第43章 ⑤
ルークが出かける準備をしていた。
「どこ行くの?」
「ギルド」
「何か依頼?」
「違うよ」
荷物を確認している。
剣。
杖。
小さな鞄。
昨日は畑を焼いていたのに。
今日は冒険者みたいだった。
いや。
これから冒険者になるのだった。
「登録してくる」
「今日?」
「うん」
そうだった。
帰ってきた日に言っていた。
冒険者になると。
「一緒に行く?」
聞いてみた。
ルークが少し笑った。
「大丈夫」
断られた。
昔なら一緒に行ったかもしれない。
八歳で修行に出た。
七年経って。
もうすぐ十六歳。
一人でギルドへ行って。
一人で冒険者になるらしい。
少し寂しい。
でもついて行くほどではない。
「気をつけてね」
「登録するだけだよ」
「帰り道もある」
「何年ここに住んでると思ってるの」
そうだった。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ルークが出ていった。
私は見送った。
サラも隣にいた。
「サラは行かないの?」
「畑」
迷いがなかった。
今日は昨日焼いたところを耕すらしい。
兄妹で随分違う。
一人は冒険者。
一人は畑。
どちらも七年間修行した。
まあいい。
本人達が決めたことだ。
◇
昼前。
ルークが帰ってきた。
早い。
「おかえり」
「ただいま」
「なれた?」
「なれたよ」
何かを見せてくる。
小さな札だった。
冒険者の証らしい。
受け取って見る。
名前がある。
ルーク。
他にも色々書いてある。
読めるものと分からないものがあった。
「一流?」
「何が?」
「冒険者」
「違うよ」
違うらしい。
「新人」
「一流魔法使いなのに?」
「魔法使いとしての腕と、冒険者としての実績は別だから」
なるほど。
当たり前だった。
魔法が上手だからといって、依頼をたくさんこなしたことにはならない。
「じゃあ一番下?」
「そう」
面白い。
七年間修行して。
師匠から一流と言われて。
冒険者になったら一番下。
「嫌じゃない?」
「別に」
ルークは気にしていなかった。
「これから上げればいいし」
そういうものらしい。
「依頼も見てきた?」
「見てきた」
「何するの?」
「最初は近くの採取か、町の外の簡単な討伐かな」
討伐。
少し嫌な言葉だった。
「危なくない?」
「危なくない仕事からやるよ」
「本当に?」
「本当に」
ルークが笑う。
「師匠にも言われてる。魔法が使えるからって、冒険者として何でもできると思うなって」
師匠、ちゃんと教えていた。
「魔物を倒すだけが仕事じゃないし、依頼人との話とか、道の選び方とか、野営とか、素材の扱いとか。覚えることはまだあるから」
「いっぱいあるね」
「うん」
一流なのに。
まだ覚えることがある。
でもそれでいいのだと思う。
もうすぐ十六歳だ。
全部できる方がおかしい。
「最初の依頼、いつ?」
「明日」
早い。
「何するの?」
ルークが少し黙った。
「薬草採取」
私はルークを見る。
「薬草?」
「うん」
「魔物は?」
「倒さない」
「剣は?」
「多分使わない」
「魔法は?」
「多分使わない」
昨日。
一流魔法使いは畑を焼いた。
明日薬草を摘む。
「いいと思う」
「笑ってる?」
「笑ってない」
少しだけ笑っていた。
「最初なんだから、それでいいじゃん」
「俺もそう思ってるよ」
ルークも笑った。
サラが外から戻ってきた。
服に土がついている。
「ルーク」
「なに?」
「冒険者なった?」
「なったよ」
札を見せる。
サラが見る。
「凄い?」
「まだ一番下」
「そうなの?」
「新人だから」
サラが考える。
「私、上級」
「魔法はね」
「ルーク、一流」
「魔法はね」
「冒険者、一番下」
「そうだよ」
サラがさらに考える。
「弱くなった?」
「なってないよ」
私は笑った。
ルークが私を見る。
「笑ってるじゃん」
「今のはサラ」
「おばさんも笑っただろ」
そうだけど。
ルークは冒険者になった。
一番下から。
それでいい。
七年間の修行は終わった。
今日からは自分で選んだ道を歩く。
とりあえず明日は薬草を摘みに行くらしい。
修行にでるまでは、毎日やっていたから大丈夫だろう。




