第43章 ②
翌朝私はサラと畑に出た。
師匠もいる。
今日帰るらしい。
その前に、サラが畑で何をするのか見届けたいと言った。
ルークもいる。
暇なのかもしれない。
「ここ?」
サラが聞く。
「ここ」
冬の間に固くなった土を指す。
そろそろ起こしておきたかった。
今までは鍬で少しずつやっていた。
カイルやルークがいる時は手伝ってもらった。
結構大変だった。
腰にもくる。
今は大丈夫だけど。
気持ちの問題だ。
腰は大事にしたい。
「どこまで?」
「この畑全部」
サラが畑を見る。
端から端まで。
結構広い。
「分かった」
師匠が腕を組んだ。
「どうする気だ?」
「耕す」
「それは聞いた」
サラが地面を見る。
しばらく考える。
師匠も見る。
私も見る。
何も起きない。
「サラ?」
「考えてる」
「何を?」
「モグル」
やっぱりモグルか。
しばらくして、サラが顔を上げた。
「できる」
「何匹?」
師匠が聞く。
サラが畑を見る。
また考える。
「いっぱい」
師匠が黙った。
「……いっぱい?」
「うん」
「数は?」
「分からない」
「昨日まで数字だっただろ!」
「多いから」
師匠が額を押さえた。
私は畑を見る。
確かに広い。
数えるのは大変そうだ。
「別にいいんじゃない?」
「良くない!」
「発動するなら」
「そこなんだよ!」
師匠が何か言っている。
サラはもう聞いていなかった。
畑の真ん中へ歩いていく。
しゃがむ。
土に手を触れた。
「モグルいっぱい」
地面が動いた。
最初は小さく。
ぼこ。
少し離れたところも。
ぼこ。
ぼこぼこ。
次の瞬間。
畑全体が動き始めた。
「おお」
土の表面が波打つ。
でも大きく盛り上がるわけではない。
一定の深さまで土がほぐれていく。
固まっていた土が崩れる。
石が押し出される。
畑の端へ転がっていく。
去年の作物の細い根も土から浮いた。
耕運機だ。
サラだけど。
しばらくして。
止まった。
静かになった。
サラが立つ。
「終わり」
早い。
私は畑へ入った。
しゃがんで土を触る。
柔らかい。
掘ってみる。
下まで柔らかい。
「凄い」
「うん」
サラが嬉しそうだ。
師匠も畑へ入ってきた。
土を見る。
少し掘る。
別の場所へ行く。
また掘る。
何をしているのだろう。
「どうしたの?」
「深さを見てる」
「何で?」
「いいから」
師匠は何ヶ所か調べた。
畑の端も見る。
石が集まっているところも見る。
やがて戻ってきた。
「……揃ってる」
「何が?」
「耕した深さだよ」
へえ。
「石も除けてる。残ってた根も上げてる」
「便利だね」
「便利で終わらせるな」
また怒られた。
師匠がサラを見る。
「お前、どこまで考えてやった?」
サラが畑を見る。
「ここまで掘る」
手で深さを示す。
「石は邪魔だから外」
「根は?」
「邪魔だから上」
「畑の外は?」
「掘らない」
「下は?」
「掘らない」
師匠が黙った。
「どうしたの?」
私が聞く。
師匠が私を見る。
「これ、結構難しいんだぞ」
「そうなの?」
「この広さを一度に動かして、深さを揃えて、必要なものだけ分けて、範囲の外へ影響を出してない」
私は畑を見る。
綺麗だった。
「上級?」
「だから昨日から上級だって言ってるだろ!」
そうだった。
サラを見る。
「凄いね」
「うん」
嬉しそうだった。
師匠がため息をつく。
「なのに発動が『モグルいっぱい』なんだよ……」
そこが気になるらしい。
「分かりやすいよ?」
「どこがだよ!」
「いっぱい使ったんだなって」
「それしか分からないだろ!」
確かに。
ルークが笑った。
「俺も何匹いるのか分からない」
「ルークも?」
「サラしか分からないよ」
そういうものらしい。
私はサラを見る。
「強いの?」
師匠が少し考えた。
「魔法は強い」
「魔法は?」
「まだ遅い」
「何が?」
「発動までだよ」
師匠がサラを見る。
「こいつは何をするか決めてから、範囲、深さ、動かすもの、動かさないもの、そういう条件を頭の中で一つずつ確認する」
さっき長かったやつだ。
「畑ならいい。待ってくれるからな」
「畑は逃げないね」
「そういうことだ」
「じゃあ戦うのは苦手?」
「今はな」
今は。
師匠はそう言った。
「魔法の扱いは上級だ。制御もできる。威力もある。ただ実践が足りない」
「まだ十三だしね」
「そういうこと」
師匠が頷いた。
「経験を積めば、いちいち考えなくてもできることが増える。そうなれば発動も速くなる」
サラが師匠を見る。
「いっぱい使えば?」
「数の問題じゃない!」
また怒られた。
「モグル百でも、一でも同じだ。何をさせるか決めるのが遅いんだよ」
「考えないと危ない」
「だから今はそれでいい」
師匠の返事はすぐだった。
私は師匠を見る。
怒らないらしい。
「急いで雑になるよりはいい。今はちゃんと考えろ」
「うん」
「そのうち考えなくてもできるようになる」
「うん」
サラが頷いた。
師匠も頷く。
ちゃんと師弟だ。
「じゃあ畑は?」
私が聞く。
師匠が私を見る。
「何でそこで畑に戻る」
「実践になる?」
師匠が止まった。
畑を見る。
サラを見る。
また畑を見る。
「……なる」
なるらしい。
「毎日やれば?」
「範囲を決める。深さを決める。動かすものを選ぶ。影響を出さない場所を決める」
「今日やったね」
「やったな」
「練習になるね」
師匠が嫌そうな顔をした。
「なるよ」
良かった。
サラを見る。
「サラ」
「なに?」
「畑、手伝って」
「うん」
「待て」
師匠が止めた。
「何?」
「あたしは今、上級魔法の実践について話してたんだぞ」
「だから畑で」
「間違ってないのが腹立つんだよ!」
難しい人だ。
サラは畑を見る。
「いっぱい練習する」
「モグルを?」
「畑」
師匠が空を見た。
七年間育てた上級土魔法使いが。
畑仕事を始めることになった。
でも。
練習にもなるらしい。
とても助かる。




