第41章 ⑩
会議が終わった。
役人達は書類を片付けている。
伯爵家の人達も立ち上がった。
誰も大きな声は出さない。
静かだった。
ニコも立ち上がる。
その時だった。
「ニコ!」
サラが走ってきた。
勢いよく抱き付く。
ニコが一歩よろけた。
でも倒れない。
慣れている。
「帰る!」
サラが言う。
「帰る」
ニコが答えた。
「帰ろう!」
「うん」
話は終わったらしい。
サラの中では。
ルークも来る。
何も言わない。
でも。
ニコの隣に立った。
それだけだった。
私は聞く。
「帰る?」
「帰る」
今度は全員だった。
ギルドを出る。
後ろから声がした。
「ニコラス」
振り返る。
オットーの妻だった。
ニコも止まる。
女性は少し迷っていた。
何を言うか考えているらしい。
でも。
結局。
「元気でいてくれて良かった」
それだけだった。
ニコは黙っている。
女性も続けない。
しばらくして。
ニコが小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
女性は少し笑った。
でも目は赤かった。
それ以上は何も言わない。
私達は歩き出した。
商店街を抜ける。
市場の横を通る。
いつもの道だった。
サラはずっとニコの手を握っている。
離さない。
昔からだった。
九年前。
温泉の小屋から連れて来られた時もそうだった。
知らない子供が三人いた。
カイルとミラは警戒していた。
ニコは何も分かっていなかった。
でも。
サラだけは違った。
手を握った。
隣に座った。
離さなかった。
それから九年。
今も変わらない。
「何?」
ニコが聞く。
「何でもない」
サラが答える。
何でもないらしい。
でも離さない。
家へ帰る。
夕食を作る。
今日はシチューだった。
サラが野菜を洗う。
ルークが薪を運ぶ。
ミラが手伝う。
カイルは食器を並べる。
ニコも立ち上がろうとした。
でも。
サラが服を掴んだ。
「座る」
「何で?」
「今日は座る」
理由はないらしい。
ニコが困った顔をする。
ミラが笑った。
カイルも笑う。
ルークも少し笑った。
私は鍋を混ぜる。
シチューの匂いが広がる。
そのうちパンも焼けた。
夕食になる。
いつもの席。
いつもの食事。
いつもの声。
ニコはスプーンを持ちながら周りを見る。
ルーク。
サラ。
カイル。
ミラ。
イナ。
私。
皆いる。
誰もいなくならない。
サラは隣だった。
当然みたいに座っている。
そして。
やっぱり服を掴んでいた。
「サラ」
「何?」
「離して」
「やだ」
即答だった。
皆が笑う。
ニコも少し笑った。
外では色々ある。
伯爵家も来た。
血縁確認も残っている。
でも。
今は家だった。
ニコはパンを一つ取る。
サラも取る。
イナは肉を見ていた。
私はシチューをよそう。
いつもと同じだった。
だから大丈夫だと思った。




