙った。
「国民が?」
「そう」
「貴族じゃなくて?」
「貴族もいない」
また黙った。
今日はよく黙る。
「じゃあ、身分は?」
「あるような、ないような」
「どっち?」
「法律では、みんな同じ」
「王族も貴族もいなくて、国民が国を動かす人を選ぶ」
「そう」
「どうやって?」
「投票」
「投票?」
「この人がいいって、票を入れるの」
「一番多かった人が国を治める?」
「そういうのもある」
「そういうの?」
まずい。
細かくなると分からない。
「国によって違うんだよ」
「おばさんの国は?」
「……色々選ぶ」
「色々?」
「政治に詳しくないの」
先に言っておく。
ニコが笑った。
「おばさんの国なのに?」
「住んでるだけで全部分かるわけないでしょ」
こっちの国の仕組みだって、全部は知らない。
王様がいる。
貴族がいる。
税金がある。
そのくらいだ。
「でも、選んでたんでしょ?」
「選挙には行ってたよ」
「おばさんも?」
「行くよ」
「誰を選ぶか決めるの?」
「決める」
「どうやって?」
また難しい。
「話を聞いたり」
「うん」
「何をするって言ってるか見たり」
「うん」
「今まで何をしたか見たり」
「うん」
「あと」
何だろう。
「変なこと言ってないかとか」
ニコが笑った。
「大事なの?」
「大事でしょ」
国を任せるのだから。
「選んだ人が悪いことをしたら?」
「捕まることもある」
「辞めさせられる?」
「ある」
「国民が?」
「直接じゃない時もある」
「じゃあ誰が?」
「……だから、政治に詳しくないって」
「分かった」
分かってない顔だった。
絶対、まだ聞きたい。
ニコが少し考える。
「でも」
「うん」
「選ばれた人には力があるんだよね?」
「あるね」
「王様ほどじゃなくても」
「そうだね」
「その力を、自分のために使う人はいないの?」
「いるよ」
即答した。
ニコが瞬きをした。
「いるんだ」
「人だからね」
王様がいなくても。
貴族がいなくても。
仕組みが違っても。
人は人だ。
「じゃあ、何が違うの?」
「何が?」
「王様や貴族がいる国と」
困った。
そんな難しいことを私に聞かないでほしい。
「世襲ではなく選べることかな」
「選べる」
「この人に任せたいって選べる。駄目だったら、次は違う人を選べる」
「絶対に変えられる?」
「絶対ではないと思う」
「じゃあ同じ?」
「同じじゃないと思うけど」
多分。
ニコが考える。
私は五百円玉を一枚ずつ缶の横へ寄せた。
お守り。
こっちの方が簡単だ。
「おばさんは」
ニコが言った。
「力を持ってる人は、どうすればいいと思う?」
今度は答えられた。
「持ってない人を助ければいいんじゃない?」
ニコが私を見る。
「力があるなら?」
「使えばいい」
お金がある。
地位がある。
頭がいい。
人を動かせる。
出来ることがある。
なら。
出来ない人の分まで、少しくらいやればいい。
「持つものは、持たざるものを助く」
昔から、そんな言い方があった気がする。
ニコが繰り返す。
「持つものは、持たざるものを助く」
「うん」
「それも、おばさんの国の教え?」
「違う」
「違うの?」
「これは私の教え」
ニコが黙った。
私は五百円玉を一枚取る。
ニコの分。
十八歳。
もう子供ではない。
でも私から見れば、まだ子供だ。
「持ってるから偉いんじゃないよ」
ニコを見る。
「持ってるなら、使いなさい」
「誰かのために?」
「自分のためにもね」
全部人にやれとは言っていない。
そんなことをしたら、自分が困る。
「自分の分をちゃんと持って。それでも余るなら、持ってない人に少し分ける」
「お金だけ?」
「何でも」
力でも。
知識でも。
立場でも。
ニコはしばらく何も言わなかった。
それから、私の手の中の五百円玉を見る。
「分かった」
「本当に?」
「多分」
私の真似をした。
「そこは多分じゃなくていいの」
「おばさんが言う?」
言う。
そこだけは。
多分じゃない。




