第45章 ①
暇になった。
サラが畑をやってくれるようになってから、かなり暇になった。
朝、畑を見る。
「モグルいっぱい」
土が動く。
終わる。
早い。
昔なら、土を耕して。
石を拾って。
根を取って。
畝を作って。
一日仕事だった。
今はサラがやる。
「終わった」
「早いね」
「うん」
本人も満足そうだ。
便利。
とても便利。
でも私の仕事がない。
温泉の掃除はする。
家のこともする。
内職があれば、それもする。
それでも時間が余る。
子供達が小さかった頃は、暇なんてなかった。
ご飯を作って。
洗濯して。
畑をやって。
誰かが何かをして。
誰かが何かを壊して。
イナが何かを盗んで。
毎日忙しかった。
今は静かだ。
ルークは依頼。
ニコは学校。
カイルとミラは、それぞれ自分の家。
サラは畑。
イナは寝ている。
「暇だね」
イナを見る。
尻尾だけ動いた。
暇ではないらしい。
何かしよう。
昔やっていたことを考える。
料理。
今もしている。
裁縫。
必要ならする。
編み物。
そういえば。
「レース編み」
昔、やっていた。
細い糸を針で編んで、模様を作る。
花瓶の下に敷くくらいの小さいもの。
棚に敷くもの。
少し大きくすれば、テーブルの上にも使える。
服にも使える。
襟。
袖。
裾。
細い糸なら繊細になる。
刺繍に使うような糸なら、模様もはっきりする。
「ミラにいいかも」
服を作っている。
旦那さんは染色職人だ。
編んだ後から染めることもできるかもしれない。
売れる。
多分。
私はお金が好きだ。
でも、これは私が売らなくてもいい。
ミラが使えばいい。
問題は。
「針がない」
糸はある。
こっちの普段使いの糸。
帆布を縫う位。
もっと細い糸もある。
刺繍や、貴族の服に使うもの。
高い。
今まで買ったことはなかった。
必要なかったから。
でも。
今回は趣味だ。
「買おう」
貯めておいても仕方ない。
使いたいものには使えばいい。
でも、レース編みに使う細い針は見たことがない。
作ってもらえばいいか。
昔使っていた物を思い出す。
細い。
先が少し曲がっている。
糸を引っ掛けられればいい。
私は紙を出した。
絵を描く。
細い棒。
先に小さな鉤。
「……こんな感じ」
多分。
これなら鍛冶屋で作ってもらえるだろう。
その日のうちに頼みに行った。
数日後。
細い針ができた。
少し太い。
でも使えそうだ。
もっと細いものも頼む。
糸も買った。
まず試す。
鎖を作る。
輪にする。
編む。
久しぶりなので少し遅い。
でも、手は覚えていた。
一段。
二段。
少しずつ模様ができる。
「何作ってるの?」
サラが覗き込む。
「花瓶敷き」
「花瓶?」
「の、下に敷く」
「何で?」
「綺麗だから」
サラが考えた。
「なくてもいい?」
「なくても困らない」
「何で作るの?」
「暇だから」
「そっか」
納得した。
そこは納得するらしい。
夕方には一枚できた。
思ったより早い。
久しぶりでも、これくらいならできる。
もう一枚。
今度は少し模様を変える。
次の日。
四枚になった。
「できた」
並べる。
悪くない。
一枚は細い糸。
一枚は少し太い糸。
残りは刺繍に使う色のついた糸で試した。
これなら服にも使える。
私は四枚を持った。
「どこ行くの?」
サラが聞く。
「ミラの家」
「売るの?」
「教えるの」
「商人は?」
「教えない」
サラが私を見る。
「何で?」
「今回はミラのだから」
商人には、もう色々教えた。
油。
カレー。
味噌。
他にもある。
十分だ。
これは娘にあげる。
私はレースを鞄に入れた。
それから、作ってもらった針も一本。
ミラなら、多分すぐ覚える。
旦那さんなら、染め方を考えるだろう。
二人で好きにすればいい。
私はミラの家へ向かった。




