第46章 ②
朝、いつもより少し早く目が覚めた。
今日はニコが帰ってくる。
卒業式は三日前に終わっている。
その日のうちに学校を出た。
馬車で三日。
順調なら、今日着く。
荷物の一部は先に届いていた。
箱がいくつか。
本。
本。
服。
本。
ほとんど本だった。
サラが一度、中を見て。
「増えてる」
と言った。
「学校だからね」
「本って増えるの?」
「ニコだから」
「そっか」
納得した。
朝食を作る。
いつも通り。
食べる。
片付ける。
その間に、サラが三回外を見た。
「まだ来ないよ」
「見てただけ」
「朝だからね」
「今日帰ってくる」
「今日と今は違うよ」
分かっているのだろうか。
畑へ行った。
今日は少し早い。
「モグルいっぱい」
土が動く。
終わる。
戻ってきた。
「まだ?」
「まだ」
「遅い」
「まだ朝だよ」
馬車で三日かかるところから帰ってくるのだ。
最後の日だけ早くなるわけではない。
昼前。
カイルが家族を連れてきた。
「まだ?」
「まだ」
「サラ、何回聞いた?」
「知らない」
ミラ夫婦も来た。
今日は店も仕事も早めに切り上げるらしい。
ルークは昨日のうちに帰っている。
依頼の日程を調整したらしい。
「夕方くらいだろ」
ルークが言う。
サラが見る。
「もっと早いかも」
「三日かかるんだぞ」
「ニコなら早い」
「ニコが馬車引いてるわけじゃないだろ」
そうだ。
昼ご飯を食べる。
ニコの分はない。
まだいないから。
サラが一人分多く皿を出して。
戻した。
「まだだった」
「うん」
午後。
私は明日の分の野菜を切る。
暇なので。
テーブルには、昨日完成したテーブルクロス。
やっぱり少し小さい。
ミラが端を見る。
「これ、もう少しあった方が綺麗じゃない?」
「やっぱり?」
「縁つけたら?」
「そうしようかな」
カーテンにつけるつもりだった波模様。
あれを長く編んで、周りにつけてもいい。
「完成したんじゃなかったの?」
サラが聞く。
「昨日は完成した」
「今日は?」
「ちょっと小さい」
「大きくする?」
「多分」
完成したけど。
増えるかもしれない。
別にいい。
自分のだから。
お茶を飲む。
サラが外を見る。
また見る。
しばらくして。
また見る。
「落ち着かないね」
カイルが言った。
「落ち着いてる」
「朝から何回外見た?」
「知らない」
私も知らない。
でも多い。
夕方が近くなる。
そろそろだろうか。
私も外を見る。
まだいない。
もう一度お茶を飲む。
少しして。
イナが立った。
耳が動く。
外を見る。
「どうした?」
尻尾が動いた。
サラも見る。
「来た?」
「まだ分からないよ」
でも遠くから音がした。
車輪。
馬。
道を進んでくる。
サラが立った。
「来た!」
「まだ見えてないよ」
「来た!」
外へ走っていった。
ルークも立つ。
カイルの子供達も追いかける。
結局。
みんな外へ出た。
私も出る。
道の向こうから馬車が来る。
近付く。
止まる。
扉が開いた。
最初に鞄が出てきた。
その後。
ニコが降りた。
背が伸びた。
制服を着ている。
十八歳。
サラがすぐ前まで行く。
「ニコ!」
「ただいま」
「遅い」
「予定通りだよ」
「遅い」
「三日で帰ってきたよ」
「今日の朝から待ってた」
「知らないよ」
そうだと思う。
ニコが笑った。
それから。
みんなを見る。
ルーク。
カイル。
ミラ。
それぞれの家族。
最後に私。
「ただいま」
私はニコを見る。
上から下まで。
怪我はない。
顔色もいい。
少し疲れているくらい。
三日馬車に乗っていたのだから当然だ。
「おかえり」
ニコが笑った。
「うん」
それだけ。
それでいい。
馬車から残りの荷物を降ろす。
箱。
鞄。
また箱。
「これ何?」
ルークが持ち上げる。
「本」
「重い」
「本だからね」
「先にも送ってただろ」
「全部は送れなかった」
まだあるらしい。
ニコだった。
家へ入る。
「お腹空いた?」
「空いた」
「ご飯もう少し待って」
「うん」
「カルト芋ならあるよ」
ニコの顔が変わった。
「食べる」
十八歳でも。
そこは変わらないらしい。
サラがすぐ台所へ行く。
皿に二つ乗せる。
持ってくる。
イナが立った。
サラが止まる。
「駄目」
イナを見る。
「ニコの」
尻尾が動く。
ニコが笑った。
「まだやってるの?」
「守ってる」
「何から?」
「イナ」
昔と同じだ。
三歳のニコ。
三歳のサラ。
カルト芋。
イナ。
十八歳になっても。
あまり変わらない。
ニコが一つ取る。
食べる。
遅い。
相変わらず遅い。
「美味しい?」
「うん」
それならいい。
夕食にする。
昨日完成したテーブルクロスの上に、料理を並べる。
シチュー。
パン。
野菜。
肉。
カルト芋。
皿が多い。
家族も多い。
料理を置いてしまえば、テーブルクロスが少し小さいことはあまり気にならなかった。
ニコが気付く。
「これ、新しい?」
「昨日できた」
「作ったの?」
「二年かかった」
「二年?」
花を見る。
葉っぱを見る。
じっと見る。
嫌な予感がする。
指が止まった。
「ここだけ花びら大きくない?」
やっぱり。
「ご飯減らすよ」
「何で!?」
「そこ気付いたから」
「駄目だよ」
サラが止める。
「カルト芋だけ減らす」
「もっと駄目!」
カイルが笑った。
ミラも笑う。
ルークまで笑っている。
ニコだけ納得していない。
「間違えたんだよ」
「直さなかったの?」
「面倒だった」
「二年かけたのに?」
「二年かけたからだよ」
今さら戻れるか。
ニコがもう一度見る。
「でも、いいと思う」
「そう?」
「うん」
花びらを指す。
「おばさんが作ったって分かる」
どういう意味だ。
「それ褒めてる?」
「褒めてるよ」
怪しい。
でもまあいい。
今日は卒業祝い。
それから。
ニコが帰ってきた日。
学校を出て。
三日かけて。
帰ってきた。
伯爵家ではない。
他のどこでもない。
ここへ。
これから何をするのか。
どこで働くのか。
その先どうするのか。
今日は聞かない。
ニコが自分で考えればいい。
今は。
「おかわりいる?」
「いる」
「カルト芋?」
「それも」
「一個ね」
「二個」
「食べすぎ」
「三日かかったから」
「関係ないよ」
みんなが笑う。
家族が揃った。
久しぶりに。
今日は。
それで十分だった。




