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第42章 ② 

朝食を終えて、ギルドへ向かった。


今日も全員一緒だったが、イナは留守番。


ギルドへ着く。


昨日使った部屋へ通された。


すでに役人が二人いた。


机の上には、小さな箱が置かれている。


木の箱だった。


金具が付いている。


「こちらを使います」


役人が箱を開けた。


中に入っていたのは、白い板だった。


石みたいに見える。


真ん中に細い溝があって、その横には小さな針。


「血を使うんですか?」


私が聞く。


「はい。一滴ずついただきます」


やっぱり血か。


「痛い?」


ニコに聞く。


「僕に聞かれても分からないよ」


そうだった。


まだ刺していない。


役人が少し笑った。


「針を刺しますので、多少は」


「痛いじゃん」


「一滴だから大丈夫」


ニコが言う。


本人が言うなら大丈夫らしい。


隣を見る。


サラがニコの指を見ていた。


嫌そうな顔をしている。


「サラもやる」


「必要ありません」


役人が即答した。


「でも」


「サラとは調べなくていいんだよ」


ニコが言う。


「なんで?」


「血が繋がってないから」


サラが黙る。


少し考えた。


「家族なのに?」


「家族だけど」


「じゃあ繋がってる」


ニコも黙った。


役人も黙った。


私はサラを見る。


難しい。


多分、サラの中では繋がっている。


「今日は別の《繋がってる》を調べるんだよ」


そう言うと、サラはしばらく考えてから頷いた。


「分かった」


分かったらしい。


しばらくして、扉が開いた。


伯爵家の人達が入ってくる。


伯爵。


伯爵夫人。


オットー。


その妻。


昨日と同じ顔だった。


少し違うのは、今日は誰もニコへ近付かなかったこと。


役人が先に説明を始める。


「今回使用するものは、血縁関係を確認するための魔道具です。国及び教会が管理するもので、相続や身元確認など、正式な証明が必要な場合に使用されます」


伯爵が頷く。


「承知している」


私は知らなかった。


多分、知らなくても困らない。


「魔力の有無は関係ありません。血液そのものから血縁の近さを確認します」


役人が白い板を示した。


「今回はニコさんと、オットー様夫妻の血液を比較します」


ニコを見る。


「大丈夫?」


「うん」


落ち着いている。


私より落ち着いている気がする。


最初はオットーだった。


針で指先を刺す。


血を一滴。


白い板の端へ落とす。


次は妻。


同じように一滴。


最後にニコ。


ニコが手を出す。


その横でサラが見ている。


ものすごく見ている。


針が刺さった。


ニコの眉が少し動いた。


「痛かった?」


「ちょっと」


やっぱり痛いらしい。


一滴の血が板へ落ちる。


役人が魔道具へ手を添えた。


白い板の溝に、淡い光が走る。


ニコの血を落とした場所から二本。


ゆっくり伸びていく。


一つはオットーの血へ。


もう一つは、その妻の血へ。


二本とも繋がった。


誰も話さない。


光はしばらく残っていた。


役人が確認する。


もう一人の役人も確認した。


記録へ書き込む。


それから顔を上げた。


「確認できました」


伯爵夫人が息を呑む。


オットーの妻が口元を押さえた。


役人は続けた。


「両名との親子関係を示す反応が出ています」


ニコを見る。


「ニコさんは、九年前に行方不明となったニコラス様本人と判断して問題ありません」


本当にそうだった。


ニコは伯爵家の子供だった。


九年前に消えた。


三歳の子。


それがニコだった。


オットーの妻の目から涙が落ちた。


「ニコラス……」


ニコは何も言わなかった。


自分の指先を見ている。


サラがその手を取った。


血が出た方ではない手。


ぎゅっと握る。


ニコも振りほどかなかった。


伯爵が一歩前へ出た。


「これで疑いはなくなった」


声が少し強くなっている。


「ニコラスは、間違いなくグライナー家の――」


「確認されたのは血縁関係です」


役人が言った。


伯爵が止まる。


「何?」


「本日の確認によって証明されたのは、ニコさんとオットー様夫妻との親子関係です」


役人は記録を閉じた。


「居住先や今後の身分については別の話になります」


伯爵の顔が変わった。


「だが、未成年だ」


「その点も含めて協議が必要です」


「実の両親がいる」


「九年間の養育実態もあります」


役人が私を見る。


私も見る。


なんでこっちを見るんだろう。


「そして本人は、昨日すでに伯爵家への移住を拒否しています」


伯爵がニコを見る。


ニコも伯爵を見る。


「ニコラス」


「ニコです」


静かな声だった。


伯爵が止まる。


ニコは続けた。


「僕はニコです」


「だが、お前は今確認された通り――」


「血が繋がっていることは分かりました」


ニコはサラと手を繋いだままだった。


「でも、昨日言ったことは変わりません」


伯爵夫人が俯く。


オットーは黙っている。


妻だけがニコを見ていた。


ニコは一度、私達を見る。


ルーク。


サラ。


カイル。


ミラ。


最後に私。


それから伯爵家へ向き直った。


「僕はそちらには戻りません」


少し違った。


昨日は。


行きません。


今日は。


戻りません。


多分、ニコの中では。


帰る場所はもう決まっている。

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