第46章 ③
次の日。
起きて台所へ行く。
ニコがいた。
本を読んでいる。
「早いね」
「学校ではこの時間だったから」
「今日から学校ないよ」
「分かってる」
本を閉じない。
帰ってきたら、朝から本。
そこは変わらない。
サラも起きてきた。
ニコを見る。
「いる」
「いるよ」
「学校行かない?」
「卒業したからね」
「そっか」
昨日も卒業祝いをした。
まだ慣れていないらしい。
私も少し変な感じがする。
朝ご飯を食べる。
ニコがいる。
片付ける。
ニコがいる。
サラは畑へ行った。
ニコは本を読んでいる。
本当に帰ってきたらしい。
私は昨日話していたテーブルクロスを見る。
少し小さい。
やっぱり気になる。
縁をつけよう。
カーテン用に考えていた波模様。
五センチくらい。
長く編めばいい。
問題は。
どれくらい必要なのか。
テーブルの周りを測る。
かなり長い。
「面倒だね」
ニコが言った。
「聞こえてた?」
「声に出てたよ」
そうらしい。
糸を出す。
編み始める。
一段。
二段。
増やす。
また増やす。
減らす。
波になる。
これなら簡単だ。
長さだけ必要。
しばらく編んで。
止める。
これをずっと続ける。
まあ。
暇だからいい。
昼前。
サラが畑から戻ってきた。
手を洗う。
私の横へ来る。
「それ何?」
「縁」
「カーテンの?」
「テーブルクロスにつける」
「カーテンは?」
「その後」
サラがテーブルクロスを見る。
「大きくするんだ」
「ちょっと小さいからね」
「昨日はこれでいいって言ってた」
「昨日はね」
気が変わった。
サラは納得したらしい。
台所へ行こうとする。
「あ、サラ」
「何?」
「丈夫な紐作れる?」
止まった。
振り返る。
「作れる」
早い。
「どれくらい?」
両手を広げる。
「これくらい」
「何に使うの?」
「荷物」
最近。
物をまとめる紐が少し足りない。
普通の紐でもいい。
買えばある。
でも。
サラが作っている。
「太い方がいい?」
「少し太め」
「色は?」
色。
考えていなかった。
「何でもいいよ」
サラの顔が少し曇った。
何でもいいは駄目らしい。
「じゃあ茶色」
「茶色?」
「汚れても分かりにくいから」
「分かった」
急に嬉しそうになった。
自分の道具を持ってくる。
リリアン。
糸も何種類か。
「これと、これ」
「何本使うの?」
「いっぱい」
詳しくは決めていないらしい。
何本かまとめる。
棒に掛ける。
下から持ち上げる。
次。
次。
慣れている。
早い。
「上手くなったね」
「いっぱい作ったから」
確かに。
袋の中にまだ紐が入っている。
髪用。
何に使うのか分からないもの。
カイルの子供にあげるもの。
色も色々。
「これ、もっと丈夫にできる?」
「できるよ」
「どうやって?」
「糸増やす」
単純だった。
「太くなりすぎない?」
サラの手が止まる。
考える。
「細い糸にする」
なるほど。
自分で考えるようになっている。
最初は、ただ紐が出てくるのが面白くて作っていた。
今は。
使うものに合わせて糸を選んでいる。
「長さは?」
「さっきくらい」
「二本?」
「できれば三本」
「三本」
注文を覚える。
「いつまで?」
「急がないよ」
「今日作る」
「急がないって」
「作れるから」
そうですか。
サラが編み始める。
私は隣で縁を編む。
サラは紐。
私はレース。
向かいではニコが本。
静かだ。
時々。
糸を引く音。
紙をめくる音。
「おばさん」
「何?」
「これくらい?」
サラが途中の紐を見せる。
触る。
引っ張る。
「もう少し太くてもいいかな」
「分かった」
一本増えた。
しばらくして。
ニコが本から顔を上げた。
「何作ってるの?」
「紐」
サラが答える。
「それ、髪につけるやつじゃなかった?」
「これは違う」
「何用?」
「おばさん用」
少し得意そうだ。
私用らしい。
「注文された」
「仕事?」
「違う」
「売るの?」
「売らない」
「じゃあ何?」
サラが考える。
「おばさんが欲しいから作る」
それでいい。
ニコも納得したらしい。
また本へ戻った。
夕方。
一本できた。
サラが持ってくる。
「できた」
受け取る。
太さを見る。
引っ張る。
かなり丈夫だ。
「いいね」
「ほんと?」
「うん」
「使える?」
「使える」
サラが笑った。
最初に作った紐は。
髪を結ぶためだった。
次は色をつけた。
カイルの子供にも作った。
今度は荷物を結ぶ。
同じ道具。
同じ作り方。
でも。
使い道は増えた。
「あと二本作る」
「明日でもいいよ」
「今日もう一本」
「畑やったでしょ」
「終わった」
そうだった。
サラにとって畑は。
モグルで終わる。
また道具を持つ。
私は自分の縁を見る。
まだ短い。
かなり短い。
こっちは今日中には無理だ。
まあいい。
急いでいない。
隣ではサラの紐が伸びていく。
二年前。
五分でレースに飽きた子が。
今は私に頼まれた紐を作っている。
「サラ」
「何?」
「次、もう少し長いのもお願いしていい?」
手が止まった。
顔を上げる。
「いいよ!」
返事が早い。
嬉しいらしい。
私も助かる。
作りたい人がいて。
欲しい人がいる。
ちょうどいい。
私はまた針を動かした。




