第46章 ⑤
「買ったもの」
ニコが、少しだけ身を乗り出した。
「じゃあ、何で僕達を乗せてたの?」
「歩くの遅かったから」
「カートは買ったものを運ぶんでしょ?」
「別に買ったものしか乗せちゃ駄目なわけじゃないよ」
子供を乗せるところが付いているものもあった。
あれは違ったけど。
「お店に持っていくの?」
「違う。店にあるの」
「店に?」
「入口の辺りにいっぱい置いてある」
ニコが黙った。
多分、想像している。
「それを借りるの?」
「買い物してる間だけね」
「何のために?」
「いっぱい買うため」
「いっぱい?」
「うん」
私は考える。
何から説明すればいいんだろう。
普通にやっていたことだから、説明する方が難しい。
「店に入るでしょ」
「うん」
「カート取るでしょ」
「うん」
「欲しいものを入れる」
「誰に頼むの?」
「誰にも」
ニコの眉が少し動いた。
「勝手に取るの?」
「売ってるものだからね」
「店の人が出してくれるんじゃなくて?」
「自分で取る」
「どこから?」
「棚」
「棚?」
「商品がいっぱい並んでるの」
ニコが本を脇へ置いた。
もう読む気はないらしい。
「食べ物も?」
「ある」
「服も?」
「店による」
「薬は?」
「それも店による」
「本は?」
「本屋」
「全部同じ店じゃないんだ」
「大きいところなら色々あるけどね」
業務スーパーは服も本もなかった。
食べ物はいっぱいあった。
量も多かった。
「値段は?」
「書いてある」
「どこに?」
「商品のところ」
ニコが止まった。
「全部?」
「大体」
「一つずつ聞かなくていいの?」
「聞かないね」
「値段を交渉もしない?」
「普通の店ではしない」
「誰が買っても同じ値段?」
「基本はね」
ニコが考え込んだ。
何か変なことを言っただろうか。
「それなら」
ニコが言う。
「店の人が一人ずつ相手をしなくていいね」
「そうだね」
「客が自分で選んで、自分で運ぶ」
「うん」
「値段も最初から分かる」
「うん」
「最後は?」
「払う」
「どこで?」
「レジ」
「レジ?」
また知らない言葉だった。
「会計するところ」
「そこに店の人がいる?」
「いる」
今は機械だけのところもあったけど。
説明が面倒なのでやめる。
「そこでカートの中を全部?」
「そう」
「一つずつ?」
「そう」
「大変じゃない?」
「慣れてるから」
ニコがまた黙る。
今度は長い。
「何?」
「いや」
テーブルの上の五百円玉を一枚取る。
表を見る。
裏を見る。
「おばさんの国の店って、客が働いてるんだね」
「え?」
「商品を探して、選んで、運ぶところまで自分でするんでしょ?」
「ああ」
言われてみれば。
「そうかも」
「その分、店の人は商品を並べたり、会計したりできる」
「そうだね」
「たくさんの客を相手にできる」
「できるね」
ニコの目が変わってきた。
これは多分考えている。
「カイルに教えたら?」
「やめて」
「何で?」
「店を改造し始めそうだから」
「すると思う」
やっぱり。
今でもボキを使っている。
店も増えた。
これ以上、何か教えると面倒なことになりそうだ。
「でも便利だよ」
「客が勝手に商品を持って歩くんだよ?」
「最後に払うから」
「持って帰る人はいないの?」
「いるよ」
「いるんだ」
「捕まるよ」
ニコが笑った。
「完璧じゃないんだね」
「そんなものないでしょ」
「おばさんの国でも?」
「ないよ」
そこは同じだ。
人がいる。
良い人もいる。
悪い人もいる。
真面目な人もいる。
ずるい人もいる。
遠くても。
そこは多分、変わらない。
ニコが五百円玉を置いた。
「他には?」
「何が?」
「おばさんの国の話」
「まだ聞くの?」
「聞く」
即答だった。
「何が知りたい?」
ニコは少し考えた。
「店じゃなくて」
「うん」
「国」
今度は私が黙った。
国か。
それは店より説明が難しい。
「王様はいないよ」
とりあえず。
そこから話すことにした。




