第46章 ①
最後の一目を編む。
糸を引く。
少しだけ形を整える。
それから。
糸を切った。
「……できた」
手を止める。
終わった。
長かった。
二年。
毎日編んでいたわけではない。
途中で飽きた。
違うものも作った。
サラにリリアンを教えたり。
ミラのところへ行ったり。
カイルにそろばんを教えたり。
温泉の掃除もした。
畑も見た。
ご飯も作った。
ルークが帰ってくれば、話もした。
普通に暮らしていた。
その合間に。
少しずつ。
一段。
また一段。
編んだ。
ようやく。
「間に合った……」
良かった。
テーブルの上に広げてみる。
大きい。
最初に思っていたより、大きくなった。
端が少し余る。
でも。
それくらいでいい。
花が並んでいる。
葉っぱ。
茎。
また花。
二年前に紙へ描いたものとは、少し違う。
途中で変えたところもある。
間違えたところもある。
一か所。
数を間違えて、花びらが少し太い。
気付いた時には、かなり先まで編んでいた。
ほどくのが面倒だった。
だから、そのまま。
離れて見れば分からない。
多分。
「できた?」
サラが来た。
「できた」
テーブルを見る。
目が大きくなった。
「全部?」
「全部」
端を持つ。
反対側へ行く。
広げる。
「大きい」
「テーブルクロスだからね」
「長かったね」
「長かった」
本当に。
二年もかかった。
「間に合ったね」
「うん」
サラも分かっている。
明日だから。
今日できなかったら、少し困った。
別に明後日でもいい。
その次でもいい。
でも。
できれば明日に間に合わせたかった。
「これ、明日使う?」
「そのために頑張った」
最後の方だけ。
少し。
いつもより多く編んだ。
サラが花を指で触る。
「ここ大きい」
見つかった。
「間違えた」
「直さないの?」
「面倒だった」
「売るなら?」
「直す」
「これは?」
「うちのだからいいの」
サラが頷く。
分かっている。
家で使うものだ。
少しくらい間違っていても困らない。
「ニコ、気付くかな」
「気付かないんじゃない?」
「ニコだよ?」
あ。
気付くかもしれない。
細かいところを見る。
本もよく読む。
数字も覚えている。
「気付いても言わないでしょ」
「言うかも」
「言ったらご飯減らす」
「駄目だよ」
冗談だ。
多分。
サラが笑う。
私はもう一度テーブルクロスを見る。
間に合った。
明日。
ニコが学校を卒業して、家へ帰ってくる。
十八歳。
長かった学校生活も終わる。
学校へ入った頃は、まだ小さかった。
本ばかり読んでいた。
今も読むらしい。
首席も。
最後まで譲らなかった。
明日からは。
ここで暮らす。
少なくとも、次に何をするか決めるまでは。
帰ってくる場所は。
ここだ。
「何作る?」
サラが聞いた。
「何が?」
「次」
テーブルクロスを見る。
完成した。
二年かかった。
さすがに。
「大きいのは、しばらくいい」
「じゃあ何?」
部屋を見る。
窓。
カーテン。
少し寂しい。
「カーテンの下につけるやつ」
「レース?」
「うん」
「全部?」
窓を見る。
一つ。
二つ。
向こうにもある。
「全部」
サラも窓を見る。
「いっぱいあるよ?」
「あるね」
「時間かかるよ?」
「大丈夫」
急ぐものでもない。
五センチくらいの幅でいい。
波みたいな模様。
長く編んで。
縫いつける。
一つの窓が終わったら、次。
それなら大きな一枚を編むより飽きないかもしれない。
「いつから作る?」
「明後日かな」
「明日は?」
「ニコ帰ってくるでしょ」
「あ、そっか」
忘れないでほしい。
明日は少し忙しい。
ご飯も作る。
カルト芋も用意してある。
イナには気をつける。
昔から変わらない。
「今日は?」
「もう編まない」
「暇じゃないの?」
「暇だよ」
「じゃあ何する?」
考える。
完成したテーブルクロスを見る。
明日の準備は、大体終わっている。
「お茶飲もうか」
「うん」
サラがお茶を入れに行く。
私は椅子に座った。
真新しいテーブルクロスの上に、湯呑みを二つ置く。
完成した。
間に合った。
そして。
次に作るものも決まった。
まだしばらく。
暇つぶしには困らなそうだ。




