第44章 ③
商人との契約を変えた次の日。
商人ギルドへ行った。
受付で名前を言う。
すぐに奥へ通された。
昔はこんなことなかった。
多分。
ギルドマスターの知り合いだからだ。
案内された部屋に入る。
おばちゃんの息子がいた。
机の向こうに座っている。
偉そうだ。
いや。
偉いのだった。
「今日はどうしました?」
「聞きたいことがある」
「何です?」
「私の家って、私のもの?」
ギルドマスターが止まった。
「……今さら何を言ってるのでしょうか?」
「私のもの?」
「みーさんのものですよ」
良かった。
「じゃあ畑は?」
「畑?」
「家の周りの」
「ああ」
ギルドマスターが少し考えた。
「使っているのは貴女達ですね」
「私のもの?」
「いえ」
違った。
「何で?」
「何でって。土地の所有登録をしてないですよ」
知らない。
「家は?」
「家を建てた時に登録してあります」
「畑は?」
「開墾して使っているだけですよ」
「十年以上?」
「十年以上でも」
面倒だ。
ずっと使っていたので、私のものだと思っていた。
「私のにできる?」
「できると思いますが、範囲を確認しないと駄目ですね」
「じゃあお願い」
「お待ちください。どこまでですか?」
どこまで。
考える。
家。
畑。
増えた畑。
その周り。
「洞窟も」
「洞窟?」
「最初に住んでたところ」
「あそこまで?」
「うん」
ギルドマスターが私を見る。
「随分広いですよ?」
「駄目?」
「駄目とは言ってません。ただ、何で洞窟までいるんですか?」
「また誰か来るかもしれないから」
ギルドマスターが黙った。
「誰か?」
「ルークやサラみたいに」
それで分かったらしい。
少しだけ顔が変わった。
「……また来ると思いますか?」
「分からない」
ルーク達は来た。
突然。
何も知らない場所へ。
近くに洞窟があった。
だから何とかなったと思う。
多分。
もし。
また誰かが同じ場所へ来たら。
そこが知らない誰かの土地になっていたら困る。
「絶対来ないとも言えないでしょ?」
「そうですね」
「だから残しておきたい」
ギルドマスターが椅子にもたれた。
少し考えている。
「洞窟と、その周辺も含めて?」
「うん」
「温泉は?」
「いらない」
「そこは即答なんですね」
「みんな使ってるじゃん」
温泉は私のものではない。
掃除はしているけれど。
商人ギルドも冒険者ギルドも使っている。
今さら私のものにしても困る。
「家と畑。それから洞窟と、その周り」
「分かりました。土地の記録を確認します。他に所有者がいないかも調べます」
「いたら?」
「話はそこからですね」
いないといい。
「登録には金もかかりますよ」
「払うよ」
「珍しく素直ですね」
「私のものになるんでしょ?」
「登録できれば」
「じゃあ払う」
必要なお金は払う。
そういうものだ。
ギルドマスターが何か書き始めた。
「それで、急にどうしました?」
「何が?」
「今まで十年以上、土地のことなんて気にしてませんでしたよね」
そうだった。
畑を増やす時も気にしていなかった。
使えるから使った。
「六十過ぎたから」
手が止まった。
ギルドマスターが顔を上げる。
「それが?」
「いつ死んでもおかしくないでしょ」
「……それで土地の整理ですか」
「うん」
また黙った。
何だろう。
「母さんがいたら怒りますよ」
おばちゃん。
「何で?」
「そんな簡単に死ぬ話をするなって」
「でも死ぬよ?」
「いつかは」
「この世界なら、もう十分おばあちゃんだよ?」
「知ってます」
ならいいと思う。
ギルドマスターは何故かため息をついた。
「土地を自分のものにして、その後どうするつもりです?」
「ルークとサラに残す」
「全部?」
考える。
「家と畑も二人でいいかな」
二人ともここを家にしている。
カイルとミラには自分の家がある。
ニコも自分の道を選ぶだろう。
「洞窟も?」
「それは二人に」
「理由はさっきのですか」
「うん」
ルークとサラなら分かる。
あの洞窟で暮らしていた二人だから。
もし。
私がいなくなった後。
あそこに誰かが来たら。
「助けてくれると思う」
ギルドマスターが私を見る。
「ルークとサラが?」
「うん」
「本人達には話したのか?」
「まだ」
「先に話してください」
そうだった。
でも多分大丈夫だ。
サラなら。
誰か来た。
困っている。
それだけで十分だと思う。
ルークも、多分。
「登録できるか調べてから話す」
「それならいい」
ギルドマスターが書類をまとめた。
「数日ください。土地の記録を調べて、人も出して境界を確認します」
「お願い」
立ち上がる。
これでまた一つ。
やることが進んだ。
「みーさん」
呼ばれた。
振り返る。
「何?」
「まだ死なないでください」
何を言うのかと思った。
「分からないよ」
「そこは分かったって言ってくださいよ」
無理だ。
寿命は約束できない。
でも。
「明日は温泉掃除するよ」
「……そうですか」
「うん」
明日の予定はある。
それで十分だと思う。




