第46章 ④
丈夫な紐を見ていて、思い出した。
お守り。
昔、子供達に作った。
百円玉に枠をつけてもらって、紐を通したもの。
あの頃は、こっちのお金をほとんど持っていなかった。
だから枠も簡単なものだった。
その後、家を出る時には五十円玉。
穴が開いているから、革紐を通しただけ。
簡単。
でも、あれはあれで良かった。
今はみんな大きくなった。
家族も増えた。
「作り直すか」
「何を?」
向かいで本を読んでいたニコが顔を上げた。
「お守り」
「また?」
「またって何」
「僕も持ってるから」
「そうだった」
カイル達が一緒に暮らすことになった時。
子供達が家をでる時。
その時に作って渡した。
まだ持っているらしい。
私は立ち上がった。
棚の奥。
さらに奥。
箱を一つ出す。
その下。
缶。
久しぶりに持った。
重い。
振る。
じゃらじゃら。
「何、それ」
「お金」
「この国のじゃないよね」
「うん」
蓋を開ける。
テーブルの上へ出した。
じゃらじゃら。
一円。
五円。
十円。
五十円。
百円。
五百円。
多いのは小さいお金。
昔、小銭が貯まる度に入れていた。
いっぱいになったら郵便局へ持っていこうと思っていた。
結局、持っていけなかった。
「五百円、何枚あるかな」
小銭の中から拾う。
一枚。
二枚。
三枚。
今度は五百円玉にしよう。
百円玉より大きい。
少し重い。
でも、みんなもう大人だ。
大丈夫だろう。
カイル。
カイルの奥さん。
ミラ。
ミラの旦那さん。
ルーク。
サラ。
ニコ。
私。
一枚ずつ横へ並べる。
まだある。
「足りた」
良かった。
孫達は百円玉でいい。
まだ小さい。
昔、みんなに作ったのも百円玉だった。
大きくなったら、その時また考えればいい。
「僕のも五百円?」
「十八歳だからね」
「年齢で決まるの?」
「今決めた」
ニコが笑った。
私は五百円玉を並べ直す。
今回は枠も少しちゃんとしたものにしよう。
前はお金がなかった。
今はある。
錆びにくい金属で、少し凝った枠。
紐も革じゃない。
自分で作る。
そのために、リリアンももう一つ作ってもらおう。
六本針のもの。
サラが使っているものと同じ。
ただし、少し編み方を変える。
全部を同じようには使わない。
一つ飛ばし。
三本。
そこへ細い金属を一緒に掛ける。
糸だけより丈夫になる筈だ。
昔見たやり方だから、やってみないと分からない。
「色も変えるかな」
自分のはオレンジ。
これは決まり。
他は本人に聞いてもいい。
聞かなくてもいいか。
迷う。
五百円玉を一枚持ち上げる。
表。
裏。
また表。
その時。
「ねえ、おばさん」
「何?」
ニコだった。
本を開いたまま、こっちを見ている。
さっきから読んでいない。
視線は私の手。
五百円玉。
「前から気になってたんだけど」
「うん」
ニコが少しだけ間を置いた。
「それ、おばさんの国のお金?」
手が止まった。
五百円玉を見る。
もう一度、ニコを見る。
十八歳。
三歳だった子が。
いつの間にか、こんなことを聞くようになった。
「そうだよ」
答える。
ニコの目が少し動いた。
「やっぱり」
「気付いてたの?」
「僕が持ってるのも、ここのお金じゃないから」
「ああ」
そうだった。
渡したのは私だ。
そりゃ気付く。
ニコが本を閉じた。
「おばさんの国って」
五百円玉を指す。
「どんなところ?」
私は手の中の硬貨を見る。
どんなところ。
急に聞かれると難しい。
「遠いところ」
「それは知ってる」
「すごく遠い」
「それも聞いた」
駄目だった。
ニコが待っている。
私はテーブルの上の小銭を見る。
一円。
五円。
十円。
百円。
五百円。
ずっと缶の中に入っていた。
こっちでは使えない。
使う場所もない。
でも話すくらいなら。
「そうだねえ」
椅子へ座り直す。
「何から話そうか」
ニコが少し考えた。
それから聞いた。
「そのお金、何に使ってたの?」
そこからか。
「買い物」
「何を?」
「色々」
「例えば?」
私は考える。
買い物。
店。
そういえば。
「カートっていうものがあるんだよ」
「知ってるよ」
「え?」
「僕達を乗せてたやつでしょ」
「……ああ」
そうだった。
昔。
あれに子供達を乗せた。
ニコも乗っていた。
「違うよ」
「何が?」
「あれ、子供を運ぶものじゃないから」
ニコが黙った。
「……じゃあ何を運ぶの?」
私は五百円玉をテーブルへ置いた。
「買ったもの」
ニコが、少しだけ身を乗り出した。




