第42章 ①
翌日朝食の準備をする。
昨夜は子供達全員、家に泊まった。
暫くぶりの賑やかさだ。
鍋を火にかける。
パンを切る。
残っていたシチューも温める。
昨日は伯爵家。
役人。
血縁確認。
色々あったが朝は来る。
ご飯も作る。
変わらない。
「おはよう」
ニコが来た。
少し眠そうだった。
「おはよう」
席へ座る。
机を見て固まった。
「どうした?」
「カルト芋」
机の上を見る。
カルト芋だった。
昨日、商人から貰った。
蒸してある。
熱い。
美味しい。
ニコの好物だった。
「食べていいよ」
ニコが手を伸ばす。
その瞬間だった。
横から黒い影。
イナだった。
早い。
ニコも気付く。
「駄目」
カルト芋を抱える。
イナの鼻先を避ける。
イナは諦めない。
尻尾を振りながら狙っている。
「イナ」
「わふ」
反省していない。
ニコは急いで食べ始めた。
大きめに齧る。
熱かったらしい。
少し顔をしかめる。
でも急いで食べる。
イナが狙っているから。
「誰も取らないよ」
ミラが言う。
「取る」
ニコが即答した。
イナを見る。
イナも見ている。
多分取る。
「わふ」
「ほら」
「取る」
やはり取るらしい。
ルークが笑う。
サラも笑った。
「昔からだもん」
サラが言う。
「そうだった?」
ミラが聞く。
サラが頷く。
「ニコ遅い」
「イナ早い」
それだけだった。
でも正しかった。
三人が小さかった頃。
ニコは食べるのが遅かった。
イナは狙うのが早かった。
だからサラは何度もニコのカルト芋を守っていた。
抱えて逃げた。
隠した。
見張った。
ニコはその間に食べた。
今もあまり変わらない。
「守る?」
ニコが聞く。
「守る」
サラが頷く。
「何から?」
サラは迷わなかった。
「イナ」
即答だった。
ルークが吹き出す。
カイルも笑った。
「確かにな」
ミラも頷く。
イナだけが納得していなかった。
朝食を食べる。
パン。
シチュー。
カルト芋。
いつも通りだった。
ニコは最後まで警戒していた。
カルト芋を守り切る。
勝利して満足そうだ。
「そういえば」
ミラが言う。
「血縁確認っていつなの?」
部屋が静かになる。
ニコも手を止めた。
私は考える。
知らない。
「分からない」
「おばさんらしい」
カイルが言った。
失礼だな。
でも本当に知らない。
その時玄関を叩く音がした。
全員が見る。
朝早い。
珍しい。
私は立ち上がる。
扉を開けた。
ギルドの職員だった。
嫌な予感がする。
大体当たる。
「おはようございます」
「おはよう」
職員は一枚の紙を差し出した。
「ギルドマスターからです」
受け取る。
読む。
小さい。
少し離す。
読めた。
「何て?」
カイルが聞く。
私は紙を見る。
それから答えた。
「今日」
全員が待つ。
「血縁確認するらしい」
部屋が静かになる。
ニコは少し考えた。
それから残っていたカルト芋を抱えた。
「何してるの?」
ミラが聞く。
「念のため」
「何が?」
ニコは真顔だった。
「伯爵に取られないように」
ルークが吹き出した。
カイルは机に突っ伏す。
サラは慌ててニコの隣へ座った。
そして服を掴む。
「大丈夫」
「何が?」
「守る」
「何から?」
サラは少し考えた。
それから言った。
「全部」
部屋が静かになる。
ニコは少しだけ目を丸くした。
でも何も言わない。
私はニコを見る。
サラも見る。
服は離さない。
九年前もそうだった。
温泉の小屋から来た日も。
手を握った。
隣に座った。
離さなかった。
今も変わらない。
ニコは少し考える。
それからイナを見る。
イナもカルト芋を見ていた。
「イナの方が危ない」
私が言う。
ニコは頷いた。
「確かに」
サラも頷く。
「イナ危ない」
イナだけが納得していなかった。




