第41章 ⑨
会議室は静かだった。
役人達もギルドマスターも誰も話さない。
血縁確認。
その言葉が出てから。
皆、考えていた。
最初に口を開いたのはニコだった。
「一つだけ」
静かな声だった。
でもよく聞こえた。
「聞いてもいいですか」
伯爵が頷く。
「構わない」
ニコは少しだけ考えた。
それから聞く。
「九年間」
部屋が静かになる。
「僕を探していましたか」
誰も動かない。
オットーも。
その妻も。
伯爵も。
「探した」
伯爵が答えた。
「最初の一年は」
ニコは頷いた。
聞いている。
最後まで。
「その後は?」
誰も答えなかった。
会議室が静かになる。
長かった。
でも。
ニコは急かさない。
やがて伯爵が口を開く。
「記録として残る形では行っていない」
それが答えだった。
ニコは頷く。
怒らない。
責めない。
ただ聞く。
「何故ですか」
今度はオットーが顔を伏せた。
「見つからなかった」
小さな声だった。
「何年探しても」
「何も出てこなかった」
「だから」
そこで止まる。
続かなかった。
ニコは黙っている。
私は隣で聞いていた。
難しい話だった。
でも。
一つだけ分かる。
見つからなかったから。
探すのをやめたらしい。
「そうですか」
ニコが言った。
静かな声だった。
それだけだった。
怒らない。
泣かない。
でも。
何かが終わった音がした。
そんな気がした。
「血縁確認が終わったら」
伯爵が言う。
「改めて話を――」
「行きません」
ニコが言った。
部屋が静かになる。
「まだ結果は出ていない」
伯爵が言う。
「結果が出てもです」
ニコは答えた。
迷わなかった。
「血縁関係が認められても」
「僕はそちらには行きません」
オットーの妻が息を呑む。
でも。
ニコは続けた。
「僕は三歳でした」
「覚えていません」
「だから血の繋がりがあるかもしれません」
伯爵を見る。
オットーを見る。
その妻を見る。
「でも」
そして。
私を見る。
ルークを見る。
サラを見る。
カイルを見る。
ミラを見る。
おばちゃんを見る。
商人を見る。
ギルドマスターを見る。
「僕には家族がいます」
誰も喋らなかった。
「おばさんがいて」
「ルークとサラがいて」
「カイルとミラがいて」
「イナもいます」
少しだけ考える。
「おばちゃん達もいます」
おばちゃんが鼻を鳴らした。
でも少し嬉しそうだった。
「だから行きません」
静かな声だった。
それでも。
誰よりも強かった。
「もし僕が首席じゃなかったら」
ニコが言う。
伯爵が顔を上げる。
「迎えに来ましたか」
誰も答えなかった。
オットーも。
その妻も。
伯爵も。
答えない。
答えられない。
それが答えだった。
私はニコを見る。
ニコは前を向いていた。
泣いていない。
震えてもいない。
ただ少しだけ大人に見えた。




