第44章 ④
夕食の時、珍しくルークがいた。
今日は依頼がなかったらしい。
サラもいる。
ちょうどいい。
「ちょっと話がある」
二人が私を見る。
「何?」
「どうしたの?」
「私が死んだ後の話」
ルークの顔が変わった。
サラも止まった。
「何で?」
「六十過ぎたから」
「それ昨日も聞いた」
ルークが言う。
いつ話しただろう。
多分、商人との契約を変えた時だ。
「死ぬの?」
サラが聞いた。
「いつかは」
「いつ?」
「分からない」
寿命なので分からない。
サラが私を見る。
「明日?」
「多分違う」
「来年?」
「それも分からない」
「じゃあまだいい」
何がいいのだろう。
ルークがため息をついた。
「それで?」
「家と畑を二人に残そうと思ってる」
二人が黙った。
「あと洞窟」
ルークが顔を上げた。
「洞窟?」
「うん。今、商人ギルドに土地の登録ができるか調べてもらってる」
「何で洞窟まで?」
「また誰か来るかもしれないから」
少しだけ間があった。
ルークとサラが顔を見合わせる。
「俺達みたいに?」
「うん」
それで話は通じた。
あの洞窟は、二人が最初に暮らしていた場所だ。
私が来るより前。
ルークとサラとイナがいた。
二人は小さかった。
今考えると、本当に小さかった。
よく生きていたと思う。
「もしまた誰か来たら、困るでしょ?」
「うん」
サラが頷いた。
「だから、知らない人の土地にならないようにしておきたい」
「それで俺達に?」
「うん」
ルークは少し考えた。
「分かった」
早い。
「いいの?」
「いいよ。誰か来たら見に行けばいいんだろ?」
「困ってたら助けてあげて」
「分かった」
サラも頷いた。
「助ける」
やっぱり早い。
「あと、おばさん特価も二人に残した」
「何?」
ルークが聞いた。
「おばさん特価」
「まだ有ったの?」
「商人から原価で買えるやつ」
「あれ、おばさんだけじゃなかったの?」
「今まではね」
「残せるの?」
「昨日、契約変えた」
ルークが黙った。
「もう変えたの?」
「うん」
「俺達に聞く前に?」
「駄目だった?」
「駄目じゃないけど」
ならいい。
サラが聞く。
「安くなる?」
「原価」
「凄い」
分かりやすい。
「ただし、必要な分だけだって」
「うん」
サラなら大丈夫だろう。
ルークも変な使い方はしないと思う。
「カイル達には?」
ルークが聞いた。
「残さない」
「何で?」
「もう自分の家があるから」
「ニコは?」
「自分で稼ぐでしょ」
「俺も稼いでるけど」
「知ってる」
「じゃあ何で俺は?」
「ここに帰ってくるから」
ルークが止まった。
サラも私を見る。
「サラもここにいるし」
「うん」
「だから二人」
それだけだ。
二人がこの家にいるなら。
私がいなくなった後も、ここで暮らすなら。
少しでも楽な方がいい。
「貯めてるお金もある」
ルークが嫌そうな顔をした。
「まだあるの?」
「あるよ」
「まだ何かする気?」
「整理してるだけ」
「急に整理しすぎじゃない?」
そうだろうか。
六十を過ぎた。
いつ何があるか分からない。
元気なうちにやった方がいい。
「死んでからじゃできないし」
「それはそうだけど」
サラが私を見る。
「おばさん」
「何?」
「明日もいる?」
「いると思う」
「温泉?」
「掃除する」
「じゃあいい」
またそれだった。
ルークがサラを見る。
「それでいいの?」
「明日いる」
「……まあ、そうだけど」
私もそう思う。
先のことは分からない。
でも明日はいる予定だ。
「それで、お金はどうするの?」
ルークが聞いた。
「まだ決めてない」
「決めてないんだ」
「今から」
土地。
契約。
お金。
他に何かあるだろうか。
考える。
イナが足元に来た。
私を見る。
「イナ?」
尻尾を振る。
ご飯が欲しいらしい。
「イナは?」
サラが聞いた。
「イナは元気だね~。毛並みも良いし」
多分、私より長生きするだろう。




