第45章 ③
数日後。
またミラの家へ行った。
今度は糸を多めに持っていく。
ミラは練習していた。
机の上に、小さな丸いレースが三枚。
一枚目。
少し歪んでいる。
二枚目。
丸い。
三枚目。
少し大きい。
「できた」
「大きさ違うね」
「分かってる」
ミラがむっとした。
「同じように編んだのに」
「力加減かな」
糸を強く引けば小さくなる。
緩ければ大きくなる。
目の大きさも変わる。
「もう一回」
「また?」
「同じ大きさになるまで」
ミラが三枚を見る。
「これ、どうするの?」
「使うよ」
一枚ずつ並べる。
端と端を合わせる。
「繋げる」
「繋げる?」
「うん」
糸で二枚を繋ぐ。
三枚目も。
小さな丸が三つ並んだ。
「こうすれば長くできる」
もう一列あるところを想像する。
「横にも繋げれば大きくできる」
ミラが見る。
「これなら、一枚ずつ作っておける」
「そう」
「注文が来てから必要な数を繋げてもいい?」
「いいんじゃない?」
「襟なら何枚、袖なら何枚って決めておけば……」
もう商売の話になった。
「同じ大きさならね」
「……だから揃えるの?」
「そう」
一枚だけ大きかったら、繋いだ時に歪む。
売り物なら困る。
「練習で作ったものも、綺麗なら使えるよ」
「無駄にならない?」
「ならない」
ミラが針を持った。
やる気が戻ったらしい。
鎖。
輪。
編む。
私は横で見る。
「そこ、きつい」
「これくらい?」
「もう少し緩く」
「難しい」
「慣れれば手が覚えるよ」
「おばさんは?」
「もう覚えてる」
「ずるい」
ずるくはない。
昔たくさん編んだからだ。
ミラが四枚目を作っている間、旦那さんが奥から出てきた。
手に、前に渡したレースを持っている。
色が変わっていた。
薄い青。
「染まった」
「綺麗」
ミラが手を止める。
「縮んだ?」
「少し」
机に置く。
染めていない同じレースと重ねる。
確かに少し小さい。
「これくらいなら、最初から大きめに作ればいいか」
ミラが言う。
旦那さんが首を振った。
「毎回同じだけ縮むとは限らない。糸と染料で変わる」
「じゃあどうする?」
「調べる」
やっぱり職人だ。
旦那さんが今度は三枚繋げたレースを見る。
「これも染めるのか?」
「一枚ずつ色を変えてもいいよね」
「先に染めた糸で編んでもいい」
「白と青を交互とか?」
「できるな」
また二人で始まった。
私は聞いている。
口は出さない。
二人の仕事だから。
しばらくして。
ミラの四枚目ができた。
最初の三枚と並べる。
「どう?」
「二枚目と同じくらい」
「一枚目は?」
「歪んでる」
「三枚目は?」
「大きい」
「使えない?」
「自分の服につければ?」
「売れないの?」
「売り物なら揃えた方がいいよ」
ミラが一枚目を見る。
「じゃあこれは私の」
それでいい。
次を編み始める。
私はすることがなくなった。
教えると言っても、ずっと手を出すものではない。
間違えたら言えばいい。
暇だ。
持ってきた糸を見る。
細い。
この前買った高い糸。
少し多めに買ってある。
「私も何か作ろうかな」
「また花瓶敷き?」
「違うの」
紙を一枚もらう。
まず花を描く。
大きな花。
横に葉っぱ。
茎を伸ばして、もう一つ。
絵は上手くない。
でも、自分で分かればいい。
「何それ?」
ミラが覗く。
「花」
「何にするの?」
「まだ途中」
花の上に、今度は縦と横の線を引く。
同じ大きさの四角に区切っていく。
「花、見えなくなったよ」
「いいの」
方眼編み。
絵の上から方眼を乗せて、花に重なるところを埋める。
何もないところは空ける。
一つ。
二つ。
三つ。
細かいところは少し直す。
葉っぱの先。
花びらの丸み。
全部そのままにはできない。
でも、離れて見て花に見えればいい。
「これが設計図?」
「そう」
「これで編めるの?」
「多分」
一度作ってしまえば、後は設計図を見ながら編むだけだ。
「何作るの?」
「テーブルクロス」
「どのテーブル?」
「家の」
「全部覆うの?」
「そのつもり」
ミラが設計図を見る。
私を見る。
「大変じゃない?」
「設計図できれば、後は簡単だよ」
「大きいよ?」
「暇だから」
「そっか」
納得された。
サラと同じだった。
その日は、ミラが小さなレースを二枚作った。
二枚とも、ほぼ同じ大きさだった。
私は家へ帰ってから、方眼編みを始めた。
一段。
二段。
まだ模様は見えない。
サラが覗く。
「何作ってるの?」
「花」
「花?」
「まだ茎にもなってない」
「いつできる?」
テーブルを見る。
大きい。
かなり大きい。
「分からない」
「明日?」
「無理」
「いっぱい?」
「いっぱい」
サラが頷いた。
私はまた針を動かす。
急ぐ必要はない。
時間はある。
暇だから。




